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 8月の初め、俺はいつもどおり道場で後輩三人に稽古を付けていた。


「てぇい!!」


「だから、脇が開いてんだよ」


「あだっ! いっつぅ〜」


「おい大島、兄貴に何回同じ事を言われてるんだ、早く覚えろ」


「うるせぇ! 悟! お前も同じだろうが!!」


「ふ、二人とも喧嘩しないで……」


 大島と悟が稽古のことで揉めだし、それを城崎さんが止める。

 こんな光景も大分見慣れてきた。

 この三人の中で現在一番力を付けているのは城崎さんだ。

 まぁ、二人よりも歴が長いというのももちろんあるが、それ以上に彼女にはセンスがあった。

 二人も女子に負けてられないと毎日稽古に励み、城崎さんに迫る勢いで成長をしている。


「とりあえず休憩な、ちゃんと水分取れよ」


「はい兄貴!」


「あと、お前らちゃんと汗も拭いておけ、女の子も居るんだ、清潔にしておけよ」


「はい! 島並先輩!」


 俺はそう言うと、道場から出て外の水場にやってきて頭から水を被る。


「はぁ……気持ちぃ……」


「あ、あの島並さん……タオルどうぞ」


「え? あぁ、ありがとう城崎さん」


 俺は後ろからついて来たのであろう城崎さんからタオルをもらい、顔を拭く。


「毎日暑いねぇ、まぁもっと暑苦しいのがうちの道場に居るけど」


「うふふ、あの二人、本当に島並さんを尊敬してるんですね」


「そうなんだろうな、正直あの態度を見ていれば嫌でも分かるよ」


 まぁ、尊敬されるのも正直楽じゃない。

 アイツらから尊敬されるなら、俺もそれ相応の強さを維持しなければならない。

 あの馬鹿二人ががっかりする顔なんて見たくねぇし、面倒だ。

 そんな事を考えて居ると、俺の視界は急に暗くなった。


「……誰ですか? まぁ想像は付きますけど」


「お! 敬語ってことは俺だって気がついてたな平斗!」


「子供みたいな事しないでくださいよ、竹内さん」


 俺がそう言うと、笑顔の竹内さんが俺の後ろから目の前に現れた。


「よ! なんかお前と会うのは久しぶりだな」


「貴方が総合格闘技の大会に行ってたからでしょ?」


「まぁな! おかげで全勝して優勝だぜ!」


「それはおめでとうございます」


 まぁ、竹内さんみたいな化け物に勝てる人間なんて、父さんか師範くらいしか居ないか。

 

「でも、やっぱりやりたりなくてなぁ〜……平斗、後で付き合えよ」


 そう言いながら竹内さんは俺の方を見て笑みを浮かべる。

 遠回しに行って入るが、要するに「俺と戦え」と竹内さんは言っているのだ。


「はぁ……その大会で不完全燃焼だったときに俺を使うのやめてもらえませんか? 俺は毎回必死なんですけど」


「そう言っても、お前は毎回受けてる。お前も心のどこかで俺との戦いを楽しんでるんだろ?」


「違いますよ」


 違うと言うか、すこし違うが正しい。

 楽しんではいないが、竹内さんとの試合は良くも悪くも毎回必死だ。

 そのため、良い練習になるし、自分の実力を確認する良い機会でもある。

 だから俺は毎回この人の誘いに乗る。


「良いですよ、少し休んでからでいいですか?」


「あぁ、構わないぜ」


 そして、俺が竹内さんとの勝負に応じる理由はもう一つある。

 それは……この人に勝ちたいという欲求だ。


「じゃぁ、俺は道着に着替えて準備体操でもしてくるよ」


「はい、俺は道場で待ってます」


 竹内さんはそう言うと、ニコニコしながら更衣室に向かっていった。


「島並さん……また竹内さんと組み手を?」


「あぁ、多分負けるけど………あの馬鹿二人が俺を尊敬して、超えたいと願っているように、俺も竹内さんを超えたいんだ」


「が、頑張って下さい! 応援してます!!」


「ありがとう」


 俺はタオルを首に掛け、城崎さんにそういう。

 後輩が頑張ってるのに、俺が頑張らないわけにはいかないからな。

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