ここだけの話など存在しない
よくある話じゃないかなと
思うけれども、すぐにばれてしまうのも
よくあること。
美冬の足元に昨夜脱いだ下着がかたまっている。
「ほらよ」
弘樹がポンと纏めておいて、マッパで立ち上がり、バスルームに消えていく。
やっちゃったと思うけれど、後の祭りでこれはかなり危険な感じがぬぐえないのはどうやら私だけなのかも知れない。弘樹は美冬の友人の彼氏だから。う~ん、そこも少し微妙で二人は今冷戦状態にある。美冬はコロナ破局の後、男性恐怖症でどうにもこうにも恋愛には興味がなくなった感じがあったが、こういう事だけは別腹ということで禁欲生活が長すぎて、流されるまま気持ちが昂った結果がここにある。
しかし、こういうことには転びやすいのかもしれない。
美冬は今までお酒が過ぎると結構な頻度でこういうことになっていた。自分は酒に弱い癖に、最後までグダグダ言いながら最後はつぶれてしまうところまでは覚えているが、その先が付録としてついてくるような男としか飲みに行かないので、ほぼ確信犯だという自覚はある、確かに。
「ねえ、これって内緒ね」
「あたりまえじゃね~か。でも、会わないからいいようもないけどな」
「私は会うのよ。凪咲は今もあなたのことが好きなのよ。なのに、なんでこんなことしたの?」
「おや、帰ろうとした俺を掴んで離さなかったくせに、その言い方は何だよ」
どうやら美冬が悪者になっていることにようやく気が付いた。もしかしたら、こいつは自分の不利益を人に押し付けるつもりのようだ。これはいけないと反論する。
「酔っ払いの戯れをマジに受け取る方がどうかしてる。あの子と私の関係を知っていながら、こんなことするなんて最低!!」
「最低呼ばわりされることはないと思う、自分からキスしてきた癖に。最近男がいないから誰でもよかったのはお前だろう」
良くも悪くも、悔しいがある意味当たっているので下着を身に着けると美冬は全裸の男にトランクスを投げつける。
広い大きな背中がそこにある。だが、もう二度と触れないでおこうと思えば思うほど触りたくなるのはなぜだろうか。人のものだから? 友人の彼氏だから、優越感を感じたいからなどということではないのかもしれない。ここが、胸の奥にある何かがまだ、足りないと唆す。
やはり我慢しきれず美冬はそっと近寄り後ろから抱き着く。温かい、人間のぬくもりにほっとするのはなぜだろう。こんなに温かい、知らない男は怖いけれどよく知っているだけに安心感と背徳の気持ちが入り混じって頭が変になりそうだが、とにかく美冬は自分が寂しかったということだけは分かってきた。
「そうだね。私が悪い女なのかも知れない。凪咲にはもう会えないわ。どんな顔をしてあの子の話を聞けば……」最後まで話をさせない、最低な男の唇が近寄るとその先の言葉はもう出てこない。
すでに弘樹は準備ができている状態に仕上がっている。
美冬の気持ちは口にするほど甘美な背徳の味に酔いしれる、こんな朝っぱらから、するの? 心の声がこだまする。
朝の方がいいだろう、全部見えるから。
さてと、この二人はどうしたら無血ですむのかなど考えてはいない。獣はそういう事は考えないだろう、きっと。
そんなこと知ったことじゃない、でも動き出したものは止めるのは難しそうってことだけは確実に分かる。友人知人そんなものお構いなし。恋愛は下剋上、違うか、これは恋愛じゃない。まだ何もはじまってなんかいない。
おそらく獣になるのが得意で、気持ちが良ければそれでいいってこと。本能には逆らえないのが人間だからしょうがない。この場合は獣なのか人間なのかよくわからない様相を呈してきている。
美冬は何度も弘樹の肩に噛みつく。跡が残ろうがこうなればお構いなし、タガが外れて少しおかしくなっているのかもしれない。抑え込んできた欲求にガソリンを放りこんで火をつけたようなものだからしょうがない。
「なんだよ、変な癖」
「だって、限界まで来た時に何か噛んでないと声が大きくなるの」
それは本当のことだ。美冬はあの時の声が大きいと自分でも分かっている。
「じゃあ、出してしまえよ。俺も出すから」
「いいの?」
「ここはそういう場所だから、いいんだよ。あとのことは、終わったら考えよう」
終わりはあるのだろうか、美冬は組みし抱かれて頭の芯が遠くなる前に少しだけ、そう、思った。
了
後で大惨事になること間違いなし。