第23話
20××年4月1日 11時00分
「……ん?」
ガタガタと上下に揺れる激しい振動。それによって青年は心地よい微睡みから目を覚ました。
(あれ?なんでこんな所で俺は寝ているんだ?)
寝起きで鈍る青年の脳細胞。だがそんな彼の脳みそでも目の前の座席シートを見た事で全てを瞬間的に思い出した。
(そうだ。ここはバスの中だ)
「……」
青年は心底つまらなそうな表情を浮かべつつ視線を窓へと向ける。
(入学して早々、なんでこんなクソみたいな行事に参加しなきゃいけねえんだよ)
華やかな大学生活。青年のその期待は入学式後5分で砕け散っていた。
近年インターネットやSNSは日常生活に欠かせないツールとなっている。つまり大学生活が始まる前に既に人間関係が出来上がっている事が当たり前の世界になっていたのだ。
青年はその認識が甘かった。受動的な態度で知り合いが出来るのは閉ざされた「学校」や「クラス」という共同体だからこそかろうじて成立する。だがそれが通用するのは「高校」までの話。「大学」という解放された「世界」では自分から行動しない限り何の結果も得る事は出来ない。青年にはその覚悟と行動力が足りなかったのだ。
(欠席するつもりだっだが、この行事は必修科目。つまりサボると余計に面倒な事になる)
「……」
大学生は自由に時間割を決められるという誤解が多いが、実際はどの生徒も似たような時間割になっている事が多い。その理由は必修科目と選択科目にある。選択科目は仮に単位を落としてもあまり痛手にはならないが、必修科目は違う。これだけは絶対に単位を取らなければいけない。何故ならばその科目を習得しなければ卒業が出来ないからだ。
(クソッタレなレクリエーション旅行を必修行事になんてするんじゃねえよ…)
「…はぁ……」
青年の口から何度もため息が漏れる。友人0の青年からすればこの集団行動自体が地獄なのだ。
「……」
青年が何となくバスの中を見回す。そこには友人と談笑している人間の数の方が多かった。
「楽しみだよね~」
「だよね~ひょっとして高級料理とかも食べられるかも~?」
「いいね~マジで映えそうだわ~」
(けっ…これから4日間も強制的に集団生活だぞ?こんなのが面白いと思っているやつは頭がおかしいんじゃないか?)
青年が内心で悪態を付きながら視線を手元に落とす。そして途中まで再生していたホラー映画の続きを見始めた。スマートフォンの画面内ではヒロインがゾンビに襲われるシーンが再生されたいた。
(やはりゾンビ映画はいつ見ても良い)
(映画というものは最高の娯楽だ。気楽に非日常感を味わう事ができる)
青年は現実逃避をする過程でB級映画というものに魅了されていた。その中でもゾンビ系の映画は青年のお気に入りだ。
(そうだ!その憎たらしいヒロインを食っちまえ!!)
退屈な現実をシャットアウトするかのようにイヤホンを耳に装着。青年はフィクションの物語へと没頭していった。
(ほんと、こんなクソみたいな現実よりもよっぽど面白いぜ…)




