幼い容姿の女神と幼い異世界の少年
「では改めまして、私はこの国であるクラッツセイントの女神フィリアと言います。以後お見知りおきを」
「は、はい」
そう礼儀正しくドレスの裾を持ち上げ挨拶する目の前の少女、フィリア。
そんな彼女はまだ幼い俺からでもわかるほど綺麗だった。
端正に整った顔に腰まで伸びた淡いピンク色の髪。
幼いながらもしっかりと女性らしく丸み帯びた体格。
なによりも目を奪われたのはその琥珀色の瞳。
彼女の身に纏うドレスは高級なんだろう、色んな宝石が散りばめられているのかキラキラしてる。
その可愛らしい頭にはシンプルだがどこか美しさを感じさせるティアラが乗っている。
本当に童話や昔話のお姫様みたいだ。
そんな感想抱いたのは周りの状況もあっての事だろう。
今俺は応接室のようなところに連れられフィリアと相対させられている。
その周りには数人の甲冑を着込んだ騎士たちが俺たちを囲っている。
更に俺とフィリアの間には立派な髭を蓄えた老人が座って俺たちの会話の行く末を見ている。
そのほっそりと閉じた目からたまに見える眼光が鋭く、俺は堪らず震えてしまう。
まるでどこぞのお偉いさんと話してるようだ。
「それではもう一度最初からお尋ねします。貴方のお名前を教えてくれますか?」
フィリアがそう丁寧に尋ねる。
俺は周りの目もあって背筋を正して答える。
「さ、佐山星流です」
「?」
「はて?」
俺が正直にそう名乗るとフィリアも老人も首を傾げる。
「あまり聞いたことの無い名ですな」
「私も、記憶を遡る限りでは…」
「ふむ、和国に似たような名前があった気がするがのぅ」
「和国ですか…」
なんだよ、俺の名前が普通じゃないっていうのか?
確かにみんなとはちょっと違うような名前だけどさ。
というか和国ってどこだよ。そもそもここは一体どこなんだろうか、日本じゃないのは確かだって分かるんだけど…。
「少年、お主はどこからやってきた?」
あれこれ考えていると急に老人から質問されて慌てて答える。
「に、日本です!」
「ふむぅ…」
俺の答えにまたも眉をひそめる老人。
「どうしました?ローガン」
ローガンと呼ばれた老人はその蓄えた立派な髭を一撫でして閉じていた片目を開く。
「日本という国は儂が知る限り聞いたことない。お主、でたらめを言っておるでなかろうな?」
「ひっ」
今まで俺が知ってるどんな怖い人よりもずっと怖く感じる目の前の老人、ローガンに睨まれ思わず足が竦む。
「ローガン、あまり子供を脅すものではありませんよ」
「油断してはなりませぬ、魔女の使いである可能性もまた高いのですから」
「だとしてもです。それに、先程からこの少年は嘘をついていません」
「どこぞの魔女ならそれを掻い潜る魔法を持ってるやもしれませぬ」
「ローガン」
「ふむぅ」
フィリアに叱られたローガンはバツが悪そうに目を閉じてまた髭を一撫でする。
「ではどうされますか、女神様」
「…そうですね」
フィリアは顎に手を置き少し考える仕草をとる。
数秒考えて彼女はなにか名案でも思い追ついたかのように両手をポンと叩き笑顔でこちらを見る。
「あなた、帰る場所はあるのですか?」
「か、帰るって言われても、ここはそもそもどこなんですか?」
「ここはクラッツセイント王国の女神様のお城、その休憩室じゃ」
「アメリカとか、中国とかのどこかの都市ですか?」
「聞いたことのない国の名じゃな」
「そんな…」
そんなローガンの返答に俺は絶望する。
日本までしも世界的に名の知れてる国でさえ分からないと言われてさらに自分がどこにいるのか分からなくなった。
知らないこと分からないことだらけな上に突如一人になった孤独感に押しつぶされそうになり涙が溢れてくる。
「父ちゃん、母ちゃん…」
「そんなに悲しまないで、君の身の安全は女神である私が保証するから」
そんな泣きじゃくる俺にフィリアは同じ体格ながらも包み込むようにギュッと抱きしめられ頭を優しく撫でられる。
「ローガン、これでもダメですか?」
「わかりました、ですが儂もしばらくお城に留まりますがそれでも宜しいですか?女神様」
「もちろんです」
「では、そちらの少年の部屋を用意致しますので我々はこれで失礼致します」
ローガンは先程までの不服顔を隠しそう恭しくフィリアに一礼すると周りの従者たちを引き連れこの部屋を後にする。
部屋にはフィリアと星流の二人だけになった。
「落ち着きましたか?」
「う、うん」
「ふふ、よろしい」
泣き止んだ俺の顔を見てフィリアは微笑んで抱擁をゆっくりと解く。
「それではれある、違うお話しをしましょう」
「ち、ちがうよ、僕の名前は星流だよ」
「らー、らぁ?いぅる、うーん、難しいですね」
フィリアはしばらく考える人のポーズをとってうんうんと唸る。
すると突然また何かいい案を思いついたかのようにハッとする。
「そうです、ここにいる間はあなたの名前をライガルにしましょう!」
「えぇ!?」
「あなたの名前は私達では発音が難しいので、呼びやすくそうしましょう。それに貴方にとってその名前は魔女と同じように特別なものかもしれません。隠す必要があります」
「魔女?」
「私たち女神と相反する存在、と言った感じですかね」
「??」
「まだ難しかったですか。いいでしょう、このことは後々説明致します。それよりも今後の話です」
フィリアはそうはにかんで俺の頭を撫でる。
同じぐらいの歳だと思わせるような容姿なのに何故かフィリアは大人っぽく見える。
そんな俺の疑問もこれからのフィリアとの話しをしていくうちに驚くことになる。
彼女は俺と同い年でも、ましてや近い年齢でもなかったのだから。