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4話 ‐入学式編‐【鬼塚乙女 視点】

 外から何度も機械のようにワタシを起こそうとする声が聞こえる。反してワタシはまだ眠いため枕で耳を塞ぎ聞こえないふりをする。



「お嬢様、おはようございます。朝です」



しかし、既にワタシのベッド(わき)に彼女は居た。



「勝手に入ってくるんじゃないわよ・・・」



眠い目を擦りながらワタシは彼女の方を見る。



「お嬢様。もう朝ですよ。急がないと遅刻してしまいますよ」

「まだそんな、時間じゃないでしょ・・・」

「いえ、もう7時半です。入学式まで残り一時間半しかありません」

「まだ一時間以上もあるじゃない!アンタはせっかち過ぎなのよっ!」



性格は淡白で、話す言葉は淡々と機械のような彼女は、ワタシが小学生の頃から使用人をやっている。名前は帯刀 葵(おびなた あおい)。ワタシとは2歳差で今日から入学する長鳳高等学校の三年生に当たる人物だ。



「お嬢様は、これぐらい朝早くから起こさないと、遅刻すると(わたくし)は存じておりますので」

「・・・うっさいわね、わかってるってば」



寝起きが悪い事を知ってるくせに、いちいちと嫌味を言ってくる彼女は普段通りのようだ。ワタシがベッドから起き上がると、葵が新しい制服を手にしていたので、それを受け取る。



「鬼塚社長が、お嬢様にお話があると申しておりましたよ」

「帰ってきてからじゃダメなの?」

「起床後、直ぐにという事だったので、なにやら大切なお話があるのではないかと」

「・・・あっそ、わかったわ」



ワタシは着替えを終え、母の元へ行くためガラス張りのエレベーターへ乗り込み、指紋認証を(おこな)って最上階へ向かう。母は日本でも有数のIT企業の社長であり現在、住んでいるタワーマンション一棟が家である。


エレベーターから降りるとオフィスでなにやら作業をしている母が居た。



「遅かったわね乙女。まだ寝てたの?」



ワタシが来たというのに目もくれず、黙々と作業をしながら言葉を掛けてくる。これは、いつも通りの光景なので、腹も立たない。しかし、今日は朝からの出来事もありすこぶる機嫌が悪い。



