正直荘殺人事件 駅激遠ボロアパートにて正直者たちによる罪の擦り付け合い
『正直荘殺人事件』
<捜査編>
正直荘 犯人は何号室の住民?
三号室:俺? 一番端の奴が怪しいよ。
九号室:私は違います。やはりお隣さんじゃないかしら。
八号室:冗談じゃない。お前じゃねえの?
先日104号室で変死体が見つかった。
被害者は皆から嫌われている厄介者。
正直過ぎてその上言葉を選ばず相手を不快にすることで有名。
僕も度々彼の毒牙にかかった。
ここの住民は僕を含め全員彼を恨んでいた。
大家室:あん今月分かい? いい加減滞納してるとあんた出て行くことになるよ。
殺人事件? ああ、あれは事故だって。
いい加減なこと言い触らすなら即出て行ってもらうよ。
またトラブル起こしても庇ってやらないから。
大家室とはお隣の一軒家。お婆さんと息子の二人が住んでいる。
被害者との金銭トラブルも確認済み。
大家さんは何かと僕を勘違いしてる。ただ事件について聞いただけなのに昔のことまで持ち出す始末。
あーあ聞きそびれたな。よし取り敢えず後回しだ。
二号室:あらお隣さんどうしました? 私が犯人? 確か犯人男性って話ですが。
さっきまでどこに? 買い物ですよ。それから大家さんとおしゃべり。
大家さんは事故だって言ってましたよ。私もそう思います。
もうしつこい。もしかしてまだ続けてるの? いい加減にしてください。
五号室:バブー。バブ―。ほら近づいちゃダメ。
早くしてください。今忙しいんです。
犯人? 男でしょう? 女性一人では無理だと六号室の子が言ってた。
六号室:俺にはアリバイがある。そん時はゼミで泊りがけ。俺は関係ないね。
だって撲殺だぜ? 女が出来ることか? ガキならまだあり得るがよ。
その話ならお隣さんとも一致してる。
そんなことよりまだ治らないの? 危ない奴だな。
七号室:ああ言ったよ。だから君も僕も怪しいね。
大体さ隣の大学生以外アリバイはない。
あの時間帯だ。普通は家にいる時間帯。寝てるかどうかは本人次第だが。
僕も最近不眠症気味でさちょっとの騒音もダメ。
だから耳栓にアイマスクしてるんだ。
あの時間横になっていたけど気付かなかった。へえ、君もそうなんだ。
うーん。全員の話は聞いたがまったく犯人の目星がつかない。
動機もアリバイからも真実に迫れないでいる。まさか外部犯?
一体あの日何が起きたんだ? やはり素人には無理なのか?
このままでは通称『正直荘殺人事件』は迷宮入りしてしまう。
いやそれでいい。うんそれでいいんだ。
無理して解決しようとすれば災難が降りかかるに違いない。
さあそろそろ時間だ。
さすがに無理があった。日本滞在中に解決できればと思っていたが甘かった。
グッバイ! 正直荘の皆さん。
<解決編>
110号室:お前がやったんだな?
まったく何を考えてやがる。
律儀に引っ越しの挨拶しやがって。不審がって通報されたぞ。
黙るな。この航空券は何だ?
海外に逃亡する気だったんだろ?
動機は? 女性トラブル。お前ストーカーだったんだよな。
アリバイもなし動機十分。お前しかいないよな。
俺らは遊んでた訳じゃない。証拠固めしてたところだ。
もう一度聞く。お前が犯人だな?
俺も正直荘の住人。嘘を吐くことはできない。
黙秘も違う気がする。
正直に認めるしかない。そう俺さ。俺が犯人だ。
まったくどこでボタンを掛け違いたのか。
こうして世間を震撼させた『正直荘殺人事件』は一応の解決を見た。
<完>