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10話 『財宝』

 迷宮の最奥には財宝が眠る。

 その理由は最下層に居る竜種が輝く物が好きな為だ。

 ……とか、そんな噂も囁かれたりするが、実際は異なる。


 まず、竜種は基本的に決まった場所に滞在しない。

 まして、特定の物に執着もしない。

 更に言えば世界を巡るのが本能的な特性であるため、方向性的にも真逆である。


 とは言え、収集癖がある魔物も存在するので迷宮に財宝が貯まることもあるし、竜種の中にも例外は居るのかもしれない。

 おいら――つまり、竜種の卵がここにあった以上、ここに居たのは竜種で間違いないので、可能性としては後者のレアケースだろうか。

 それを目の前の状況が表している。


「うーん。思ったより良い物はないなー」


 ナギは目の前に積み重なった財宝(・・)を、ゴミの山を漁る様にこれでもないと無造作に散らかしていく。

 確かに、金や銀に輝いている明らかな財宝と呼べる財宝が散らばっている訳ではない。

 多くあるのは剣や鎧といった武具の類。

 それ以外は、椅子や鎖、壺といった日用品といった類だ。

 ナギには価値が判っていないようだが、実際それらは見るものが見れば文字通り財宝になる。


 どの品からも強い魔力を感じる。

 剣は軒並み魔剣であろうし、なんの変哲もない置物1つ取っても何かしらの特殊な効果を持ち合わせているだろう。

 それらの道具は、その全てが迷宮が生み出した特殊な道具――もしくは、太古の時代から存在する伝説級の道具すら混じっているのではないだろうか。


「お! いいのがあった。ほら、アルク。見てみてよ」


 ナギが道具の山から見つけ出したのは、手の平に乗るような装飾品だ。

 無色透明な宝玉の周りを銀色の金属が巻き付いている。

 形状からすると何かしらの護符といったところだろうか。

 しかし、この護符からは他と比べてそこまで強い魔力を感じない。

 魔力の根元も感じないし、何かしらの封印がされている感じすらする。

 様々ある財宝の中から選んだにしては、外れを引いたのではないだろうか。


「ガウゥ」


「そうだよな。あまりいっぱい持っていってバレても困るし、今日は一回帰るか。また来れば良いしね」


 外れである事を伝えたつもりだったが、結局、意志は伝わらなかった。

 とは言え、どの様な効果があるか不明な道具を無意識に使用してしまうリスクを考えれば、外れを引いて良かったのかもしれない。


「じゃあ、えっと……。あ、こんなもんかな。さて、行こう、アルク」


 ナギは財宝の中から小さな鎖を見つけると、それを先程の護符の隙間に通して首から提げた。

 その鎖からは強い力を感じるので、今の組み合わせではチグハグな印象だ。

 とにかく、ナギは財宝の山から離れて来た道を戻り始めた。

 付いていく義理は無いのだが、財宝の山より、ナギがどうやってここまで来れたかの方が興味があるので、ナギの後ろを素直に付いていく事にする。



  ◇  ◇  ◇



「着いたよ、アルク」


 その場所には、神族が好む様なデザインがされた白い石が積み重なっている。

 それは、そこだけが他と違う訳でもなく、これまで歩いてきた箇所の何処にでもあったもの――要するに壁だ。

 至って普通の壁であり、そこに隠し扉や仕掛けがありそうな気配も感じない。


「グアア」


 実際に前脚で壁を叩いてみるが、やはり何も無い。


「あー、ちょっとごめん」


 ナギは壁を叩くおいらの後ろに回り込むと、そのまま背後から手を入れておいらを持ち上げた。

 その行為を特別不快には思わないが、自由を束縛されるのはあまり好ましいとは思わない。

 そのため、身をよじって抜けだそうかと考えていたところ、予想外の事が起きた。


「不思議でしょ。でも、元からおかしかったからね。こっちの方が自然なんじゃない?」


 そんなナギの声がした後、地面へと下ろされた。

 そのまま後ろを振り替えると、そこにあるのは岩壁だ。

 先程のようなデザインされた壁ではなく、無骨な洞窟をイメージさせる。

 触れてみてもその質感は岩そのものだ。

 先程の様な、泥に埋もれる(・・・・・・)様に沈み混む事はない。


 しかし、別に岩に沈み込む事自体は問題ではない。

 神族であれば、その様な魔法を使う事もあるし、神族がわざわざ岩に沈み込むのが普通である世界を創造したのであれば可能になる。

 だが、目の前のナギはどう見ても人間であるし、産まれた時――言語を世界から理解した際に認識した世界のルールにそんなものは無かった。

 つまりは、人間であるナギが魔法を使ったという話になるわけだけれど。


「グワワ」


「まぁ、後は戻るだけなんだけど、確かにちょっと大変そうだね」


 ナギは今使った魔法については特別説明するつもりはなかった様だ。

 ナギが向く方向を見れば、そこは先が判らない程の登り坂が続いている。

 子供のナギにとってみれば確かに大変ではある。


 その道は明らかに1本道だ。

 迷宮の隠し通路――そう考えれば自然なのかもしれないが、この洞窟と先程の迷宮では漂っている魔力の質も量も全く異なる。

 完全に別の迷宮だ。


 迷宮の壁を抜けたら別の迷宮に入り込んだ。

 一言で言えばそうなるが、迷宮から無理やり抜け出すなんて、本来それ相応の力が必要な筈だ。

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