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「城崎さんはなんでうちの道場に来たの?」
「えっと……私は中学に上がる前までロシアに住んでて……」
「あ、そうなんだじゃあ帰国子女なんだ」
「はい、そうなりますね」
休憩中、俺は道場の裏で城崎さんの隣に座って少し話をしていた。
これから先もうちに通うんだったら、少しは仲良くしておきたいし。
まぁ、実際この子は可愛いから、すぐうちの道場でも人気者になりそうだけど。
「昔から日本の武術に興味があって、そしたら近くに道場があったので……」
「そうなんだ。どう? 思ってたのと違った?」
「いえ、楽しいです、体動かすのは好きですから」
「そっか、それはよかった」
「あの、えっと……島並さんはいつから稽古をしてるんですか?」
「確か6歳くらいの時かな?」
「そうなんですか、お父さんの影響ですか?」
「まぁ……そうと言えばそうかな? 実際、気が付いたら胴着を着せられて、稽古をつけられてたからね」
「そうなんですか」
「うん、そんな感じ」
やばいなぁ……いまいち会話が盛り上がらない。
話やすさで言ったら、あのアホの方がいくらかマシだな。
そんなことを考えていると、誰かが俺の頭を軽く叩いてきた。
「あいて」
「おい、平斗! 何新人の子を口説いてんだよ!」
「別に口説いてないっすよ、なんっすかもう」
俺の頭を叩いてきたのは、竹内さんだった。
竹内さんはニヤニヤと笑いながら、俺に向かって話す。
「いや、少し相手をしてほしくてよ! 少し付き合え!」
「いや、俺は城崎さんの指導中なんですけど……」
「師範代が代わってくれるって言ってるから、心おきなくやりあえるぞ」
「いや、そもそも俺はもう稽古は……」
「細かいことは良いいからさっさと来い!」
「いや、あのちょっと!!」
俺は竹内さんに引っ張られ、そのまま道場に戻される。
「あ、城崎ちゃんも見る? 俺と平斗の組手」
「え、あ……じゃあ、はい」
竹内さんは城崎さんにそう言い、俺を片手で引っ張りながら、城崎さんを道場の中に案内した。
「マジでやるんですか?」
「あぁ、もちろん本気で来いよ!」
「竹内さんの本気は怖いんですけど……はぁ……」
道場の真ん中に俺と竹内さんが立つと他の門下生たちが回りに集まってきた。
「え? あの二人が試合をするんですか!」
「これは珍しい、良いものが見れそうだね」
「わしは、竹内君に200円掛けようかのぉ」
「え? じゃあ私も竹内さんに300円!」
「じゃあ、俺も竹内に500円」
「おい! 全員竹内さんに賭けたら、賭けになんねーだろうが!!」
俺は思わず、話をしていた門下生の人たちに向かってそう言った。
なんで俺には誰にも賭けねーんだよ!
まぁ、実際俺の方が弱いから仕方ねーけど……。
「あ、あの……」
「ん? あぁ、嬢ちゃんか、どうした?」
「あの……島並さんは弱いんですか?」
そんな話をしていると、城崎さんが茜さんに向かってそんなことを聞いていた。
てか、わざわざそんなことを聞かなくても……。
みんなの反応見たらわかるだろ……。
「あぁ、平斗も強いは強いよ? でも竹内さんはそんな平斗よりも全然強いからね。まぁ、見ててみな」
「は、はぁ……」
笑顔で城崎にそう言うと、再び俺と竹内さんの方を見る。
「はぁ……じゃあ、さっさと始めましょうか」
「へへ、お前とヤルのが一番楽しいからな……行くぞ平斗!」
「うっ!!」
竹内さんはいきなり俺の腹に向かって正拳突きをしてくる。
この人、初っ端から本気だ……。
「はっ!!」
「うぉ! 平斗、なかなかやるなぁ……」
俺は竹内さんに負けず、蹴りを入れてやり返す。
その後も俺と竹内さんの組手は続いた。
最早本当に組手と呼べるのかと言えるのかわからないほど、俺も竹内さんも本気だった。




