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「もしもし?」
『あ、もしもし? 平斗?』
「おう、どうした? 死にそうなのか?」
『なんでそうなるんだよ、まぁお弁当は……死ぬほどでは無かったよ』
「あぁ……やっぱりか……それでどうしたよ? 何か用か?」
『いや、今日一日連絡が取れなかったから、大丈夫かなって思って』
「あぁ悪い、道場が忙しくてな……今からも食事会があるからあんまり長話は出来ないぞ」
『あぁ、いや別に大した話じゃないんだ……久しぶりに女の子を撮ったよ』
「初白の事か? 別にそんなの……」
『なんか……昔を思い出したよ』
「……そうか」
俺はそう高弥が言った瞬間、高弥が何を言いたいのかわかった気がした。
高弥はきっと三年前の事を言っているのだと……。
そして、あの時間がもう戻っては来ないのだと……。
「何が昔だよ、俺たちまだ高2だぞ」
「はは、そうだね。ごめん、なんかレンズ越しに初白さんと彼女を重ねちゃって」
「……そうか………」
「まさか、彼女をあそこまで憎らしく思う日が来るなんて……あの頃は思ってもみなかったよ」
「もういいだろ、その話は……悪いがそろそろ母さんを手伝いに行かないといけないんだ切るぞ」
「あ、悪かったね、急にこんな事を言って、じゃあまた明後日学校で」
「おう」
俺は電話を切り、キッチンに向かい、母さんの手伝いに向かった。
まさか、高弥があんな事を言うなんて意外だったな……。
初白に本当に気があるのか?
そうだったら、初白は上手くやったようだな。
それにしてもあの高弥がここまで興味を持つなんてな……。
「あいつもそろそろ彼女が欲しいのかな?」
まぁ、高二だし彼女が欲しいと思ってもおかしくない年齢だからな。
初白は他の女子生徒に殺されないと良いけど。
俺はそんな事を考えながら、母さんの手伝いをしていた。
料理も出来上がり、いよいよ食事会が始まった。
門下生とその家族を合わせると人数は三十人近く集まった。
師範である父さんが色々話をした後、食事会はスタートした。
俺は城崎さんと年代が近いという事もあり、近くに座るように父さんから言われ、城崎さんの隣で飯を食べていた。
「あ、あの……島並さんは一日どれくらい稽古をしたんですか?」
「え? あぁ……平日は三時間とかで、休日は六時間とかかな?」
「なるほど……」
「……城崎さんは強くなりたいの?」
「はい! 空を飛べるくらいになりたいです!」
「それ、どっかの七つのボールを集める漫画の中の話だよ」
「え! 空は飛べないんですか!?」
「いや、飛べたらその人はもう人間じゃないよ……」
「なんだ……」
マジで飛べると思ってたのかこの子?
この子って少し天然なのか?
まぁでも、武術に興味を持って色々調べたんだろうな。
この子は体も小さいし、今のままじゃ力も弱いけど、稽古を積めば化けるかもしれないな。
ま、根拠はねぇけど。
「あ、あの……島並さんはもう……本当に稽古に来ないんですか?」
「あぁ、学校もあるし、勉強もしないとだし」
「……た、たまにで良いので来てくれませんか? 私、島並さんに教えてほしいです……」
「え?」
一体、俺の何が良かったのだろうか?
彼女は俺にそんな事を言ってきた。
「いや……俺より親父の方が教えるの上手いと思うけど……」
「島並さんが良いです……だめですか?」
おぉ……そんな感じで頼んでくるのは卑怯だぞ……。
城崎さんは上目遣いで俺にそう頼んでくる。
なんで俺にこだわるのかはよく分からないが、こんな風に頼まれると断りづらくなってしまう……。
「いや……俺はもう……」
「おいコラ平斗!」
「いてっ! な、なにするんですか……」
俺が城崎さんと話をしていると、反対側の席に座っていた茜さんが俺の頭を叩いてきた。
「まったく、何デレデレしてんだよ、やらしぃ~」
「別にデレデレなんかしてませんよ」
まぁ、仕掛けたけど……。
だって、この子メチャクチャ可愛いし。




