86話★新しい提案
ルカさんと放課後勉強会(仮称)をすることが決まる。「我が主に睨まれないようにしないとな……」とか何とか言ってたけれど、どういうことだろう?
その後、ルカさんは母親と一緒にひとまず帰って行った。マーク家の方から借りているらしい自分の家で、話し合いをするらしい。「俺も今は、昔みてぇに引く気がねぇから、大モメすっかもしんねぇけど、まあ頑張るわ」と言っていた。
自分のトラウマと向き合うだなんてルカさんは強い人だ。私なんて、あのフラン殿下の顔も見たくないのに。
ルカさんが自分の思う道に進めることを願いつつ、アンディ様と共に学校内に戻る。もうすぐ午後の授業が始まるから、生徒たちはもう登校してきているはずだ。
私がルカさんの手当てを、アンディ様がルカさんの母親を見ている間、ウィル先生が子どもたちの方に行ってくれていたはず。
教室に入ると、子どもたちがウィル先生の周りに集まり、談笑している姿が見える。とても楽しそうだ。ウィル先生の周りにはいつも生徒たちがいる。子どもたちにとても人気があるのだ。さすがだなぁと思う。
そんなウィル先生の姿を見つけて、ふと思う。結局あのあとウィル先生の話は聞けず終いだったなぁ。今は授業もあるし無理だけれど、また機会があったら、力になれるなら聞いてみたい。私の力なんて微力だろうけれど。
さて、午後の授業、頑張りますか!
★★
午後の授業は午前の授業の反省も踏まえて、生徒も先生も一緒に係活動を決めた。
そして、最初にルールとして、人数より多い人が集まった場合は、まず空いているところに移ってもいい人を聞く、いなければじゃんけんをすることにした。
じゃんけんの説明もちゃんとしたことを追記しておく。ちなみに、その後、じゃんけんに興味をもち、ただただじゃんけんを遊びとして楽しむ生徒たちが増えた。休み時間、とても盛りあがっていました。
午後のクラスには、オープンスクールで元気よくアンディ様の問いに答えていた女の子のエミリーや、本を読んでもいいかと聞いてきてくれたレイラなどがいる。
エミリーはしっかり者という感じらしく、街でもみんなをまとめるリーダー的存在だそうで、このクラスでは学級代表になってくれた。レイラは本が大好きだからと図書委員である。
希望通りにいかなかった子もいるけれど、「どのお仕事も、学校にとってなくてはならない仕事で、とても責任のある仕事です。あなた達の力がなければこの学校はうまくいきません。皆さんのおかげで成り立つのです。だから、よろしくね」と説得して、納得してもらった。それはそれで頑張ると言ってくれた。
みんないい子過ぎない?天使かな?
それから、皆さんの意見もいっぱい取り入れたいと思っているので、「係活動としてこんなことしたい!」「やってみたい!」があれば教えて欲しいとも伝えた。
学校は私たちだけで成り立つものじゃないから。私達じゃ分からないことも沢山あるから、みんなの意見を聞きたいと思ったのだ。
そんな調子で3コマ分の授業が終わり、さようならの挨拶をした後、エミリーがレイラを連れてこちらにやってきた。
「先生!レイラが言いたいことがあるって」
教卓の方へ近づいてきたエミリーとレイラは私の前に立つ。エミリーは私の方へとレイラの肩を軽く押した。だが、押された本人のレイラは、私の顔を見ると袖で顔を隠してしまう。
可愛い!!うん、可愛い。
ってちがーう!!
