(1) 囚人と処刑人
冷たい床、僅かに届く光、遠くから聞こえる鎖の音、泣き叫ぶ声や怒鳴る声。
普通に暮らしている者であれば、これらの事は体験しないだろう。なぜならここは収容所だからだ。
「神聖なる<教会>にこんな血生臭い場所があるなんて知りませんでしたよ。」
囚人のルオは処刑台に立っていた。両手は鎖で繋がれ、周りには<教会>の騎士達が剣を向けている。
「僕以外の囚人はどのような罪で、ここで処刑されたのですか?」
ルオは騎士の1人に尋ねた。騎士は淡々と答えた。
「多いのは<教会>に紛れ込んだ裏切り者だ。我々が所持する資料は、世に出してはならぬ者ばかりだからだ。」
「へぇ〜。」
「貴様は、怖く無いのか?」
騎士は、血で汚れた処刑台を前にしても恐れていないルオを不思議に思った。
「怖いに決まっていますよ。あんなおぞましい刃物で僕の首が飛びますからね。今は現実逃避しているのですよ。」
「成程。」
「レヴァンネ二級騎士! 囚人の言葉に耳を貸してはなりません! 彼は<禁書>の影響で精神が壊れているのですよ。」
「隊長!?、、。すみません。」
騎士ーレヴァンネを注意したのは、彼女の上司だった。
「それよりも、準備はできましたか?レヴァンネ?」
「、、、、はい。隊長。」
レヴァンネは斧を持ち、チラリとルオの方を見た。
「・・・?」
ついにルオの処刑が始まろうとしていた。彼の頭上には大きな刃が紐で吊るされており、ピンと張った紐の先には斧を持ったレヴァンネがいた。
(あの紐を斧で切ったら、俺の頭上に刃が落ちてくるわけですか。それにしても、短い人生でしたね。もし俺が<禁書>を見つけていなかったら、今頃は<魔術連合>の任務で東奔西走だっただろうに。)
ガシャンっ
「何をやっているのですか!?レヴァンネ!?」
突然レヴァンネは斧を捨てて、ルオの前に立った。
「レヴァンネ、、、さん?」
レヴァンネは被っていた兜を外し、素顔を表した。肩に少しつくぐらいの短い青い髪がふわりと舞う。そして、彼女は彼に微笑み、
「囚人さん、私に魔法を教えてくれないかしら?」