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七魔王の1番弱いやつ  作者: 藤百合
1/1

1話

01話


七魔王。世界中に点在する奇跡を扱う魔法使い(、、)の頂点に座する七人の王。


聖王、竜王、鎧王、賢王、武王、海王、夜王。


彼らは突出した力を持つ魔法使いであったが、本当の頂点は誰かについては民衆の間で何度も議論されたがついぞ決まらなかった。


しかし、1番弱いやつなら簡単に決まった。


それが鎧王ガリウス・ユーランハイド。

使える魔法は一つの魔法のみ。


しかし、民衆は知らない。


鎧王の実力を____。


▲▼▲▼▲▼


「ご主人、心地の良い朝ですね」


「………あぁ、まったくだ」


白髪の兎獣人(ウェアバニー)に冷水をかけられて起床した中年は、何故自分がゴミ山の中で肌着一枚で転がっているのか一瞬分からなかった。


冷えた水が寝惚けた思考を覚醒させ、この現状に至るまでの記憶が蘇る。


が、取るに足らない事だったと忘れることにした。


「ご主人、あれ程ギャンブルはするなと申しましたのにまた(、、)やりやがりましたね」


どうやら、中年の方は忘れたい記憶であったが、メイドの方は鮮明に覚えているようで、プルプルと握る拳が震えていた。


「違うんだアレイ。途中までは勝っていたんだ。本当だ、元金の五倍は稼いだんだ。ただ、その後何故(、、)か負け続けて」


本当に昨日はツキがあった。一瞬とはいえ、一軒家を買えるほどの小金持ちになったのだ。


まぁ、一瞬で失ったのだが。


「それで身ぐるみまで剥がされた、と。馬鹿ですか!?ご主人は何故学習出来ないのですか!というか酔った状態でギャンブルはするなとあれ程…!」


アレイと呼ばれた兎獣人のメイドは、怒り心頭とばかりに地団駄を踏んだ。


兎獣人の脚力は獣人の中でもトップクラスのため、舗装された街路がパラパラと砕けていた。


「落ち着けよ、アレイ。失ったものはしょうがないだろ」


「なんでパンツ一丁で落ち着いてるんですか!?言っときますけどご主人が持ってたのが最後の貯金だったんですよ!?一文無し!馬鹿!阿呆!甲斐性なし!」


「めちゃくちゃ言うじゃん。オジサン泣いちゃうよ」


とは言え、アレイの言う通り一文無しになったことは事実だ。


このままでは生活能力皆無である自分の世話をしてくれるメイドに支給する給料すら、ろくに払えなくなってしまう。


そうなるのは流石にまずい。


「仕方ない、仕事するかぁ」


「服どうするんですか」


「…タオルある?」


▲▼▲▼▲▼


メリダ・エンパイアのこれまでは、少しだけ不幸だったが特段特別というわけでもなかった。


エンパイア男爵家の長女として生まれた彼女は、贅沢まではいかないもののある程度裕福な家庭で育てられた。


ところが、八歳の頃平穏は終わりを告げる。メリダの父ドーパ・エンパイアの横領が発覚した。


すぐさまエンパイア家は男爵の爵位を剥奪、ドーパは処刑され、家族である妻アイダとメリダも処刑される予定だった。


アイダは娘だけでも生かすために隣の領子爵に話を通し、娘だけを逃がすことに成功する。


しかし、八歳の身で一人見知らぬ土地に逃がされたメリダがまともに生きてる訳もなくスラムの孤児として、泥水を啜って行くことしか出来なかった。


十歳の頃、栄養失調でぼんやりとする視界の中で、青い光のようなものを見つける。


掴もうとするとすり抜けていくそれは、自分の身からも微量に漏れ出ていることがわかった。


試しに体から漏れ出る青い光を地面に向けて放出した時、地面を穿ち、泥が飛び散った。


飛び散った泥が目に入り悶絶した。


それがメリダが魔法に触れた瞬間だった。


魔法を扱える人材は100人に1人ほどで珍しい。更にそれを実用レベルまで扱えるほどの魔力を備えた魔法士は更に稀だ。


メリダはその点で言えば運が良かった。


魔力は平均的な量保有しており、出力の幅が大きかった。普通の魔法士の二倍ほど多く魔力を放出することができたのだ。ただし、消費するスピードも2倍になってしまうが。


魔法学園で魔法を習ったわけではないので、使える魔法は魔法と言っていいのかも定かではない単純に魔力を放出するだけの【魔弾】のみ。


しかし、他に攻撃手段を持たないメリダにとっては十分な力だった。


十歳にしてメリダは所謂魔獣と呼ばれる害獣を討伐する冒険者ギルドと扉を開き、冒険者となる。


そして今、十八歳となったメリダは冒険者歴八年の中で最大の窮地を迎えようとしていた。


「これ不味くね?」


「不味すぎよ。キリがないわ」


チームメンバーのジェリーの顔色が悪い。おそらく鏡で見れば同じような顔色にメリダもなっていることだろう。


簡単な依頼だった。


狂緑鬼(ホブゴブリン)の討伐。

普通の緑鬼(ゴブリン)より一回り大きく人間の成人男性ほどの大きさの緑肌の鬼。姿形自体は人間に酷似しているため、武器を扱うことにも長けており、敵対した人間の死骸から剥ぎ取った装備を纏っている。


