3話 ‐入学式編‐
剣崎さんと別れた後、ついに入学式会場へと着くことができた。看板に案内されるまま、入学会場である体育館へと足を踏み入れる。辺りを見渡すと、入学をするであろう生徒が何人か見えた。俺は、自分の席まで移動し着席する。
「(緊張するな~。それより、剣崎さんは何処にいるんだろうか?俺よりも先に来てるはずだけど)」
剣崎さんがいたら、続きの会話もできたのかもしれないが居ないのであれば仕方ない。さっそく新しい友達を作るため、きっかけを作ろうと考えた俺はこれからクラスメイトになるであろう両隣に目を向ける。
まず右隣を確認すると、既に隣同士でなにやら楽しそうに会話をしていた。そのため、次は左隣に目を向けると、見た目がいかにも怖そうな女子が座っていた。それを見た俺は、首をこれ以上にない程の速さで180°首の位置を戻し右隣へと再度ターゲットを切り替える。
「俺たち、同じクラスだぜ!ラッキー」
「ホントそれな!中学からずっと同じクラスって凄すぎね!?」
「(この中には流石に・・・いや待て、俺。ここで声をかけなければいつやるんだ!)」
新しくできた友達というか既に友達同士であろう二人に声をかけるのは難易度が高いと一度諦めたが、ここで実践しなければいつ実践するのかという、気持ちが段々と芽生え始める。そう、あの「サルでもできる友達全書」に書いてあったようにすればきっと友達なんて簡単に作れるはずと信じた俺は・・・
「おはよ――」
『う』を言おうとした瞬間、俺は左隣の人の呼びかけによって遮られた。
「ちょっと、アンタ。普通、私に声を掛けるべきじゃない?」
左隣から声が掛かる。俺も、わかってはいたのだ。普通、声を掛けるのなら、まだ誰とも会話をしていないであろう左隣の人に声を掛けるのが筋だとは、わかってはいた。しかし、俺の予感が囁いていたのだ。この人に声を掛けるべきではないと。
「ちょっと、聞いてんの?!アンタに言ってんだけど!!」
しかし、これ以上、無視することは到底出来そうにないので覚悟を決めて左隣へと視線を移す。長い栗色の髪を背中半分に下ろし、目つきが鋭い、この人と仲良くなろうと作戦を渋々、変えることにした。
「・・・うん。もちろん、聞いてるよ(怖そうな人だけど、見た目で判断するのはよくないよな)」
間はだいぶ空いてしまったが、誤魔化すように、初めから声を掛けるつもりであったかのように返事をした。
「そっ。ならいいの・・・私は鬼塚 乙女。アンタは?」
「俺は、空 廻流です」
最初は高圧的な雰囲気を見せていた鬼塚さんだったが、自分から名前を言う辺り本当は良い人なのかもしれないと思い始めた。そして、友好の証に剣崎さんとは出来なかった握手を次は自分から求めた。
「(予感なんて、やっぱり当てにならないな~)これからよろしく、鬼塚さん!」
なぜか鬼塚さんの視線が、俺の遠く後ろを見つめ、一瞬、顔が引きつったかのように見えた。多分、あまり好きじゃない旧友が後ろにいたのであろうと早々に結論付けた。
「ごめん。やっぱり仲良くできなぃ・・・」
え?『仲良くできない』と聞こえたが・・・しかし、何故か暗い顔をしている鬼塚さん。何か意図があったのかと先程の言葉を繰り返し脳内で再生させる。そして、俺はある答えに辿り着くことができた。
「(まさか・・・俺の名前が空廻流という名前にちなんで結局、仲良くできず空回りをした俺。という高度なボケを会話の潤滑油になるのではないかと考えてくれたのか?!なるほど、それなのに俺ってやつは・・・)」
きっと、鬼塚さんは俺が笑い転げるのを予想していたのだろう。それなのにも関わらず平然としているのがショックだったのであろう。先ほどまで逆にショックを受けそうになっていた自分を殴ってやりたいが、ここは抑える。俺は罪滅ぼしのため、少し声を張り、笑うことにした。
「ははは!そういうことだったんだね鬼塚さん!」
俺が盛大に笑うと、周りに座っていた生徒達が一斉にこちらを凝視してきた。それなりに声を張ったため、体育館ということもあって声が無駄に響いてしまったようだ。少し恥ずかしながらも、謝罪の意を込めた弁明を続ける。
「俺は好きですよ!そういうの!」
「は?何考えてんの!バカみたいっ」
「全部わかりましたから!そんなに気にしてたんですか(笑わなかった事)?」
「気にするって言うか・・・アンタは本当にそれでいいの?」
『それ』というのは、きっとボケが分かりにくかったことを鬼塚さん自身、それを理解しており、そのボケをこれからも理解できるのかという、俺に対しての挑戦状的な意味合いだと捉え、俺は椅子から立ち上がり、満面な笑みで答える。
「当たり前ですよ!寧ろこっちから"言って"(ボケを)やるぞって感じですよ!」
これで先程、鬼塚さんのボケに対して笑わなかった無礼は少しは許されたのではないかと感じた。ちなみに、今更気づいたのだが、未だに握手をしようとしていた手が残っていた。その手は、若干崩れて、銃のようなポーズになっていることに気づき、急いで手を引っ込め、早々に椅子に座りなおした。
「か、勝手にすれば」
なぜか、顔が紅潮し固まっている鬼塚さんに、さっそく俺のボケを見てもらおうと思ったが、入学式が始まる号令が体育館に響き渡り一時中断された。
意味の分からない描写があったとは思いますが、1話と同様に意図してますので次話をお楽しみに・・・次回、【鬼塚乙女 視点】