7
俺は初白のスマホを探しに来た道を戻った。
先ほど初白と話をしていた場所に落ちていないかと思ったが、残念ながらスマホは落ちてなかった。
もしかしたら、俺と会う前に落としたのかもしれない。
そう思った俺は一年生の教室に向かった。
まぁ、俺が探してやる義理はないのだが、作戦を立てた手前、成功してもらわないと後で初白がうるさそうだ。
「おい、スマホ落ちてたぜ」
「え? マジ? 落とし物じゃね?」
「先生のとこ届けるか……ってこれ、三組の初白のじゃね!?」
「マジで!! あの一年で一番かわいいって評判の!」
一年生の教室に向かうとわかりやすい感じで、一年生の男子二人組が初白のと思しきスマホを拾っていた。
とりあえず見つかったようだし、あとはあの二人が職員室に届ければ、自然に初白の手元に戻るだろう。
俺はほっと一安心し、その場を立ち去ろうとした。
「な、なぁ……このスマホのロックどうにか開けられないかな?」
「あ、開けられたら、初白さんのプライベートが……ごくり」
いや、ごくりじゃねーよ。
普通に犯罪だよ。
大丈夫かこいつら……なんか少し心配になってきたな……。
「た、試しに初白さんの誕生日の数字入れてロック外れないか確かめてみろよ!」
「よ、よし!」
いや、そんな単純なわけ……。
「あ、開いた!!」
単純だったよ……あのバカ!
俺はスマホを拾った二人の男子生徒の元に向かった。
「おい、一年」
「え? な、なんですか?」
「俺らになにか?」
二人は初白のスマホを背後に隠した。
いや、バレバレだっつの……。
「いや、初白って子からスマホを探してくれって頼まれたんだが、ここら辺に落ちてなかったか?」
「え? あぁ……こ、これですか?」
「あぁ、それだ。ありがとよ」
スマホの話をすると、二人は俺に初白のスマホを恐る恐る手渡した。
俺はそのスマホを受け取り、二人にお礼を言ってその場を後にした。
「なんなんだあの人?」
「初白さんの知り合いか?」
後ろでスマホを拾った二人がそんな話をしていた。
どうやら、初白は一年生の間ではモテるようだ。
しかし、最近の一年はどうなってんだ……人のスマホを見ようとするなんて……。
俺はそんなことを考えながら、初白と高弥を探す。
初白と高弥はすぐに見つかった。
俺と同じ考えで、一年生の教室周辺を探していたらしく、すぐ近くにいた。
俺は初白のスマホを二人が通る通り道に置き、柱の陰でその様子を見ていた。
「あ、ありました!」
「あ、よかったね! じゃあ、僕の連絡先教えておくから、平斗が見つかったら教えてあげるよ」
「は、はい!」
高弥と初白はスマホを見つけ、無事連絡先を交換したらしい。
よし、これで当初の目的は達したし、俺は出て行ってもいいよな?
俺はそう思い、二人の前に姿を現した。
「うーす」
「あ! 平斗! どこに行ってたんだい? 初白さんと探してたんだよ?」
「悪い悪い、ちょっとな」
「もう……ゲーセン行くんだろ?」
「あぁ、それもそうだが、少し初白に用事があるんだ、良いか?」
「あぁ、そういえば初白さんにも用事があったんだね。いいよ、僕は先に昇降口で待ってるから」
「おう」
高弥はそう言って、一人その場を後にした。
「良かったな、これで連絡取れるぞ」
「はい! まさか先輩の作戦がこうも上手くいくなんて……てか見てたんですね」
「俺を頼ったくせに信じてねーのかよ……まぁいいや、あとは一人で何とかしろよ」
「え! もう手伝ってくれないんですか……」
「当たり前だ、最初に言っただろ? 俺は俺にメリットがあることしかやらない」
「ぶーけちぃー」
「なんとでも言え」
「けちけちけーち!」
「はいはい、じゃああとはがんばれよ」
俺がそう言って彼女の元を後にする。
「先輩!!」
「今度はなんだ?」
「ありがとうございました!」
呼び止められ、後ろを振り向くと意外にも初白が俺に頭を下げてお礼を言っていた。
まさかこんなしっかりお礼を言われるなんて思わなかった。
「お、おう」
俺は驚きつつ初白にそう言い、そのままその場を後にした。
意外とちゃんとしているのかもしれない……。
俺は初白への印象を少し改めながら、高弥の待つ昇降口に向かった。
*
初白に協力してから数日が経った。
あれから初白と話すことは無くなった。
あれで協力するのは終わりと言ったからだろう、たまに廊下で会っても挨拶してくる程度だった。
「ねぇ、初白さんとは最近どうなの?」
「どうってなんだよ」
「いや、最近は話をしてないみたいだから」
昼休みに高弥と食事をしていると高弥がそんなことを訪ねてきた。
「だから言っただろ? もともとただの顔見知りなんだよ」
「そっか……」
「お前の方こそ、初白と連絡先交換したんだろ?」
「うん、でもまだメッセージとかは来たことないよ」
「は? マジで?」
「うん、マジ」
あいつ……人が折角協力してやったのに……。
メッセージを送らなきゃ連絡先を交換した意味がないだろ……。
俺は初白に対してそんなことを思いながら、咥えていたパンを食いちぎった。