表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/37

第9話 質問責め/徹夜ファミレス

 月島弥生は、なかなか俺を解放してくれなかった。


 俺も、美味しいハンバーグセットをご馳走になった以上、「もう解放してくれ」だなんてことは思っていても言い出せずにいる。


「アキラは、好きな人はいるの?」


「いるよ」


「……へえ、どんな子?」


「ちっちゃくって可愛い系だなぁ」


「そういう子がいいんだ……私とかは、タイプじゃない?」


「どちらかというと、好きなタイプだけど」


「そうなの? うれしいな。あ、アキラ、誕生日いつ?」


「十二月」


「何日?」


「二十二日」


「血液型は?」


「B型」


「私、O型なんだけど、たぶん相性いいよね。動物占いは?」


「やったことないな」


「苦手な科目は? 私教えてあげるよ?」


「苦手なのは数学だ」


「ああ、やっぱりね、そんな雰囲気する」


 どういう意味だ?


 ていうか、なんだこの質問責めは。


 そして、ドリンクバーだけでどれだけ粘ってるんだよ。


 俺がハンバーグセットを平らげてから何時間経っただろう。腕時計を確認してみる。


 何だと……午前三時だと?


「弥生」


「はい?」


「家には帰らなくて良いのか?」


「ああ……家……。家は、大丈夫。どうせ帰っても、勉強しかすることないし」


「でも」


 両親が心配するんじゃないか、と言いかけてやめた。家に帰りたがらず、心配するはずの両親にも連絡をする素振りすら見せない。何か家庭の問題を抱えているか、親がいないかのどちらかだろう。月島弥生への好意はあるにはあるが、それほど親密ではなく、親密になり過ぎる気もない以上、立ち入ったことは聞くべきではないと思った。


 弥生は、一つ緊張を吹き飛ばすように溜息を吐くと、目を逸らしながらこう言った。


「私ね、アキラに出会うまで、心動くことなんてほとんど無かった。だけど、アキラのことが気になりだして、それが恋って感情なんだって気づいた時、どうしても我慢できなくて、あなたの学校の前で待ち伏せなんてしていたの。


私らしくないと自分でも思ったけど、どうしてもアキラに会いたかった。今まで、こんなことなかった。まるで自分じゃないみたいで、自分の中に違う誰かが生まれたみたいで、こわくて、でも、うれしくて、あ……ごめん。わけわかんないこと言っちゃった」


 果たして、それは恋なのだろうか。


 現実逃避の類なのではないか。


 なんて思ってはみたけれど、俺が田中みかんを好きな理由だって、似たようなものだと気付く。


 月島弥生は、しばらく俺の反応をうかがっていたけれど、返事がこないと判断するや、幼いころの習い事の話だとか、そのピアノ教室での話だとか、話題を変えたのだった。


  ★


 結局、朝五時まで制服姿でファミレスに居たわけで、補導や通報されてもおかしくはなかったのだが、大丈夫だった。


 俺と弥生は、勘定を支払い、外に出た。異常な寒さだった。


「さっむいわね……」


「ああ。凍えるようだな」


「うん……あ、アキラ。携帯教えてよ」


「ああ」


 俺は、白黒モザイク模様のなんとかコードとやらで、自分の携帯電話番号やメールアドレスを送り、弥生の最新型スマートフォンから、情報を受け取った。昔に比べて、ずいぶんと便利になったものだ。


「それじゃあ、また、連絡するね」


「おう」


 弥生も可愛いなとか思い始めている自分が、少し憎い。しかしそれ以上に愛しかった。


 俺は、一つ欠伸をしてから、天に向かって伸びをした。


 一歩一歩、確かめるように歩き出す。


 徹夜で話し込んでしまって、これから始まる一日が不安だ。だが俺が眠らなくても太陽が昇って、また沈む。


 今日もまた、一日が始まる。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