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「あ、すいません」
「あ、大丈夫で……」
帰ろうとしたところ、俺は入り口で女の子とぶつかってしまった。
そして、俺はその子の顔を見た瞬間、昔の記憶が頭の中でフラッシュバックするのを感じた。
「……島並……君」
「………村谷……」
長く茶色い髪、大きな瞳、そして俺の首元位までしかない小さな身長……。
俺はその子を見た瞬間、すぐにこの場から立ち去らねばと思ってしまった。
口からは彼女の名前以外何も出てこない。
何を話したら良いかも、何を話せばいいかもわからない。
そんなとき、俺の様子を席から見ていた高弥が俺の元に急いでやってきた。
「平斗、一体どうし……村谷さん……」
「あ、真木君もいたんだ……」
彼女は冷めた目で俺と高弥を睨んでいた。
それに負けじと、高弥もいつもは絶対にしないような冷たい視線を彼女に向ける。
そして、すぐに俺にこう言った。
「平斗、もうこの店を出よう、水がまずくなる」
高弥は彼女に向かってそういった。
皮肉だということに彼女は直ぐに気が付いたのだろう、俺と高弥を睨みながら言い返してきた。
「あら? なら出て行かなくても良いわよ? 私が出て行くから、アンタらと同じ場所でお茶なんてできないし」
「あぁ、それは偶然だね僕もだよ」
いつもは温厚な高弥が彼女にだけは怒りをあらわにしていた。
初白は少し離れた席から、俺たちの姿を見ていた。
高弥のいつもと違う雰囲気を見て、少し怯えている様子だった。
「平斗、もう行こう。彼女の顔は不愉快だ」
「あら、ありがとう私も貴方達の顔は不愉快で仕方ないの」
「そうかい……」
「高弥、悪いけど先行くわ」
「あ、あぁ……」
俺は彼女から目を逸らし、高弥にそう言って店を後にした。
その別れぎわ、彼女は俺に向かってこう言った。
「私は絶対、アンタを許さないから」
「……」
俺はそんな彼女の言葉に答えず、そのまま店を後にした。
「……まさか……またあいつと会うとはな……」
自宅に帰りながら、俺はそんなことを口にしていた。
元同級生、村谷千咲を俺は嫌と言うほど知っていた。
だから、こそ俺は彼女と一言も口を利かなかった。
本当はもう会わないと思っていた。
もう会話をすることもないだろうと思っていた。
俺は自分でも気が付かない間に早足になっており、気が付くと既に家についていた。
「ただいま……」
「あら、お帰りなさい……どうしたの?」
「え? な、なにが?」
「顔色悪いわよ? 大丈夫?」
「あ、あぁ……だ、大丈夫だよ……」
家に帰るなり、母さんからそんなことを言われてしまった。
どうやら俺の顔色は相当悪かったらしい。
父さんにも竹内さんにも同じことを言われてしまった。
*
数分前、僕はこの世で最も嫌悪している女性と再会し、かなり不機嫌になっていた。
村谷千咲、僕は彼女に対して怒りの感情しか抱かない。
彼女が中学時代に平斗にしたことが今でも許せないからだ。
「あ、あの……真木先輩?」
「え? あ、あぁ! ごめんね、急に連れ出してビックリしたよね?」
「い、いえ私は全然……ところでさっきの女の人は?」
「あ、あぁ……ちょっといろいろあってね」
僕は一緒に喫茶店から連れ出した初白さんにそんなことを言う。
彼女と僕とはちょっとどころではない、たくさんいろいろなことがあり、今では憎むべき相手になっている。
「あの子が平斗の噂の元凶ってところかな……」
「え? そ、そうなんですか?」
「あぁ……だから、僕がこの世で最も嫌いな女の子だよ」
「そ、そうなんですか……」
初白さんと町の中を歩きながら、俺はそんなことを話していた。
詳しい話を初白さんにするべきか、僕は悩んだ。
しかし、僕は初白さんにこの話をするのはまだ早いと思っていた。
初白さんが信頼のできる人か、僕はもう少し見極める時間が欲しかった。
だから僕は話を逸らすために彼女にこう言った。
「さっきは少し不安な思いをさせただろうし、土曜日にお昼をごちそうするよ」
「え!? いや! そ、そんなの悪いですよ!」
「良いから、遠慮しないでよ、おいしいお蕎麦屋さんがあってね」
「そ、そうなんですか?」
そう僕に問いながら、彼女は僕の顔を見ていた。
早くこの子は僕に素の姿で話掛けてくれないだろうか?
猫を被っていることには気が付いているのだが……。