ただの民間人なら命の危機があるが、メリダとジェリーなら問題なく倒せる敵だった。


ホブゴブリンだけなら。


戦う途中で鉄蟻(アイアント)の群れと遭遇してしまったのだ。


大型犬ほどの大きさの蟻で、顎の力が強く鉄すら噛みちぎるアイアントは装甲が弱いため、簡単に撃退することが出来るが、如何せん数が多かった。


しかもホブゴブリンまで同時に相手しないといけないとなると2人では手が足りない。


みるみるうちに劣勢に追い込まれてしまう。


「メリダ!魔弾は!?」


「もう魔力がない!」


遂に魔力も底を尽き、魔弾すら撃てなくなったメリダは剣を引き抜いた。


決して安物ではないが、命を預けるには少し不安が残る剣を片手にメリダは腰を落とした。


メリダは魔法士であるが、魔力が尽きても闘えるように剣の鍛錬を怠ったことは一日もない。掌にできた固いタコが証拠だ。


剣のみを鍛えているジェリーにも劣らないだけの技巧を持ち合わせていると自負している。


「最高の知らせだわ!なら後はこいつらを斬って捨てるだけね!」


アイアントの首を絶ったジェリーが返り血を浴びながら声を張り上げる。全身を濡らす鮮血は魔獣だけのものでは無い。


メリダとは違い、最初から壁役として戦っていたジェリーは、いくつかはホブゴブリンに斬られ、アイアントに喰われているはずだ。


痛みで興奮状態となっているのだろう。


「ジェリーは後ろで休んで!後は私が」


「何言ってるの!ここは任せなさい!」


メリダはジェリーにとって妹のような存在だった。元々姉御肌ではあったが、孤児で捨てられたメリダによく気にかけ、冒険者に誘ったのも彼女だった。


故に責任を感じているのだろう。


「この数は長期戦になる!交代しないと体力が持たないわ!」


とは言え、無理をしてジェリーが死ねば確実にメリダも死ぬ。強引にジェリーを掴み、後ろへ追いやったメリダは切り替わるようにアイアントを切り伏せた。


そうしてどれほど時間が経っただろうか。


一際大きなゴブリンが現れた。

大きさはメリダの倍の3メートルほど。

巨人(ギガント)よりは小さいが筋肉隆々の肉体を覆う鎧の残骸は、今まで殺した冒険者の装備を奪って身につけたものだろう。


右手に持つのは両刃の大剣だ。

しかしその巨躯のせいで片手剣としか思えないが。


黒く濁った瞳の間に、長い角が一本生えている。


疲れ鈍った思考になった二人でもソイツが何かわかった。


緑鬼首領ドン・ゴブリン


ゴブリンには階級社会の様なものがああり緑鬼(ゴブリン)狂緑鬼(ホブゴブリン)緑鬼首領(ドン・ゴブリン)緑鬼王(ゴブリンキング)と分類される。


先程まで戦っていたゴブリンのひとつ上の存在。

しかし、そのひとつの差は大きい。


化け物が、醜悪に口を歪めて笑った。


ジェリーは恐怖のあまり、剣を落とし蹲った。ゴブリンに捕まった後の女性は悲惨な運命を辿る。


孕袋にされるくらいなら自決するのが最良の選択肢に思えた。落とした剣を拾い、首元に押し付けたジェリーは目を見開く。


メリダが構えていたのだ。


化け物を前にして戦う意思が衰えていない。


「メリダ」


「大丈夫、私が倒す」


明らかな虚勢だった。

よく見れば足がガクガクと震え、県の切っ先も覚束無い。


だが、心は折れていなかった。


故にドン・ゴブリンはすぐさま殺そうとせずに興味深そうに2人のメスを観察した。


その貴重な時間が二人の命運を分けた。


突如、ドン・ゴブリンが明後日の方向を見た。最初は油断させるための行動かと思ったがどうやら違う。


犬歯をむき出しにし、草むらの奥を威嚇するドン・ゴブリンに、二人は思わず体に力を入れる。


ドン・ゴブリンがここまで警戒する存在。


