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「全く……仕方ないので教えてあげます」
「いや、だから別に興味はないんだが……」
俺は別に良いと言っているのにこいつは勝手に話始めた。
「あれは、今年の春の事でした……」
「どうせ一目惚れとかいうんだろ……」
「な、なんでわかるんですか!」
「マジかよ……ただの面食いじゃねーか」
「失礼な! 私は面食いじゃありません! イケメンが好きなんです!」
「それを世間では面食いって言うんだよ」
俺はこのアホがどれだけアホなのかを知って、ため息を吐いた。
そう言えば、俺はこの子名前すら未だに知らない。
「おい、そういえばお前はなんて名前なんだ? なんでかしらんが、俺の名前は知ってたけど」
「え? 自己紹介してしませんでしたっけ?」
「してねーよ」
「私は初白蓮花です。蓮花ちゃんって呼んでください」
「よし、わかった初白」
「わかってませんよね、それ」
「あぁ、すまん。アホ」
「おい! それはただの悪口じゃないですか!」
「まぁ、お前もどこにでもいる普通の面食い女子ってことか……」
「だから私は面食いじゃないですって!!」
「まぁ、どっちでもいいが、高弥は簡単には落ちないと思うぞ」
「なんですかいきなり、昨日は協力を断ったくせに」
「まぁ、ストーキングしてくるとは思わなかったしな」
「ストーキングじゃないです、研究です」
「はいはい、ストーカーはみんなそういうことを言うんだよ」
俺が初白とそんな話をしていると、俺に気が付いたのか、高弥が買い物を済ませてこちらにやってきた。
「あれ、どうしたの平斗? それにこの子」
「あぁ、ちょっとな、お前は買い物終わったのか?」
「うん、僕は終わったけど……」
高弥は俺と隣の初白を交互に見る。
初白は高弥の登場に緊張し、顔を赤く染めながら口をパクパクさせている。
「仲良いんだね」
「良くねーよ」
「こんにちは、僕は真木高弥。平斗の親友だよ」
「そんな自己紹介ある?」
「本当の事だろ?」
高弥の自己紹介に初白は緊張しているようで、言葉を詰まらせていた。
「あ、えっと……わ、私は……一年の初白です……」
「よろしく、まさか平斗にこんなに可愛い知り合いが居たなんてね」
「か、可愛い……」
高弥から可愛いと言われ、初白は顔を真っ赤にして照れていた。
相当うれしかったらしい。
「おい、親友君。言っておくが、俺とこの子はただの顔見知りだ」
「でも、僕は知らなかったよ、平斗にこんな顔見知りがいるなんて」
高弥はそういって、初白の方を見る。
初白は相変わらず緊張しているようで、うまく話しが出来ないようだった。
「どんな関係なの?」
「あ、いや……あの……私とせ、先輩は……」
見ていられなくなった俺は、初白のために助け舟を出してやることにする。
「ちょっと色々あって、あったら少し話をするだけの関係だ」
「そうなのかい?」
「あぁ、何を勘ぐってるのかわからないが、別にそんな関係じゃないぞ」
「え? 違うのかい? 僕はやっと平斗の春が来たのかと思ったのに」
「そんなわけねぇだろ、ほら帰るぞ、初白も用事終わったなら一緒に帰るか?」
「え? あ、はい!」
まぁ、ここで会って彼女を残してそのまま帰るのも可愛そうな気がしたので、俺は初白も誘って一緒に帰ることにした。
帰っている途中も初白は頬を赤く染め、借りてきた猫のようにおとなしかった。
「一年生は入学したばっかりでいろいろ大変でしょ?」
「は、はい……」
「困ったら何でも言ってね、平斗に」
「おい、高弥!」
「冗談だよ」
折角俺がチャンスを作ってやっというのに、初白はそれを全く活かせていない。
俺と話すときはあんなにぺらぺら色々言ってくるくせに……。
やっぱりあいつじゃ、高弥を落とすのは無理だろうな。
「全く……」
「ん? どうかしたのかい?」
「別に……何も」
結局、ショッピングセンターから駅まで初白が高弥に何かを話しかけることはなかった。
「じゃ、じゃあ私電車なので……」
「あ、そうなんだ、気を付けてね」
「は、はい!」
「ん、じゃあね」
「……」
俺は無視かよ。
なんてことを思っている間に、初白は駅の中に消えていった。
「良い子だったね」
「いやどこが?」