第一章
「ゆかり、本当に行くのかい?」
もう何度も聞いたパパの言葉にきっぱりと返事する。
「約束したでしょ、高校は日本に戻るって。」
小学校入学直前、親の仕事の都合でベルギーへ引っ越したのを皮切りに
フランス、タイを経て現在ハワイに住んでいるのが私、大内いおり。
今の生活に不満があるわけじゃないけれど
どうしても高校生活は日本で送りたかった。
それは、幼馴染とした約束のため。「高校は3人で明應学園に通おうね。」
幼馴染の一人、緒方秀平。
野球少年だった彼は野球の強豪校だった明應に入って甲子園に行くことを夢見ていた。
そして、私ともう一人の幼馴染、月山盟子は
秀平を応援するといいつつ、本音は明應の可愛い制服にあこがれて…。
今思うとなんて軽い動機だと思うけれど
引っ越しの前、3人で交わした約束がずっと心の奥底にはあった。
盟子とはたまに連絡をとりあっていて、
彼女も秀平も明應に通う予定だときいていたこともあり
親元を離れてでも高校は日本に戻ろうと決心していた。
「おばあちゃんのところから通うから心配ないでしょ、それに昔の友達もいるから大丈夫だよ。」
パパには申し訳ないけれど、私には1ミリの不安も感じていない。
日本から送られてきていた漫画みたいな楽しい学校生活、アルバイト、部活に友達や彼氏なんかもできちゃったりして。みんなみんな楽しみすぎる!
「まぁ、明應なら安心か。」
パパは渡した学校案内を見て自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
10年ぶりの日本は変わっていないようで変わっていた。
明應学園までバスで30分かかるパパの実家。
以前はバス停横に小さな個人商店があるだけだったが
そのお店はなくなり、代わりに自転車で15分のところにコンビニができていた。
家族でよくいった隣町の本屋とレンタルビデオのお店もなくなって、
そこにはコインランドリーとコメリができていた。
「本当に久しぶり、いおり!」
明日に入学式をひかえて、盟子が我が家に遊びに来てくれた。
「いおりの家に来るのってはじめてだよね。」
「そういえばそうかも、幼稚園は盟子の家の近くだったからいつも遊びに行かせてもらってたもんね。」
「いおりが好きだった鶏、すごく増えてまだいるよ。」
「ほんと?卵をとらせてもらったの未だに覚えてる。
たしか秀平とりなちゃんはふ化させるのに成功したよね。」
「そうそう、りなの家から逆輸入された鶏もいるんだから。」
昔話にはじまり一日中話が尽きることがない。
たまにラインしたりしていたけれど面と向かって話をするのはほんとうに久しぶり。
自分でも自然に日本語がでてくるのが少しびっくりした。
「学校でもクラス一緒だといいなぁ。」
そうつぶやいたとき、盟子がびっくりしたように言った。
「あれ?言ってなかった?ごめん。私、高校は明應じゃなくて、今のところに内部進学なの。」
「ええええええっ?!初耳だよっ。」
「本当にごめんなさい。家の都合で…。それに持ち上がりのほうがクラブとかやりやすくて。あ、でも大丈夫。緒方君と美咲ちゃんは明應だし、確か幼稚園の同級生は他にも何人かいたはず。うちの高校も目と鼻の先だから放課後は合流して遊んでね。」
美咲ちゃんというのは、確か年中の時一緒のクラスだった前田美咲のことだろう。
「そっか、家の都合ならしかたないかぁ。じゃあ放課後は付き合ってよね!」