87話★”普通”とは
同性愛的表現があります。ある人が同性を好きです。
こういうの苦手な人がいたら、ごめんなさい。
苦手な人は、多分あともう1話くらいこれがあると思うのですが、飛ばしてください。
「あの、ウィル先生……」
そう声かけると、ウィル先生はうん?とこちらに顔を向けた。頭の上にクエスチョンマークが乗っかっている。それに合わせて水色の綺麗な髪がふわりと揺れた。琥珀の瞳がこちらを見つめる。
「なにかな?どこか分からないところでもある?」
どうやら指導案について疑問があると思われたらしい。そんなウィル先生の方を見つめ、
「間違っていたらごめんなさい。何か悩みがあるんですか?」
思い切ってそう尋ねる。すると、ウィル先生は一瞬ポカンとした顔をした。きっと自分がどんな表情をしていたか気づいていなかったのだろう。それからウィル先生はニコッと優しく笑う。
「僕は大丈夫だよ?君に心配をかけることは何も」
「でも、悲しそうな顔、してらしたから……」
そう言うとウィル先生は驚いたような顔をした。そして、ポツリと、
「……気づかなかった」
と言ってから、少し悩むような素振りを見せる。それから再度口を開いた。
「そうだねぇ。僕はね、ある友達の事で悩んでいたんだ。だからそのお友達のお話をしようかな」
そう言ってウィル先生は話し始めた。
「あのね、その子はある貴族の子息として生まれたんだ。一人息子だったからとても大切に育てられた」
「はい」
私はウィル先生のお話に相槌をうちながら聞く。ウィル先生はその後も話を続けた。彼が語った内容はこうだった。
それから、家の跡取りとして、なんの疑いもなくなんの不自由もなく勉強をした。結構優秀だって聞いたよ?と時折ひょうきんな顔をしながら話す。
なんでも、剣術はあまり得意ではなかったが、勉強は得意だったらしい。特に暗記するものが得意で、1番好きなものは歴史だとか。あの長い長い国の誕生から今までの歴史はもちろん、王の名前、些細な出来事まで覚えているらしい。
運動音痴な分こちらの才能があったのかも?なんて言う。ちなみに運動は本当に出来ないらしい。スポーツとかはもってのほかだとか。身体を使って動くものは尽く失敗するらしい。
ウィル先生は嘘か本当かは君の想像に任せるよとウィンクをしながら茶目っ気たっぷりに言っていたが、多分本当の事だろう。
そして薄々気づいていたが、”友達のお話”と言っているが、これはきっと……。
「そんな順風満帆な生活を送っていた少年であったが、しかーし!」
少しオーバーリアクション気味に、物語を語るように話を続けるウィル先生。例えるならよく公園に来ていた紙芝居のおじさんのようだ。もし拍子木を持っていたらカンカンと打ち鳴らしているだろう。
「その少年はある男の子に出会った。その子は少し年が離れていたけれど、幼なじみになった。ずっと一緒にいたんだ」
ある男の子……。ウィル先生の幼なじみならば……彼だろうか。
「その子はね、あまり多くを語らない子だった。誤解されることも多いけれど、決して話を聞いてないとか人を無下に扱ったりはしない、とても優しい子なんだ。それでね、なんでもできる怪物みたいな子だよ。才能の塊」
そう言葉を発するウィル先生の表情はとても優しい。まるで大切な宝物にそっと触れるような、ベールで優しく包むよくうな、そんな声音。慈しむようなその声は、聞いているこちらも幸せにする。
先程までのひょうきんな様子はなりをひそめ、声のトーンも落ち着く。
「それで、少年はその子といるのがとても楽しくなったんだよ。いつしかその心は恋心に変わっていった。その子を見ると、胸の奥が温かくて、眩しくてキラキラしてて、それでちょっとだけ苦しい。その少年にとっては初めての感情だった」
恋心。きっとそれはとても甘酸っぱくて綺麗な感情。少年にとって、きっと宝物になったであろう感情。
ウィル先生はそこまで言うと、またあの悲しそうな顔をした。憂いを帯びたような、どこか苦しそうだけれど、そうあることに慣れてしまったような、半分諦めたような表情。
「でもね?周りを見ると、自分みたいに”同性”を好きだって言っている子はいなかった。どこかの令嬢が可愛いとか、綺麗だとか、美しいだとか……好き……ドキドキする……だとか」
力なく、「そりゃそうだよね、あはは」と笑う笑顔に見ているこちらまで苦しくなる。
「確かに女の子は可愛いし、綺麗だし美しい。とても素敵だ。……でも……ぼ……その少年はそれ以上の感情を抱けなかったんだ。好きだなって思うのは幼なじみの彼だけだった」
そこで1度言葉を切り、ウィル先生はこちらを見ると、ニコニコと笑顔を浮べた。
「そして少年は思ったのさ。ああ、自分は”普通”じゃないんだって」
彼は「”普通”じゃない」という言葉を使った。
私がいた日本の現代では、そういったことについて、まだ風当たりが強いとはいえども公表したり、それを「それはそれだ」と認めている人だっている。
でも、この世界では日本よりもっともっと風当たりが強いはずだ。特に、血族を残す、自らの家の血を残すという意識が強い貴族たちにとっては受け入れられないものだろう。
ニコニコ笑いながら話す彼の真意は分からない。笑顔で話しているけれど、心がこもっていないのだ。見せかけの仮面を被っているかのようだ。それほどまでに彼の笑顔は作り物めいていた。
「その事に気づいた時、その子はもう何もかも捨ててしまいたくなった。恋心ごと全部。だって、上手くいきっこなかったから。その子は貴族の跡取りで、相手も貴族の跡取り息子だったんだ。それに、同性同士の恋なんて風当たりが強いに決まっているし、それより何より、相手に嫌われたくなかったから」
クスクスと笑い声を上げるウィル先生。
「だからね、その子は勉強にさらに専念した。近くにいるから忘れることはできないけれど、考えなくて済むから。でも、それさえ辛い時は……たまに思うよ、何もかも忘れて、自分の役目さえ忘れて思いっきり自由に……好きなことでもしたいなって。そしたら、この恋心も忘れられるかなって」
……なんて言っていいかわからなかった。自分から聞いておいて何なんだと思うかもしれない。
けれど、気安く「大丈夫です」だなんて言えないし、かと言って「諦めた方がいいです」だなんてもっと言えない。だって、人が人を好きになるのは自然のせつりだと思う。それが異性であろうと同性であろうと。
「……君はこういう”普通”とは違う人を気持ち悪いと思う?」
そういう僕を……とウィル先生は言外に言っていた。悲しそうな表情。キュッと寄せられた眉は、どこか懇願するようなもの。否定して欲しいような否定して欲しくないような、そんな相反する気持ちを宿した瞳が私を射抜く。
そして、思う。
普通ってなんだろう……?とも。
「……私は……」
書いてて不安になったのが、紙芝居のおじさんって伝わります??今もいる??私のときはたまに居たんですけど……。
上手く書ききれなくて、拙いところも多いと思います。ごめんなさい。
そして、こういうの苦手な人がいたら、ごめんなさい。読んでくださる方が減るかも……と怖々ながら投稿します。