誰だよ
みんなで一緒にニャンコフ!
ニャンコフって結局なんなんだよ。
ただの口癖じゃないのかな?
これまで言わなかったことを話そう。俺は犬だ。正確に言うと犬人間だ。俺の父親が犬人間だった。狼男がよく世に知られているが、犬人間は、その名の通り犬の人間だ。
単なる下位互換にすぎない。狼は凶暴だが、犬は人間に飼い慣らされている。そのため、狼男よりも人間を守ることができない。
しかし狼男よりも人間の気持ちを知れる。
正確に言えば色んな違いがある。
狼男というのに、なぜ犬人間というのか、それは単に女もいるからだ。
「姉ちゃん、俺、泣かない。俺は人間として生きるよ。」
「おい! 乾! 帰れ!」
「どうしてだ。俺とお前は友達だろ」
そう言って、グッジョブと親指を立てた。
「それもそうだが、俺は一人の時間を楽しみたい。その気持ちは分かるだろう。友達なら」
「ぐうの音も出ないな。俺の負けだ。帰るよ。」
時計を見ると、25時47分と表している。
「あーれ、もう電車が通っていないやー仕方ないよなあー友達なら、泊めてくれるよなぁ」子犬の目をして見つめた。
こいつは少し悩んだ後、「今日だけだからな。」と言って泊めさせてもらえることになった。
三上冬、こいつの名前だ。発明家というか研究者というか、普通の大学院生だ。
しかし、彼の力を借りなかったら、ここまでやっていけなかった。
「今度飯奢るからよ。許してくれ。俺の部屋をよく分からん女に、奪われてる状態だからな。どうしようもできん。」
「それよりも、サインをもらって転売して、それで稼いだお金を俺によこせ。宿泊代と俺のギャラだ。」
「そんなことできるわけないだろう。俺はこれでも警察官だぞ。逆に転売をさせないようにするのが俺の役目なんだけど。」
「そういえば・・・聞きたかったんだが、ニャン子のことは好きなのか?」
時は遡って、およそ4時間40分前
「お前、警察官の俺たちとやりあうっていうのかい。キラン!」
「うるさい!俺はニャン子ちゃんとニャンコフするんだよ!そういう赤い糸が繋がっているんだよ!大好きなニャン子ちゃんと一緒に暮らすんだよ。ニャンコフ!ニャンコフ!」
待て、こいつら、手遅れだよな。
ニャン子というやつがいるからこんな世界になってしまうんじゃないのか。もしかしてこの女を逮捕した方が早いのかもしれない。
俺は手錠を彼女にかけた。
「ちょっと!どういうことなの!私じゃなくて、あの男でしょ!」
「すまない、素でやってしまった」
「普通に傷つくんですけど・・・というかこの手錠、早く外しなさいよ!」
「おい、お前・・・よく分かってるな。ニャン子ちゃんの歌の良さを!!!」
「まじかよ。3rdシングルの「ユーフォーエバーエターナル23(トゥエンティスリー)」の「エタ、エタ、エタ、エターナル!フォフォフォフォフォフォッフォフォフォフォーエバーエターナル大好き23!」23をタイトルのトゥエンティスリーと読まないで、兄さんって呼ぶところが良いよな!」
「なぁ!」
「なぁ!友よ!!」
「はい。逮捕!! とりあえず、話は交番で聞くからな!」
「なんだよ!騙しやがったな!このやろう!」
「はいはい。」交番で話の続きをしようぜ。
コソコソ耳打ちをしている声が聞こえた。
嗅覚がいいのでね。
「ちょっと私の話を聞きなさいよ!だから外せ!!!」
「すまん、あいつらのことを心の中で、ツッコんでた。」
ツッコミすぎて、言いたいことがいっぱいあるのだが、ただ一つ言いたいことがあった。
「お前はブラコンなのか?」
その後、俺は手錠外し、事情を聞くために交番へ向かった。
俺の質問には答えてくれなかった。
俵葉駅前交番
どうしてこうなったのだろうか。交番の中で、急にライブを始めやがった。
