6話 ‐入学式編‐
校長先生の話が異様に長い入学式は終わりを迎え、教室内でLHRを始めるということだ。それよりも、剣崎さんが新入生代表の挨拶をしていることに驚いた。確かに初めて会った時に、頭が良さそうと感じた。意外に俺は勘が鋭いのかもしれない。
そして、教室に入って自分の番号に該当する席に座った。幸運なことに俺は、窓際の、一番後ろの席だった。そして前には、なぜか終始無言の鬼塚 乙女さん。さらに右隣には、剣崎 蘭さんが座っている。
「(いきなり知ってる人が近くにいるのって何気に気まずいな。先にどっちに話しかけたらいいのかな?やっぱり剣崎さんからかな)」
まずは剣崎さんと会話をしようと思って、声を掛けようと右隣を見ると剣崎さんも同じことを思っていたのか、こちらを見ていた。いや、睨んでいるのか?
「・・・」
「あ、剣崎さん、まさか、同じクラスになれるなんて奇遇だな(不自然だったかな?)」
「・・・ああ」
睨んでいるのは、気のせいだとしても反応があまり良くなかった。もしかして、新入生代表の挨拶をしたから疲れているのかと思った俺は、前に座っている鬼塚 乙女さんに声を掛ける。
「お、鬼塚さんも。き、奇遇だね!」
「・・・あ、うん」
「(え?終わり?)」
先程の入学式で、粋なボケをしてくれたとは思えない程に静かだ。後ろから声を掛けているため、表情はわからないが耳が赤い。寒いのだろうか?それとも、まだ怒っているのだろうか?そんな事を考えていると教室の扉が勢いよく開かれた。
「おはようございます!まずは、新入生の諸君!入学おめでとうっ!!これから、このクラス担任になる修羅乃 香だ!よろしく~」
「「「おはようございます」」」
「うんうん。元気でよろしい!みんな、何か分からない事があったら何時でも言ってくれて構わないからね~」
元気よく登場したのはクラス担任になる先生だった。先生に対する第一印象は、元気で生徒思いの熱い先生なのかなと勝手ながら思った。先生は、学校での生活を色々と俺達に伝え終えると。
「うーん、まだ時間少しあるっぽいし。まずは、隣の席同士で自己紹介でもしとこっか!では、対面になって自己紹介をする時間にしまーす」
隣の席に座っている人と自己紹介をする流れになった。俺は、椅子を横にし剣崎さんと対面するような形をとる。しかし、剣崎さんは心ここにあらずという感じでぼーっとしている。
「・・・」
「えっと・・・けんざきさ~ん。自己紹介するそうだよ」
「・・・ああ、すまない」
先程から鬼塚さん同様に反応が鈍い。剣崎さんは、今初めて気づいたとばかりに椅子を俺と対面させるように素早く動いた。
「ま、まさか、同じクラスになると思わなかったよ!それより、さっきの新入生代表の挨拶すごかったよ!」
「そうだな、私も思わなかった。まさか同じクラスとはな・・・それに、挨拶ぐらい大したことはない。空がやったことに比べればな」
「(俺がやったこと?あー、あの石に躓いたことを言っているのか?それより、まだ覚えてたの?!早く忘れてくれよ・・・)はははっ!本当に、怪我しなくて良かったよ」
「・・・そんなつもり最初から、なかっただろう?」
「?ま、まあね(石に躓く予定ってことかな?というかそんなに心配してくれてたんだ・・・いい人だぁ)」
新入生代表の挨拶より、俺の怪我の事を心配してくれていた剣崎さんはまるで、女神かのように感じた。しかし、その恥ずかしい出来事は早く忘れてほしい。せっかく、改めて自己紹介をする機会が巡ってきたので色々と質問をすることにしようと考える。
【サルでもできる友達全書】に載っていた【p35 初対面に使える質問リスト】を思い出す。そして、現在に適切な質問を無難な【友達作り第三カ条 趣味を聞けっ!】に決める。
「えっと・・・剣崎さんって何か趣味はある?(よっし!まずは噛まずに言えたぞっ!)」
「趣味?剣道だ」
「(え?もう終わり?!)そ、そうなんだぁー。俺は――」
「そんな事よりっ!空が朝にやった技を教えてくれっ!」
「?(技?石に躓いた俺が恥をかかないように比喩的な感じで言っているのかな?)ちょっと待って剣崎さん!あの時の事はもう――」
凄く心配してくれている剣崎さんには悪いが、まずは自己紹介をしてもっと仲を深めなければと思った俺は、すかさず違う話題に持っていこうとした時だった。隣から何故か顔を真っ赤にした鬼塚さんが、凄い勢いで詰め寄ってくる。
「あ、アンタ達っ!さ、さっきから聴いてたけど、どういう関係なのよっ?!廻流、あの体育館の言葉は嘘だったの?!」
いきなり下の名前を呼ばれた俺は驚き、ほとんど話の内容が入ってこなかった。しかし、なにやらすごく動揺している鬼塚さんは一体どうしたのだろうか?体育館のこと?あの時のボケに瞬時に笑わなかったことに対して怒っているのだろうか?さっそく謝ろうとした瞬間、剣崎さんが俺より速く間に入る。
「体育館の事についてはわからんが、私とコイツの関係は切っては切れぬ宿命的なモノだな。今は、空と重要な話をしている所なんだ。すまないが、邪魔をしないでくれ」
「・・・へぇー。アンタとは仲良くできるかもって思ったけど、どうやら無理みたいね」
「?言ってることがわからんな。しかし、そんなにはっきり言われると私もそう思わざるおえないな」
「(なんの話をしてるんだ?)」
様子を視るに、二人は何かの話題で盛り上がっているみたいだ。俺と話していた時より剣崎さんも鬼塚さんも生き生きとしていた。やはり女子同士の方が楽しいのだろうか?羨ましいと思う反面、水を差すのも悪いので静観していると、後ろからクスクスと囁き声が聞こえてきた。
「モテモテだねぇ。それも、個性的な美人二人に。これは退屈しなさそうだね・・・ふふっ」
後ろにいたのは、何故か悪い顔をしているクラス担任の修羅乃先生だった。
「あ、修羅乃先生。空 廻流です、一年間よろしくお願します」
「うんうん、マイペースでよろしい!そして、君はいじりがいがありそうだっ!これからよろしく~」
「は、はぁ(いじる?勉強の教えがいがあるってことかな?てか、俺ってそんなに頭悪くみえるのか・・・なんかショックだな)それは良かったです・・・」
「よーしっ!自己紹介タイム終了だよっー!椅子を直したら、各自帰宅してね~!はい、さようなら~」
どうやらLHRはこれで終わりのようだ。何かもっとするのかと思ったが、あっさりと終わりを迎えた。というか・・・
「し、宿命って・・・そんなのアンタの勘違いでしょっ!!廻流はワタシのおう・・・あ、相方的な存在なのよ!!」
「相方だと・・・貴様みたいなチャラついた者に空の背中が守れるとは到底思えないがな」
「(まだ話してる、別に羨ましくなんか・・・帰るか)」
どうやら、まだ何かの話で盛り上がっている様子だった。これ以上ここにいるのは無粋と感じた俺は帰ることにした。ひっそりと廊下に出て歩みを進めた。
「・・・やっぱり、最初から女子と仲良くするなんて難易度高いよな~」
俺が階段を下っている最中に、後ろからはっきりとした声が掛かった。
「そこの一年生、止まりなさい。おじょ・・・鬼塚乙女さんに何をしてたの?」
階段上を振り返ると、綺麗なショートカットの髪をした女子がいた。どうやら、俺はまだ帰れないらしい。