(12) 迷子のルオと教会の獣
ルオが迷子になって1時間が経過した。どこに行っても自然とこの場所に戻ってくるようになる。
「もしかして、<幻術>がここら辺一体に使われているのかな?」
ルオは目を閉じ、魔力の流れを感じることに集中した。魔力感知用魔術具が無くても一応魔力の流れは微弱だが、感知できる。
目を閉じた闇の中に、靄のように光が辺り一面に広がった。
「やっぱり幻術か掛けられている。それも視覚系のだ。えーっと解き方は・・・。」
ルオは記憶の引き出しの中から解除の仕方を探したが、見つからなかった。
「解き方、忘れちゃった。」
ーーー宿屋ーーー
「1時間経過しても、森からは何の変化も起きていない・・・。ルオ、もしかして迷子?」
一通り魔術言語の帳面を読んだファミラはルオの帰りが遅いことに気づいた。ルオが言った読書しに行くということは、森の中にある魔物の巣を討伐することだろうと推測していた。
討伐する時、ルオは必ず魔術を使うだろうから、森で大きな爆発音があるだろうと思ったが未だに何も起こっていない。これはつまり、ルオ身に何か起こったということだ。例えば、迷子とか。
「さて、ルオを探しに行きますか。」
「どちらに行かれるのですか?」
先刻、ルオと話をしていた従業員がファミラに話しかけてきた。
「ルオを探しに。聞きたいんだけど、先生はどこに行ったのかしら?」
「あなたの先生なら、公国に行きましたよ。」
ズドンっ!
「かっ、はっ・・・。な、何を、するんですか?」
ファミラは従業員の首を絞め、建物の柱に押さえつけた。柱にはファミラの指に食い込んでいた。
「何を、って。あなた、嘘をついたじゃない? 嘘はダメって親に言われなかったのかしら?」
ファミラは従業員に顔を近づけた。
「あんたも、普通に嘘つくじゃない!」
突然の出来事に周りにいた人たちは驚き、ただ2人の行動を見守るだけだった。
「なぁ、あの2人夫婦とかじゃね?」
「確かに。だとしたら不倫とかかな?」
中には、2人のことについてコソコソと話すものもいた。
「すごいわね。」
ファミラが従業員を称賛した。従業員は何を言っているのか分からなかった。
「どういうこと?」
「あなたの男装がまったく見破られてないほど完璧だってこと。」
従業員は男装していたのだ。
「それは光栄だわ。それじゃ、そろそろ手を離してくれない? 私に聞きたいこと、聞けないよ?」
「そうね。仕方がない。」
ファミラはそう言って、従業員の首を絞めていた手をサッと解いた。従業員はふぅうと大きく息を吐いた。
「聞きたいことって言ってもただの確認なんだけどね。教会騎士獣ノ隊一級騎士ツェルカ=ラゼン先輩?」
従業員ーツェルカ=ラゼンは髪を耳にかけ、苦笑した。
「あんたは本当に、手のかかる後輩ね。獣ノ隊二級騎士ファミラ=レヴァンネ。」
ーー森の中ーー
「どうしよう、本当にどうしよう。幻術の解除方法がわからないから、もう戻れないかもしれない!」
ルオはもっと慌てていた。もうパニック状態だ。
ガサッ!
突然、草花をかき分ける音がした。誰かがいる!
「お、俺は美味しくないよ! 食べたらお腹壊すよ!?」
「ちょっとちょっと! 僕は魔物じゃないよ!?」
そう言いながら、ガッチリとした体格をした男性が森の中から姿を現した。
「あ、人だ。」
ルオはほっとし、胸を撫で下ろした。
「僕も君が人で良かったよ。魔物だったら殺してた♪」
男性は笑顔で大剣をルオに見せた。ルオは内心ひんやりした。
(魔物に生まれてなくて良かった・・・。)
「僕はレイグ。教会騎士獣ノ隊特級騎士をやってるんだ♪ 僕ね、昨日逃げた囚人探してるんだけど知らない?」
「うん、知らない。」
ルオは魔物に生まれた方がマシだったかもしれないと思った。