2、3曲歌った後に、コールアンドレスポンスまで始めた。
「この伝説のライブを盛り上げてね!行くよ〜!」
「ニャンコフ!!」
「ニャンコフ!!」
「もう一回! ニャンコフ!!」
「ニャンコフ!!」
「もういっちょ、ニャンコフ!!」
「ニャンコフ!!」
「ラストに、ニャンコフ!!」
「ニャンコフ!!」
「と思いきや、ニャンコフ!!」
「ニャンコフ!!」
「からのニャンコフ!!」
「ニャンコフ!!」
俺はため息をつきながら、和田将喜と、身元もはっきりしていない男とニャン子という女
の即興ライブを交番の休憩所でやっているのを何度か確認しながら、この男の免許証やスマートフォンなどを押収し、署へ確認の連絡を取っていた。連絡をし終え、確認してみると、この馬鹿二人は、寝ていた。
馬鹿二人の隣には、女性が持っているような水筒が立っていた。
おそらく、勘違いだろうと思いながら
「おい、なに寝てんだよ。」と起こそうとした時、「起こさないで!私が眠らせたんだから、ある実験がしたくてね!」
と言いながら腕をグルングルン振り回していた。
俺はその腕を捕らえて、ニャン子に手錠を掛けた。
「逮捕ね。理由は分かっているとは思うけど。」
「ちょっと待ってよ!やりたいことがあるの!」
「問答無用。」
「分かったわ。私のサイン入りのCDをあげるわ。」
「うるさい。」
「あーあんなところに、UFOが〜いるよ〜」
「騙されない。」
「くそっ・・・UFOパンチ!」
手錠が掛かった両手でパンチを繰り出してきた。か弱い両手を受け止めた。
「効かぬ。」
その時、目に見えぬほどの衝撃が手錠にかかったのを感じた。手錠が壊れ、ニャン子は眠っている身元もはっきりしていない男のそばに近づいて、「ニャンコフ!」と叫んでこの男の精神に入り込んだ。
人間には深層心理がある。
深層心理とは人それぞれが普段思っていなくても、無意識に考えていることがある。その考えていることがドス黒くて、気持ち悪い事ばかりなのだ。だからこの世界には目を瞑っていたい。犬人間は人間の気持ちを知れる。深層心理をも知ることができる。
だから、俺は人間に興味を持つことをやめた。
そして犬人間をやめた。
俺も深層心理に入ることができる。
「ほーら、なんで泣いてるの?追いかけ回したのはあなたよね?」
ニャン子は大きな鬼と共に、男のことを追いかけ回していた。
「ごめん・・・ごめんなさい! やめてくれよ。こんなことになるなんて思わなかったんだよおおおお!」
「そうなの?許さないよ?だってなんで許さなきゃならないの?理由を教えてよ?」
鬼は男の足すれすれに金棒を叩きつけた。
ガタガタ震えている男を見て、笑い声が響いている。「面白ーい!」「ざまぁ(笑)」
「殺しちゃえー(笑)」「天罰天罰天罰天罰天罰天罰天罰天罰天罰」
「なんなんだよこれ!なんで声が聞こえるんだよ!俺の深層心理っていうやつなんだろ!なんで他のやつが見てるんだよ!おい!意味わかんねえーよ!」
「あなたは私に対しての深層心理の中で気持ち悪い妄想を抱いていた。その中に私が入った。私が入ることで、あなたは私と繋がった。そうしたら見えるでしょ。私の見てる世界が。こんな世界おかしいでしょう!あなたも分かった?私はね、ある時から見えるようになったの!みんなの気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い?気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い!気持ち悪い?気持ち悪い!気持ち悪い!!!!みんなの心の中が!!!!!
心はね、話しかけてくるの。罵詈雑言、淫語、殺害予告!!!!なんでもかんでも口出してくるの!