もじもじしているレイラがちょっと可愛くて心の中で荒れてましたが、んんっと咳払いをする。もちろん心の中で。
「ほら、レイラ!」
エミリーがつんつんとレイラの肩をつつく。私は少し屈むようにしてレイラに視線を合わせる。レイラは袖をそのままにして、モゴモゴと口を動かしている。
「どうしたの、レイラ?」
「……あ、あのっ!」
「うん」
ちゃんと待つ。言葉を大切にしたいもの。あなたでしか発することの出来ない、その言葉、私に教えて。
「あの、あのね……。みんなの意見を集めるのに……意見箱みたいなものを……その……置いてはいかがでしょうか……」
途切れ途切れではあるがしっかりと意見を言ってくれるレイラ。
そっかぁ、意見箱かぁ。いいかも。全員とお話しようとは思っているが、お話できない子もいるわけで。その子たちの意見を聞きやすくなるかもしれない。それから、普段中々声に出して意見を言えない子も言えるかも。
……でも、私だけの意見で採用はできないから……あくまで生徒の総意であって欲しいから。そして、みんなを巻き込む意味を込めて。明日の朝にこんなことが提案されましたがどうでしょうと聞いてみよう。
「レイラ、意見をだしてくれてありがとう。とても素敵な意見だね。明日、みんなにも話してあげてくれる?それとも私から話した方がいい?」
レイラは人前で話すの、苦手そうだから、そう思って聞いてみると、レイラは
「先生、お願い致します……」
と言った。
「わかった!お名前は出してもいい?」
「はい……」
せっかく素敵な意見だから、みんなに伝えて考えてもらおう!午前クラスでも相談してみた方がいいかな。
「午前クラスでも伝えていい?」
「はい」
レイラはこくんと頷いてくれた。
★★
意見箱……所謂目安箱の設置を提案することが決まったあと、私は職員室で明日用の指導案を書いていた。がっつりとした様式の指導案じゃなくて、略案だけれど。
明日は社会と国語、そして理科である。理科はアンディ様の領分にしているから、私が考えるのは社会と国語だ。
そうやって書いていると、
「指導案かな?」
そう横から声が聞こえた。声の主は水色の髪をたなびかせたウィル先生だ。声の方に振り返り、頷く。
「はい。明日の分です」
「そっかー、頑張ってるねぇー」
「ありがとうございます!」
ウィル先生は「関心、関心」と言いながら私の方へ近づき、指導案を覗き込む。そのまま真剣に読み始めるウィル先生。そんなふうにじーっと見られると何故か恥ずかしい気持ちになる。
「少しばかりアドバイス!こことここの順番は入れ替えた方がわかりやすいと思うよ」
「あ!そうですね。この流れの方が自然です」
こんな風にウィル先生にアドバイスを貰いながら指導案を書いていく。ウィル先生のアドバイスはとても的確だからスイスイ進む。ついでに今回やる予定のアクティビティも相談してしまおう。
「ウィル先生、カルタって言うのをしたいのですが」
「カルタ……知らないなぁ」
私の言葉にウィル先生が首を傾ける。この世界にはカルタはないから当たり前だよね。というか、あまりアクティビティなどを取り入れて勉強をしようという考え方も主流じゃないし。
私はカルタの説明をする。仕方とルール、そして、楽しみながら文字の読みが主に勉強できる教材だと説明した。
「うんうん、いいねぇ。凄く楽しそうだ。でも、まだ読みが難しい子もいるんじゃない?文章は長いし、もう少し学んでからの方がいいんじゃないかな。それかこの読み札というものを短くしてみる?」
たしかに。まだ文字学習を初めて数日だし、この長い文章は難しいかもしれない。読むものが少なくてでも、文字を読む練習ができて、それでいて楽しいものかぁ。
そして、リルとカイトは文字が完璧だから他の子を待っていてくれている節がある。そんな2人でも楽しめるものを作らなければならない。多分2人はもうそろそろ他のことをしたいって思っているだろうし。
「それじゃあ、「これは何でしょうゲーム」は?」
グループをつくり、それぞれにお題を配る。でも、配られたお題を本人は見ないようにする。他の子にヒントを出してもらいながら、自分が持っているお題が何かをあてるというゲームだ。
これなら、一応皆読まなきゃいけないけれど、あまり負荷もかからない。
「なるほどいいかもね……!」
そんな風に話し合い、ウィル先生のアドバイスを聞きながら指導案が完成する。
「先生のおかげで考えがまとまりました!ありがとうございます!」
「いやいや。君の考え方は新しいものが多くて僕も勉強になるよー。僕も将来に役立てるよ」
……そう言ったウィル先生の目。また、悲しそう。多分本人はそんな表情をしていることなんて気づいていないだろうけれど。
思い切って聞いてみよう。
「あの、ウィル先生……」
✤人物紹介のコーナー✤
・レイラ
オープンスクールの時に、レベッカに本を読んでもいいかと尋ねてきた生徒。恥ずかしがり屋で袖でよく顔を隠す。
・エミリー
オープンスクールの時に、アンディの授業で手を挙げていた女の子。しっかり者でハキハキ話す。学級委員タイプ。レイラと仲良し。
久しぶりに出てきたので、一応紹介しておきます( *¯ ꒳ ¯*)




