表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

5話 ‐入学式編‐【帯刀葵 視点】

 (わたくし)は、朝日が昇る前に目を覚ます。

そして、何時ものように素早く正装に着替え、各部屋の清掃をするための準備に取り掛かる。

清掃といっても、タワーマンションの一棟を一人で掃除するのは不可能なため他の使用人たちと分担する。



「「「「葵さん、おはようございます。」」」



ワタシが外へ出るとともに姿を現したのは、黒服に身を包んだ三人の男達だった。この男達は、お金で雇われている身であり、社長が私の負担を軽減するために用意してくれた。

社長の気持ちは嬉しいのだが、本当は男なんて生き物には関わりたくないし、話したくもないのだが都合の良い駒だと思えば、そんな事は些細なものだ。



「おはようございます。貴方達はお嬢様と社長が使っていない部屋だけを掃除しなさい。物の位置が数ミリ違えば貴方達はクビです。替えはいくらでもいますので」

「「「はい!!」」」



いつも通り従順な男達に(げき)を飛ばした後、私はいつも通りお嬢様と社長の部屋へと掃除をしに行くことにした。


まずは、いつも早起きをしている社長の元へ行くことにした。

豪勢な扉の前に着き、名前を名乗りノックを数回する。



「帯刀 葵です。鬼塚社長、入室しても宜しいでしょうか?」

「・・・葵ね。入りなさい」



やはり、既に起きていた鬼塚 不知火(おにづか しらぬい)社長は哀愁漂う背中をして外を眺めていた。もしかしたら、部屋へ訪れるタイミングが悪かったのかもしれないと思った。



「何かお考え中でしたか。出直します」

「ふふっ・・・必要ないわ」



社長が振り返り、不敵な笑みで私を見つめてきた。その心までを見透かすような瞳に吸い込まれそうになるが、やるべき事を思い出す。



「そのようなら良かったです。今から掃除をさせていただきます」



私は早速、掃除を始めると鬼塚社長から真剣な声が聞こえてきた。



「・・・貴方には伝えないといけないわね。そのままでいいから、聞きなさい」

「承知しました」



私は掃除をしながら、聞く準備を行う。



「以前から乙女に、見合いの話が何件も来ていたのは知っているわよね?」

「はい、存じております」



お嬢様にお見合いの話が何件も来ていることは、特に驚くことではない。しかし、一体、今更どうしたというのだろか。



「私ね、そろそろ乙女にも・・・」



そろそろ"アレ"が来ると思った私は、掃除道具を壁に立て掛け、両手で耳を塞ぐ。



「恋してほしいのよっ!!」



先程の社長が身に纏っていたカリスマ的なオーラはなくなり、いつも通りの鬼塚 不知火様に戻る。加えて、この人は度を越した親バカなのだ。



「私みたいに、学校で恋をして、結婚して離婚するなんて失敗をしてほしくないのよっ!あんなに可愛い乙女が不幸になっていいわけあるわけないじゃない!貴方もそう思うわよねっ?!」

「・・・そ、そうですね」



詰め寄ってくる社長に戸惑うが、私もそれには強く賛成している。お嬢様には、強くて優しい御仁(ごじん)と幸せな結婚をしてほしいと願っている。



「私ね、今までお見合いなんて乙女のためによくないって思ってたんだけどね・・・やっぱり見合いの方がお互いの事を知るのには適してると思うのよねっ!」

「は、はぁ」



社長が言いたいのは、きっと相手方の事を私達も事前に知ることができるので付き合っても安心するということだろう。そこには一理あるのだがお嬢様がなんと言うかわからない。



「しかし、お嬢様が同意してくださるでしょうか?」

「そこよね~。そうだっ!見本として、まずは葵がお見合いをしてみるとかは?」



社長の発想はたまに予想の斜め上を行くことは知っていたが、ここまでくると困ったものだ。私が、男嫌いな事を知っているのにも関わらずにも言ってくる社長を冷たくあしらう。



「し、ま、せ、ん!!」

「相変わらず男嫌いなのね葵ったら」



鬼塚社長はカラカラと笑っているのに対して、私は迅速に掃除を終わらせ、お嬢様の部屋へ向かう準備を進めて出口へ足を進める。すると、先程までのおちゃらけた声色(こわいろ)とは違い真剣な声が聞こえてきた。