だから・・・私すごいでしょ!
みんなにバレないように、アイドルやってたの!私にはアイドルしかないから、まぁ・・・アイドルをやり始めてから、見えるようになったんだけどね。でも、頑張ってるから、ご褒美頂戴!
つーか、よこせよ。見たくねえもん見てるんだから。」
ニャン子は、大きな鬼を操り、足を金棒でめちゃくちゃにさせ、腕をまるでバットのように金棒をスイングして胴体だけにされた。ニャン子・・・いや、彼女は男に近づく。
首根っこを掴み、上へ持ち上げ、問いかけた。
「ねえ・・・教えてよ。なんで見えるの?教えてよ?教えてよ!!!」
「ひいいいいぃいいいいいぃいい! ふがっ!うぐ!ぐぶ!ふっふっふっぐぐぐぐぐぐへぐへぐぶぐぶぐ!あがっぐぎっうげっ
ごめんなさいごめんなさいごみんなさいごめんなさいごもんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。助けてください助けてください助けたください助けたください助けてください助けてください。おねがしますお願いしますお願いしますおねがしみゃすからああああああああああああああ!」男は早口でそして恐怖を感じながら、
手足もなくなってる身体を一生懸命揺らしながら、懺悔の念を唱えていた。
「ねえねえ、噛みすぎ!本当にやめてほしいな〜 こんなにも本気なのに・・・
でも、いいの!私はね、見え始めた時、この大きな鬼を見えるようになったの!彼はね、すごく優しかった。私を愛してくれた!守ってくれた!だから契約したの!私を守ってくれる代わりに、その殺した人間の命を食べさせてあげるっていうね。だからさ、散々、御託を並べていたけど、もう、いいの。あなたが餌になってくれれば・・・ね!」と言って満面の笑みを男に向けた。
「やめろ!そんなことをしたら、俺は・・・
ニャン子を止めなきゃならない!俺の前で誰も殺させない!」
「ありがと!ようやくニャン子って呼んでくれた!本当、あなたに会えてよかった。あなただけは全く、気持ち悪い妄想が見えないの!だから、私、貴方のことが好き!」
「だったら、やめてくれ!」
俺はニャン子の方へ、走り、やめさせようとした。しかし、彼女は男を鬼の方へ投げつけた。
「でも・・・無理!」
そうして、鬼は、男をむしゃくしゃ食べた。
「俺は、何もできなかった。」
俺は崩れ落ち、自分の無力さに、腹が立った。そして、俺は姉を失った時を思い出した。
「何も変わってないじゃないか!」
地面に頭を打ち付けた。
「はーい、次は右手っと、ほーーい!」
・・・彼女は鬼に体のパーツを喰わせていた。
どれぐらい時が経ったかは、分からないが、相当な時間、俺は悩み苦しんだ。男の恐怖心、男の死、姉の死、気持ち悪い心の中の声!それら、全てが俺の心を蝕んでいく。
俺は・・・俺は・・・
そして打ちひしがれている中、彼女に声をかけられた。
「ねえ、帰らないの?」
俺は、何も・・・問いただす元気すらもなかった。
俺は彼女を匿うことにした。
このことを誰にも知られたくなかったから、それと、1人にさせたくなかったからだ。
男は、存在しないものになった。
心を喰われてしまい、どうしてか俺と彼女の記憶以外には、残っていなかった。
すべての出来事はないことになった。
本当に伝説のライブになってしまった・・・
彼女はそこまで計画していたんだろうな。
俺たちは、彼女の手の上で踊らされていたってことか。
「ねえ! 相変わらず、話、聞かないのね。
もしかして、私のことが大好きとか!
ニャンコフー!ニャンコフ!ニャンコフ!」
「そんなわけないだろう。逆に怖いくらいだ。あんなものを見せられて、俺は・・・」
「もう!そんなこと気にしないでよ!
