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1話 『遭遇』(side:『火竜』)

4部作の最終物語です。

過去3作を結ぶ完結編となりますが、単独でも1つの物語になる筈です。

気分が乗ればそちらにも目を通して頂けると幸いです。

 この世界は終わっている。

 つまるところ設定が甘すぎる。

 何かの実験であり適当な設計なのか、さもなければ未熟な神による設計なのだろう。


「グルルルル」


 今も真っ赤に燃える赤い虎が、俺へと襲いかかってきた。

 その鋭い牙が俺の脚へと噛み付こうとしてくる。

 噛まれたところで、俺の鱗を貫く程で無いことも判りきっているが、そのまま放置するのも癪に障る。


「煩わしいわ!」


 飛び込んできた虎を脚を上げて躱し、そのまま振り下ろす事で踏み潰す。

 それで終いだ。

 倒れた虎は赤い粒子に還元され、その粒子は右上方へと飛んでいく。


 そもそもこれがおかしいのだ。

 生物が死亡したり、物が壊れる事を想定していない。

 そのため、壊れた途端にエネルギーが回収されてしまう。

 それでは生物はどう生きていけば良いのか。

 弱者を丸ごととり込むか、強者の生き血でも啜るしか生きる道がない。

 そんなこんなでなんとか生き延びてきた獣達も、大地が消え、植物が消え、小動物まで消えてしまえばもはや生存は不可能だ。

 そもそも、世界自体が崩壊仕掛かっている。


 さて、とにかく飛んでいった粒子についてだ。

 今まではそのまま見失ったが、今回は違う。

 ある程度進んだところで何かに吸収されるように行路を変えて消えた。


「どうやらあそこに居るらしいな。俺をこんな世界に閉じ込めたつけを払わせてやろう」


 赤い粒子を取り込んだ先、そこにあるのは全方位が断崖絶壁である山であり、その頂上に塔が聳え立っている。

 この世界に入り込んでから初めて見る人工物だ。

 そこにこの世界の管理者が居るのは間違いない。

 そいつの顔でも見て文句でも言ってやらねばならない。


 断崖絶壁だろうと、防衛機構があろうが、その程度の障害等あって無いようなものだ。

 何せ俺は最強の竜種である。

 神族が何をしたところで、それを上回る力がある。


 背中に備えた翼を広げ、いざ飛び立とうとしたが、そこで予期せぬ妨害が入った。


「ねぇ! あそこに行くの? 行くなら乗せていって欲しいんだけど」


 この世界に渡り付いてからどれだけの年月が流れていただろうか。

 その間、遭遇したのは先程の様な知性の欠片もない獣だけだ。

 にも関わらず、こんな世界の中心に来た途端声を掛けられた。

 これが偶然であろうか、いや、そんな筈はないであろう。


「お前がこの世界の主であるか!」


「きゃっ!」


 言葉の内容に多少の違和感があったが、それは制圧してから聞きただせば良い。

 そう思って振り向き様に前脚で掴みかかった。

 だが、本気の攻撃ではないにせよ、それなりにダメージを負わせようとした、その攻撃は意図も簡単に受け止められてしまった。


 そこで初めて相手を見ると、茶色がかった黒髪を左右に結び、大きめの鞄を背中に背負い、動きやすそうな服装をしている少女だ。

 神族かと思いきや、光輪も無ければ翼も無い。

 はたまた変装をしている気配も無いとなれば、その正体は人間に違いない。

 その特別な特徴もない普通の人間とは、この世界には存在しない筈の存在だ。

 そんな存在が何故ここにいるのか。


 一応、例外はある。

 迷い人――何が切っ掛けになるかは不明だが、反転世界からこちらの世界に転移してしまう人間が存在する。

 とはいえ、転移したからといって特別な力を得るわけでもない。

 特別な力を得るには、世界のシステム自体にその設定が必要であるが、それであれば先程の獣にもその恩恵はある。

 しかし、そんな大層なものはあの獣に備わっていなかった。

 とにかく、竜である俺の攻撃を止められるものでは決してない。


「なっ! ぐあっ!」


 広げていた翼が地面を擦る。

 何が起きた。

 いや、理解はしている。

 投げ飛ばされただけだ。

 非力である筈の人間に、最強たる竜種をだ。


「お主、少々落ち着きが足りぬのう」


「きゅきゅい」


 上下反転する視界の中、そこには少女以外の存在が2体居た。

 少女の両肩にそれぞれ1体ずつ。


 右肩の1体は紫色をした小さな竜。

 左肩の1体は青色をした小さな竜だ。


 その存在に気づいて理解した。

 先程の攻撃を防ぎ、俺を投げ飛ばしたのはこの紫色の小竜だ。

 小竜だからと言って侮る事はできない。

 その小さな身体からは、俺の力を大きく上回る程の力を感じる。

 恐らくその姿は偽装。

 竜種の中でも、俺よりもかなり上位の個体だろう。


 そして、青色の小竜も不気味だ。

 こちら側からは逆に竜の気配を全く感じない。

 とは言え、何か得たいの知れない力を抱えているような気配を感じるので、とても手出し出来そうにも思えない。


「こら、おじいちゃん。折角仲良くしようとしてたのに投げ飛ばさないでよ。……ごめんね。貴方に手伝って欲しい事があって」


「ふん。こやつは少し身の程をわきまえておくべきであるのだ」


 なんなんだこいつらは。

 話だけは聞いていたが、本当に存在するかも怪しかった同族に2体も遭遇した。

 そしてその主が、特別な力を感じない異世界の人間だという。

 こんな状況は想定していない。

 だが、少なくともこいつらに逆らうことはできないのだと、本能で理解した。

まずは10話程度まで毎日投稿しようと思いますが、まだ書き溜められて居ないため、それ以降はゆっくりと、3日から1週間以内の頻度で更新していこうと考えております。

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