「葵はどう思う?貴方は、私の代わりに乙女の事を近くで見てくれたでしょ・・・」



振り返ると、そこには先ほど子供のようだった鬼塚社長はおらず威厳のある真剣な表情をしていた。



「・・・きっとお嬢様は嫌がると思います。しかし、鬼塚社長が強く推すと言うのならば私もお嬢様に、わかってもらえるよう尽力致します」

「そうね。乙女には、私と同じような失敗はしてほしくないわ・・・お願いね」

「かしこまりました。では失礼します」



一礼をし、鬼塚社長の部屋を出てお嬢様の部屋へ向かった。



着替えを終え、鬼塚社長と話すお嬢様がいる。とても険悪な雰囲気だ。主にお嬢様が放っているのだが・・・

お嬢様が社長に掴み寄ろうとした所で私が止める。お嬢様は(うら)めしそうな顔で部屋を走って、出ていく。



「・・・はぁ。なぜ本音で話し合わないのですか?」

「だって・・だってぇ・・・」



肩を震わせながら話す社長は先程、お嬢様と話していた時のような威厳は一切なく、まるで大切なおもちゃを取られた少女のようだった。



「わたしって、しゃちょうじゃん・・・いげんとかもあるじゃん・・・むすめのまえではカッコつけたいじゃん」

「ハンカチです。涙を拭いてください。もしも、そのお姿を見られたら部下達に示しがつきません」



凄い勢いで鼻をかむ社長。私は涙を拭くために渡したのだが・・・

泣きわめいていた社長だったが機嫌を戻し、いつもの姿に戻る。



「ごめんなさいね。葵、悪いけど乙女の事をよろしく頼むわ。きっと今頃、迷子になっているはずよ」

「承知しました。お見合いの件はどう致しましょうか?」

「それは後でいいわ、それよりもっ!今日の入学式で、乙女に悪い男が近づいていないか確認しなさいっ!いいわね?これは最優先事項よっ!!」

「は、はい。かしこまりました」

「"あの時"のような失敗は許さないわ。葵、手段は問わないわ」

「もちろんです・・・」



あれだけ盛大に嫌われても(なお)、親バカなのは変わらないようだ。しかし、そこも含め社長の良い所だと私は知っている。"あの時"も社長の情報がなければ今頃、お嬢様は・・・

社長の新たな指令もあったので、まずは制服に着替えてから、急いでお嬢様を探しに行く。



結局、お嬢様は何処にもいなかった。ありえないと思うが最後に学校へ居るかどうかの確認をしに行く。



「・・・いましたね」



私が、見たのはポツンと一人、椅子に座っているお嬢様だった。それにしても今まで、徒歩での通学などしたことがないお嬢様が一人で学校に来たとは流石に考えにくい。しかし、あれは間違いなくお嬢様だ。



「(誰かが、お嬢様を連れて来た?それともお嬢様がお一人で?)」



私が考えを(めぐ)らせている間に段々と生徒が集り、お嬢様の隣にも男子がやってきた。



「(あれは・・・鬼塚社長。私は現在から任務を遂行致します)」



体育館外から見ているということもあって会話内容は全く聞こえないが、チラチラと気にするようにお嬢様が男子の方を見ている。何かあったのだろうか?



「(もう少し近づきましょう)」



私は聞き耳を立て、なんとか話の内容を聞こうと体を体育館のほうへ身を寄せる。(かす)かだが、お嬢様の美しい声が体育館に反響するのがわかる。



「・・・聞・て・の!・・・言ってんだけど!!」



お嬢様の怒号(どごう)が聞こえ、確信に至った。これは、確実に奴(男子)がお嬢様を傷つけるような事をしたのであろう。(こぶし)に自然と力が入る。



「(これだから男は嫌いなのです。絶対に助けて見せます)」



私はお嬢様の身にもしもの危険が及んだ時にだけ使える、ある秘密道具の一つのイヤホンを耳に着ける。まずは、お嬢様の携帯に予め入れておいたアプリを遠隔操作で起動させる。このアプリはイヤホン越しに特定の相手だけの声を明確に捉えることができる。



「(まずは、どういう状況かを把握させて頂きます)」



数秒するとアプリが遠隔で起動する。イヤホン越しにお嬢様と奴の声が聞こえてくる。



「ごめん・やっ・り・良くできな・・・」

「(久しぶりの起動で、中々うまく・・・もう少し音量を上げましょうか)」



その時だった。見計らったようなタイミングで、入学式らしからぬ声がイヤホン越しに聞こえた。



「ははは!」

「(ッ?!?!?!)」



私は反射的に直ぐに耳からイヤホンを外す。



「(まさか、お嬢様の携帯が不自然に起動したのを察知したというのですか?!)」



私が音量を上げた瞬間にあれだけの声を上げるのはあまりにも不自然なため、もしかして、意図的だったのではないかと思ってしまう。未だに、鼓膜に痛みが残り周りの声もぼやけている。



「(もしや、こちらの位置が分かっているのですか?いや、ここは完全に奴にとっては死角なはず・・・)」



私は、先程投げたイヤホンを取り音量を下げてから耳にはめる。次こそは奴の(たくらみ)みを(あば)こうと未だに痛む鼓膜を我慢し、集中する。



「当たり前・・・!寧ろこっちから行ってやるぞ・・・・・・!」

「っ!?!?!?」



瞬時に奴を見ると、その手が肩越しに私の方を向き物語っていた。その手は、まるで銃のような形をしていた。それ以上、詮索(せんさく)はするなという合図だろうか。私は、激しくなる鼓動を抑えるかのように、胸に手を当てるが中々収まらない。


初めての経験だった。それも、年齢が二つも違う年下に・・・私は、お嬢様を守るため色々な武術を学んできた。そのため、同じクラスの男子生徒にも決して遅れを取ったことは一度もない。それなのにも関わらず、私は底知れぬ恐怖を感じた。まるで蛇と偶然に出会ってしまった時の(かえる)のような気持ちだ。



「(奴は何者なのですか?お嬢様を守らなければ・・・)」



私は急いで社長に連絡をしようとした時だった。



「ちょっと~!そこで何してんの?」

「?!」



振り返ると、見覚えのある顔がそこには立っていた。



「あれっ?!帯刀じゃん!どうした?そんな真っ青な顔して」

「・・・し、修羅乃(しゅらの)先生ですか」

「暇なら、新入生の案内を手伝ってくれよ~。ちなみに拒否って選択肢はないからな~」

「わ、わかりました(まずは、奴を知る必要がありますね)・・・」



この人の名前は、修羅乃 香(しゅらの かおり)先生だ。体育の先生をしている。あまりのタイミングの悪さにため息をつく。

しかし、先程までの緊迫感は消え去った。私は、メールで部下に奴の情報を調べるように(うなが)す。そして私は、先生の手伝いをなくなくする事になった。

次回は、三話に突入します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