あの男は私のことを殺してたのかもしれなかったのよ!正当防衛よ!」
「ああ、だから逮捕しないで、こうやって俺の家で匿ってやるって言ってんだろ。
まあ、お前を野放しにすることはできないからな。」
「そんなこと言って〜本当は好きなくせに。」
「うるさい。とりあえずシャワーでも浴びろよ。走ったり、歌ったり、人殺ししたりして
汗かいただろう。」
「人殺しは余計!
待って、イスがないからってベッドの上で隣同士に座る男女。そして、シャワーを浴びろって言われている状況って・・・もしかして私、軋むベッドの上で優しさを包まれたり、するとか!」
「おい、待てよ。色々と妄想をつき進めるな。あらぬ誤解だ。そもそも、そこに、座布団もあるし、ローテーブルもあるだろうが!
俺はベッドに座るから、座布団に座れって言っただろうが!お前が勝手に隣に座ってきたんだろ!もう少し離れろよ!それと・・・シャワーっていうのは・・・単なる優しさだ。バカ!」
「バカはないでしょ!もういいです!どっか行ってください!ニャン子は寝ます。もうアパートの大家さんに電話しちゃいましたし、今までありがとうございましたって」
「おい、待て。どういうことだ。ずっと俺の家に居座る気か?」
「違うんですよ〜ニャン子の体質的に〜声が聞こえちゃうから、住めても、1ヶ月くらいしかできないみたいな〜。」
「ベッドが一つしかないし、ワンルームだから狭い。それなのに、居座るのか?」
「もう〜眠いんですよ!私。寝させてください。おやすミャンコフ〜」
「分かった。とりあえずシャワー浴びろ。それから寝ろ。明日は、話を聞くからな。」
「ようやく、決心したんですね!私と添い遂げることを・・・」
「うるさい。早く寝ろ。」
「もう!分かりましたよ。でも、あなたのことも教えてくださいね!」
良い笑顔だった。
でも、忘れてはいけない。ニャン子は人を消した。殺したにも等しいことをしたということを。
なぜか知らないが、自宅を追い出されてしまった。仕方ない。コンビニに寄って、酒とつまみでも買って、冬に泊めてもらおう。
「もう一回聞いていいか?」
「ニャン子のことは好きなのか?」
「なんでそうなった?」
「純粋な疑問だ。」
「ある程度、話をしただけだろう。それでなんでそういう質問するんだよ・・・」
「で?」
「・・・」
「黙るなよ。」
「好きという気持ちではないが、放って置けないだけだ。」
「ならよかった。」
「どういうことだよ。」
「早く帰った。帰った。」
「わーったよ。じゃあな。」
そうして俺は、半ば強引に追い出され、外に出た。夜風が気持ちいい5月の風だ。5月でも最近はムシムシしているからな。それでも夜は涼しい。
「というか、この後どうしよう。」
全く、行き先が決まっていなかった。
仕方ない。どっかファミレスでも寄って時間を潰すか。
その時、電話がかかってきた。
ニャン子かと思ったが、将喜からだった。
「しぇんぱい〜!一緒に飲みましぇんか?ニャンコフ!ニャンコフ!課長とみっちゃんもいますよ〜!」
少し悩んだが、「分かった。行く。タクシー代は出せよ。」
にゃっふー!と携帯で歓喜の声が聞こえる。
「うるさいが、たまにはいいだろう。」
というか、みっちゃんって誰だ。
EDAJIMAのこ兵衛ドッグへ続く・・・
読んでいただきありがとうございます。
このTAWARABA鬼丸ドッグは読み切りにしようと思ったのですが、書いていてシリーズ化したくなったので、続けて書いていきたいと思います。
楽しんでくれたら幸いです。拙い文章ですが、皆さんが楽しんでいただけるようにこれからも精一杯取り組んでいきます。
ちなみに、今回も3つのテーマをもらって書かせていただきました。
アイドル 三角関係 犬でした。