(8) 授業と実践
「え?」
ファミラはルオの発言にポカンとした。ルオはそれに構わず言葉を続けた。
「今日は座学にしようと思いましたが、急遽変更です! いきなりの実践です!」
今までこれほどの自信に満ち溢れたはあっただろうか?いやないだろう。自分の中に自信が満ち溢れているのは、ファミラのおかげだ。
「流石に今使うのは危ないわよ!失敗したらどうするのよ!」
彼女らしからぬ言葉が出てきた。
昨日まで全く読めない人物だったのに、この瞬間だけ心の内がわかったような気がした。きっと怖いのだろう。初めて使う未知の力は恐ろしい。
でも、彼女ならできるはずだ。
ルオはぐるぐる眼鏡を外し、後ろに放り投げた。
「大丈夫です。さっき僕が言った詠唱をするだけです。サポートもします!」
「だぁ〜、もう!わかったわよ!サポート頼むわよ! ルオ!」
「いい返事です!」
<ランドドラゴン>は焦げて爛れた鱗を舌で舐め、痛みを和らげようとしている。2人のことは視界に入っていない。今がチャンスだ。
「ファミラ、これから授業を始めます。」
「うん。」
「まず、火球を当てる的を見ます。今回は<ランドドラゴン>です。」
「バッチリ見えるわ。」
「次に的に手を向けてください。ここから魔術で火球を出します。」
「こうかしら。」
「よろしい。これで基礎動作は終了です。では、魔術を使いますよ! 私が言う言葉をそのまま言ってください! <フィアルエ・ドス>!」
「<フィアルエ・ドス>!」
ドォオン!!
連続して出てきた火球は<ランドドラゴン>に見事直撃し、爆発した。爆風で土が舞い、視界は土煙で覆われた。
視界が明るくなると、目の前に黒焦げの魔物が息絶えていた。
「成功ですね。」
「うそ、出来た、、。」
ファミラは何度も自分の手を見ていた。
(俺も初めて魔術を使った時はこんな感じだったけ。そして、いつか自分だけの魔術を作りたいから、魔法を知ろうと思ったんだっけ、、、。)
「ルオ!」
昔のことを思い出しているとファミラがルオの手を握った。
「!?」
「本当にありがとう!夢に一歩近づけた!」
「ソレハヨカッタデス。」
「ルオ?」
「ゴメンナサイ。ジョセイニテヲニギラレルノハハジメテデ。」
ルオの口から泡が吹いていた。顔は青ざめ、体はガクガク震えていた。
「あっ、ごめん!あなたが人見知りなのすっかり忘れてたわ!」
「メガネヲハヤク、、、。」
ファミラは後ろに落ちていた眼鏡をルオに掛けた。すると顔は元に戻り、体の震えも止まった。
「ふぅ、ありがとうございます。やっぱりこれがないと話せない・・・。」
「実践ときは話せてたじゃない。」
「あっ、あれは、妙に自信が出てきて・・・。」
「はいはい、火事場の馬鹿力みたいなもんでしょ。」
ファミラはルオの肩をポンと優しく叩いた。
「本当にありがとう。私1人じゃ何も出来なかった。あなたに教わってよかったわ。」
ファミラは宿屋に避難していた、人達に魔物の討伐が終わったことを伝えに行った。
「・・・ファミラ、俺は君が羨ましいよ。」
1人その場に残ったルオは、そう呟いた。