「・・・関係ないでしょ。で、何の用?」



ワタシは早々に話を終わらせたいため、急かすように言った。



「貴方に、見合いの話が来てるの。今日の入学式が終わってからの予定だから」



その言葉を聞いて、ワタシの中でプツンと何かが切れた音がした。



「はぁあ!?なんでアンタに勝手に決められなきゃいけないのよっ!!」



ワタシの声がオフィス中に響き渡るのがわかるくらいに反響した。それくらいワタシは目の前にいる母に腹が立ったのだ。



「これは決定事項よ。貴方の子供じみた意見なんて聞きたくないのよ」



ワタシの怒りにも意にも介えさず、淡々と答える母に駆け寄り、胸倉を掴みに行くつもりで歩みを進めたが、後ろに先程から静かに立っていた人物に止められた。



「そこまでです」



ワタシの腕を掴んだのは使用人の葵だった。



「・・・離しなさいっ」

「拒否します。お嬢様、落ち着いてください」



ワタシがどれだけ、手足に力を入れようがビクともしない。葵が守る優先事項はワタシよりも母の方が高いため、止められることなどわかっていた。けど・・・



「葵。アンタもしかして。知ってたの?」

「・・・はい」



どうやらこの家にはワタシの味方など、誰もいないようだ。知ってはいたが苦い(にが)思いが段々と込み上がってくるのがわかる。



「貴方の見合いをする相手は何人かいるから、学校に行くまでの間に決めておきなさい。選択肢を用意しておいただけありがたいと思いなさい」

「・・・っ!」

「お嬢様、どこに!?」



ワタシは、逃げるようにエレベーターへ乗り込み家を後にした。



「あ~!もうホントカッコ悪いワタシっ」



何も言い返せなかった自分に腹が立つが、忘れようとひたすらに歩く。しかし、学校の場所がわからないワタシは現在、知らない住宅街を歩いている。



「(ワタシと同じ制服着てる奴どっかいないの?)」



暫く歩いていると、ワタシと同じ制服を着ている、竹刀袋を提げた女子が後ろから走って通り過ぎようとしたので間髪入れずに止めた。



「ちょっと、アンタっ!もしかして、今から入学式に行くの?」

「?ああ、そうだが」



竹刀袋を提げた女子は困惑している様子だったが、はっきりと答えが返ってきた。



「ならワタシと一緒に行きましょ!」

「それは構わないが、ずいぶんと制服が着崩れているようだが・・・何かあったか?」



改めて自分の制服を見ると家から出た時より、スカートや胸元が着崩れてしまっていた。それを見るや否や直そうとするが、中々直すことができない。



「な、何にもないわよ!(な、なによ、このリボン・・・どうやって結べば・・・)」



日頃、制服を着るのにも葵に手伝ってもらっていたため服を着るのにも手間取ってしまう。



「リボンはこう結ぶのだ・・・よっし。では行くぞ」

「あ、ありがと。てか、アンタの名前教えなさいよ」



葵以外の人に直してもらうのは初めての経験だった。



「ああ、そうだな。私の名前は剣崎 蘭(けんざき らん)だ。よろしく頼む」

「ワタシは、鬼塚乙女よ」



学校に着き、入学会場である体育館に着く。



「やっと着いたぁー」



通学はいつも車だったワタシにとって歩いて学校に着くというのは新鮮ではあるが、疲れたというのが正直なところだ。



「そこまで遠い道ではなかったような・・・では、私は新入生代表の挨拶があるから、ここで」

「えぇ!?まだ時間あるでしょ?」

「すまない。本当はもっと早く着く予定だったのだが・・・」



何故か口角が上がっている(らん)。入学式に行く途中何かあったのかを聞こうとしたが、そこには先程までいたはずの蘭の姿は(すで)になかった。



「・・・(もぉ、なんなのよ!)」



仕方ないのでワタシは、大人しく指定された席へ座り大人しく入学式が始まるのを待つことにした。


数十分経つと段々と生徒が体育館へ入場し指定された席に座っていく、ワタシの隣の隣は既に男子同士で会話をしていた。ちなみに、まだワタシの隣は空いている。



「(流石に、あそこには入れないわね・・・てか、さっさと来なさいよ!ワタシの隣っ!!)」



もう数分すると、やっとワタシの隣に生徒がやって来た。



「(待たせ過ぎなのよ・・・なんか、普通な奴ね。まぁ、いいわ。さぁ、ワタシに話しかてもいいわよ!)」



ワタシの隣にすわっている普通男子も話し相手を見つけようとキョロキョロとしている。まずは、右隣を確認する普通男子。



「(ぷぷっ!残念だったわね!そっちは、もう会話中なのよ!さぁ、次はこっちを見なさい!)」



そして、こっちを振り返る普通男子。しかし、ワタシの事がまるで見えなかったかのように首を右隣の、会話している男子たちの方へ素早く向けた。それを見たワタシはすかさず声を掛ける。



「ちょっと、アンタ。普通、私に声を掛けるべきじゃない?(もしかして、見えてなかったの?)」



ワタシが声を掛けたものの中々、反応が返ってこない。もしかして、この普通男子は自分に話しかけられていないと思っているのだろうか。朝からの出来事もあり、腹が立っているワタシは少し声を張り上げ、もう一度、普通男子に話しかける。



「ちょっと、聞いてんの?!アンタに言ってんだけど!!(これでどう?!)」



そして、やっと隣に座っている普通男子がゆっくりと顔をこちらへ向ける。



「うん。もちろん、聞いてるよ」

「そっ(聞いてたんならさっさとこっち向きなさいよ!)。ならいいの・・・私は鬼塚 乙女(おにづか おとめ)。アンタは?」

「俺は、空 廻流(から まわる)です」



普通男子の名前は空 廻流というらしい。見た目は普通でなんとも幸が薄そうな雰囲気を身に纏っていた。そんなことを考えていると、彼は握手を求めるように手を差し伸べてきた。



「(ふ~ん。意外と積極的なのね)」

「これからよろしく、鬼塚さん!」



握手に応じようと手を出そうとしたが、体育館外に見えた人影によってそれは(はば)まれた。



「(・・・葵!?)」



その人影はワタシの使用人である帯刀 葵(おびなた あおい)だった。目視で確認できるほどに(するどい)い目つきをしており、彼を睨んでいるのがわかった。ワタシがお見合い以外での男性と仲良くするのは昔から母に禁じられていた。


以前に、とあるクラスメイトの男子とたまたま話す機会があった。しかし次の日、その男子は何かの原因により転校してしまった。きっと、葵はお見合い以外で男子と交流をしていないかを視察にきたのだろう。



「ごめん。やっぱり仲良くできなぃ(ワタシから話しかけておいて。ホント最低だ)・・・」



その事が脳裏に浮かんだワタシは握手するはずの腕を引っ込め、拒否することにした。きっと、ワタシの事が嫌いになったであろう。彼から目を離そうとすると・・・



「ははは!そういうことだったんだね鬼塚さん!」



嫌いとは正反対の笑い声が体育館に響き渡った。



「俺は好きですよ!そういうの!」



好き?彼は、何に対して好きと言ったのかが理解できなかった。そしてワタシは、彼の身の危険が及ばないように、この会話を早く切り上げようと冷たく言い放つ。



「は?何考えてんのアンタっ!バカみたい(これ以上は、アンタが危ないの!わかってよ・・・)」



「全部わかりましたから!」

「(全部分かった?もしかしてワタシがアンタと仲良くできない理由がってこと?!)」



この一瞬でワタシが抱えている事情がわかったのか?しかし、流石にそれはないと半信半疑なワタシは無視しようと思ったが、さらに彼が声を掛けてくる。



「そんなに気にしてたんですか?」



事情を知らないはずの彼が、問いかけてくる。もしかして、本当に知ってるのかもしれないと(あわ)い希望を抱いて、聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で問いかけた。



「気にするって言うか・・・アンタは本当にそれでいいの?」



この問いかけに対しての答えは限られてくる。知らなければ、なんの事かと聞いてくるはずだ。ワタシは期待半分で言葉を投げかけた。



「当たり前ですよ!寧ろこっちから"行って"やるぞって感じですよ!」



その言葉を聞いたワタシは、今まで色褪(いろあ)せていた景色に段々と色が付いくかのような衝撃を受けた。同時にワタシが幼少の頃に母に読んでもらっていた、ある御伽噺(おとぎばなし)を思い出した。


その話は、よくある王子様がお姫様を助けるといったありきたりなものだが、ワタシはとても好きだった。しかし、成長するにつれ、家に縛られるようになってから、そんな都合の良い話なんて存在しないと決めつけていた。しかし、やっと目の前に現れたのだ。もしかしたら助けてくるかもしれない王子様に・・・・



「か、勝手にすれば」



不器用な言葉しか言えない自分が嫌になる。それにしても、顔が熱い。こんな感情になるのは生れて初めてなワタシは戸惑ったが、何故だか悪い気はしなかった。

次回は、新登場した【帯刀 葵 視点】です。

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