新たな脅威になるか、それとも救いになるか。


答えはすぐに出た。


ガサガサと草を分けながら歩いてきたのは2人組の男女だった。


「おいおい、ホントにこっちに金になる木があんのか?」


「えぇ、ご主人。ワタクシのモフモフの耳は索敵に非常に便利なのですよ」


一人は場所に似つかわしくない白髪のメイド姿の兎獣人ウェアバニー


もう一人は安物の布キレを身体に巻き付けただけの変態中年。


「お?先客がいるな」


「そうですね、マナー違反にならないように順番が来るまで待っていましょうか」


「そうだな」


呑気に地面に座る中年に、メイドはどこから出したのか紅茶を入れ始める。


中年はお構いなくとジェスチャーをして肩肘をついた。


「助けてください!」


たまらずメリダは声を張り上げた。

ドン・ゴブリンが酷く警戒する人間。見た目はともかくとして頼りになる存在のはずだ。


「て言ってるが、どうする?」


「順番を譲るというのであればマナー違反にはならないでしょうし良いのでは」


「そうか、なら譲ってもらおうか。その前に紅茶飲むからちょっと待って」


ドン・ゴブリンの前だと言うのに余裕を崩さない中年は見事な装飾の施されたティーカップをメイドから受け取りその中身を飲み干す。


「この芳醇な香りと、少し甘い味わいはサイラホーク領の茶葉だね?」


「いえ、テルスフルク領の茶葉です。紅茶の違いが分からないなら何も言わない方が良いと思いますよ」


「そうか。ご馳走様」


ようやく中年は、無警戒にドン・ゴブリンに向けて歩き出す。


本当に無警戒だ。武器は持っておらず、その足取りは軽い。まるで散歩しているようだ。


すぐに中年はドン・ゴブリンの間合いにまで侵入する。流石にそんなことをされればドン・ゴブリンも黙っていない。


持っていた大剣を振るう。質量を感じさせないほど軽々しく振るう剣が中年に叩きつけられ、粉砕した。


大剣の方が。


「俺の方が硬かった(、、、、)ようだな」


そういう中年の男は、格好つけたいようだが残念ながらほぼ全裸である。


「次は俺の番だ」


中年が1歩更にドン・ゴブリンに向けて踏み込む。


ドン・ゴブリンは何故か動かず、棒立ちのまま腹に拳が突き刺さる。殴ったとは思えないほどの鈍い音がなり、やはり棒立ちのまま動かないドン・ゴブリンは口から血を吐いた。


何度も何度も中年は殴り続ける。


その奇妙な光景にメリダ達は唖然とした。戦いと言うにはあまりにも一方的すぎた。


「ふぅ、こんなもんか。時間かかっちまったな」


殴ってもドン・ゴブリンが反応を示さなくなった頃、ようやく中年が殴るのを止めた。それと同時に今まで棒立ちを貫いていたドン・ゴブリンは支えを失ったかのように崩れ落ちた。


「ギャンブルで剣まで奪われてなければもっと早く終わったのですがね」


「誰だギャンブルで愛剣まで賭けたやつは」


「ご主人です」


「そうか」


終わってみれば中年は無傷。

拳ひとつでドン・ゴブリンを倒してしまった。


軽口をたたく中年を他所にメイドはテキパキと手際よくドン・ゴブリンを解体し、討伐証明である首を袋に入れた。


「じゃ、そういうことで」


中年は片手を上げ、元きた草むらをかき分け戻っていく。


メリダ達はその背中を呆然と見続けるのだった。


▲▼▲▼▲▼


「これで無一文から脱出したな。よしアレイ、少し金増やしてくるわ」


「殺しますよ」


「チクチク言葉こわぁ」


「本当に刺しましょうか?」


「こわいなぁもう、冗談だよ冗談」




続きは気が向いたら

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