(13) 狂信な獣と孤独な獣
ーー宿屋ーー
「ツェルカ先輩はどうして男装したのですか?別にそのままでもいいじゃないですか?宿屋に入ってすぐに私がぶっ飛ばしてあげますのに。」
「それが嫌だから、男装したの。流石に私が男装してるとは思っていなかったし、案の定騙せたみたいだし。」
ツェルカはかつらを取り、長い赤褐色の髪をあらわにした。
「確かに騙されました。先輩は胸がまな板ですから、男装は簡単ですね!私は普通にあるのでできませんし。」
ファミラはツェルカと自分の胸を見比べた。
「私はまな板じゃない! 少し膨らんでる!」
ツェルカは顔を真っ赤にして怒鳴った。あまりにも大きい声なのでファミラは耳を塞いだ。
「せんぱ〜い!ここは公共の場ですよ、静かにしてください。お客さん達に迷惑ですよ!」
「ぐぬぬぬぬ・・・。」
ツェルカは拳を強く握り、必死に叫ぶのを我慢している。
「もう私達がかの有名な<創造神の騎士>であることがバレたみたいだし、ルオを見つけて今日中にここを出ますか。」
「残念だけど、ここから出られないよ?」
「!?」
「ルオっていう囚人がここを出ていった後に、結界を張ったんだ。あんただけが出られないようにってね。あの囚人は今頃レイグが捕まえているはず。もう、あんたが出る幕はない。」
「本当に?」
「そうだよ? だってあんたは魔術が使えないじゃない?」
ツェルカ自身の手から魔術を出して見せた。
「この結界は物理では効かない、魔術じゃないと無理だよ。残念だったね、ファミラ♪」
彼女はニヤニヤと笑いながら、ファミラに言った。
「ねぇ、先輩。」
「何?」
ファミラは宿屋の扉に向けて手をかざした。
「その結界は簡単な魔術をぶつけても壊れるってわけ?」
「多分壊れる。だって、<物理無効>と<特定人物出入り禁止>って設定したから、それ以外で壊れるし・・・。てっ、まさか!?」
ツェルカはファミラが質問した意義がわかり、ファミラを止めようと魔術を練り出したが、もう遅い。
「<フシモ・ティフンディエル>!」
「やめろぉぉぉお!」
バコンっ!
青色の雷が結界を破壊した。結界はガラスのように砕け散っていった。
「嘘、でしょ。あんたが魔術を使えるだなんて!」
渾身の結界を、魔術ができないと馬鹿にしていたファミラに魔術で壊され、ツェルカはその場に座り込んだ。
「じゃ、私はこれで。」
ファミラは椅子の上に置いていた剣を取ると、宿屋から出て行こうとした。
「ま、待って!」
「なんですか、先輩?私はレイグ先輩に用があるんです。一刻も早く行かないとルオが危ない。」
「本当に、隊長を裏切るの? 何かの間違いよね?」
「裏切りました。」
ファミラは淡々と答える。
「!? どうして! 隊長は元奴隷のあんたを二級騎士にしてくれた! その恩を裏切るのか!?」
ツェルカが必死に止めようとするが、ファミラはもう止まらない。
「私は、自分が思う騎士としての振る舞いをしているだけ。だから、もう獣ノ隊は私の敵よ。」
「獣は、群れの長に従い、群れで戦うもの・・・。1人の獣には、戦えない!」
「ごめんなさい、私は一匹狼なの。最初から群れていないわ。さようなら。」
ファミラは扉を開け、森に向かって行った。後ろを振り返らずに。
そして、孤独な獣は群れと永遠の別れを告げた。




