(15) 魔術師と<魔喰の剣>
自分の背中に白い翼が生えている。そうレイグは言った。しかし、自分自身が見ても何も無い。変化があったのだとすれば、怒鳴った時に魔力が一瞬強くなった事だ。その後魔力はすぐに元に戻った。
「今見ても、意味は無いよ。もう<知の羽>は消えたから、君はただの人間に戻ってる。」
瞳に光が灯されていないレイグはそう言った。
<知の羽>とは一体・・・。それに自分が一瞬人間ではなかったのか?
訳のわからぬ言葉を聞き、頭の中で整理しようとするがなかなかうまく整理できない。血が出過ぎたせいで頭に血が回らないのだろう。段々と視界がぼんやりとしてきた。
(あれ? 俺ひょっとして死ぬのでは? それは嫌だ。とにかく魔術で回復を・・・。嘘だ!出来ない!? どうして!?)
傷口に魔力を込めようとしたが、魔力は集まらない。それどころか身体中の魔力が減っている・・・!。
その様子を見たレイグは、笑った。しかし瞳に光は戻らないままだ。
「どうやらその様子じゃ、魔術で回復もできなくなったみたいだね。よかった、隊長の助言通り<魔喰の剣>を持ってきて正解だったよ。ごめんね、魔力を吸っちゃって。」
魔術師は魔術の源たる魔力が無くなると、魔術師として戦うことはできない。
ルオは一般人よりも多めに魔力を持っているが、上級魔術を数発撃てる程度の魔力しかない。<魔喰の剣>は上級魔術分の魔力を吸うので、ルオの魔力は残りわずかになっている。もう回復するための魔力は無い。
「君は教会の極秘情報を知っているようなものだから、君が死んでも誰も知らない。せいぜい行方不明扱いになるだけだよ。」
「はぁ、はぁ・・・。」
ルオは何か言おうとするが、声も出せなくなり、荒い息を出すことしかできなかった。
「さようなら。」
レイグはただそれだけを言い、大剣を横に構え、ルオの首を切ろうとした。しかし、それはできなかった。空から降ってきた1人の騎士によって。
「私の魔術の先生を殺すのはやめてもらえないかしら? 副隊長さん?」
キンッ
剣と剣がぶつかり合った音がルオの耳元に届いた。それと同時に聞き覚えのある、猪突猛進で真面目で、優しい、あの声がした。
「なぁにが森で読書よ! こんなところで迷子になってどうするの! すんごく心配したんだから!」
肩に少しつくぐらいの短い青い髪の騎士が、ルオを護るように前に立っていた。
「・・・ファミラ・・・。」
どうしてここに! という言葉が後に来るはずなのに、力が出ないせいか、彼女の名前を言うだけだった。
そんな絶賛大量出血で力も出せない重傷のルオを見て、ファミラは驚いた。
「ちょっとちょっと! すごい深い傷じゃない!? なんで魔術で回復をしないのよ!?」
「そちらの騎士の持つ剣が、切った相手の魔力を吸う剣なんです! おかげで魔力はコップ一杯ぐらいしか残ってません! ・・・いてて。」
さっきまで声を出すのも辛くて出せなかったのに、ファミラがきた途端大声が出た。傷口に響くが・・・。
「ファミラさん、どうしてあなたがその罪人を護るのです? 彼は死ぬべき化け物なのですよ?あなたも死にたいのですか?」
レイグは剣を向ける相手が同僚だとしても、何も動じなかった。反対にファミラの剣は、上司を前にして震えていた。
「・・・。副隊長、彼が化け物ならば、私はそれ以上の化け物です。私は<禁書>以上の禁忌です。それに、私を騎士団長に許可を得ず勝手に殺したら、あなた達は処刑されますよ?」
「・・・ファミラ?」
こんなにも元気で明るい少女が<禁書>以上の禁忌!?
ルオはまだファミラのことを何も知らなかった。彼女の正体は一体何者なのだろうか?
「それがどうしたの? 実際に君が死んでも、騎士団長にはどうやって死んだのかわからないんだよ? 僕たちは君が死んだ時の言い訳は、罪人が暴走して、それを止めようとした君が、罪人に殺されたって報告するだけだよ。」
レイグはファミラの衝撃的な発言にも全く動じず、しかもルオを使って、彼女の死も偽装すると言うのだ。
「くっ・・・。じゃぁ、やるしか無いみたいだね。ルオ! 下がってて!」
「待って!ファミラ!」
ファミラは勢いよく足を踏み込み、レイグの剣目がけて走って行った。レイグは大剣を構え、迎撃の準備をした。
自分はただ叫ぶだけで、何もできない。ルオは悔しくて、拳を強く握った。魔術を撃ったとしても、あの大剣に魔力を吸われてしまうだけだ。
「はい、そこまでぇ〜。2人とも武器を下ろしてください。他の部隊ですが、命令で〜す。」




