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85話✲怖いけど(ルカ視点)

早速ポイントいれてくれている人がいたし、ブックマークしてくれている人がいました!Twitterの方も動画見てくださっている方が3人も!


ありがとうございます!嬉しかったのでもう1話更新します!!

「なあ」


と声をかける。


前髪に隠されて見えないほどに目は伏せ、うつむき加減になってしまう。身体の脇にある手をぎゅっと握る。


レベッカ様は俺の声に首をかたむけて、


「どうしたの?って、手を握ったらまた血が出るわよ?!」


慌てたように言うレベッカ様にちょっと苦笑する。俺は俯いていた顔をスっとあげて、慌てているレベッカ様の顔をじっと見つめる。


「………俺も勉強が……したい」


出た声は掠れていたし、小さなものだった。


だって、本当はちょっと怖いのだ、”勉強”が。


小さい頃の俺にとって、勉強は直接”公爵”と結びつくものだったから。公爵領主になるためにあいつが俺に押し付けてきたものだったから。


どんな日でも、それこそ病気をしていたって、無理やり椅子に押し付けて、頭が痛くなってもお腹が空いていても終わるまでは1歩も動いちゃダメだった。


あの公爵が家庭教師なんて雇ってくれるわけなかったから、教師は一応まがりなりにも貴族の教育を受けていた母親。


こちらの気持ちなんてまるで無視してただただ強制的にさせられる拷問のような、苦しみの時間でしかなかった。


でも、この学校の様子を見て、勉強は押し付けるものじゃないって知った。


だからこそ、ちゃんとしてみたいって思った。


公爵に正式な領主子息が出来てからはしてこなかったから下手すりゃここの生徒達より出来ないかもしれないけれど。何も知らない馬鹿者だけれど。


こんな奴でも学ばせてくれるだろうか。


俺の言葉を聞いて驚いたように目を見張るレベッカ様。暫しの沈黙が二人の間に落ちる。そんな沈黙が少し不安で怖くて。俺はゆっくりと地面に視線を落とした。


だが、次の瞬間顔はほぼ自分の意思とは関係なく持ち上がることとなる。


「ほんとに!?」


そう言う声が聞こえたと思ったら、バッと左右それぞれの手を握られたのだ。怪我をしているのがわかっているからか優しい力加減で。それに驚いたのかばっと顔を上げる。


少し視線をそらすように目を動かしてから、意を決してレベッカ様の方を見る。レベッカ様の瞳に酷く緊張したような俺の姿が写っているように感じた。


「……あ、ああ」


と頷いた。


だって、俺は……。

ポツリポツリと言葉を落とす。


「俺、あんたの力になりたくて……。あんたが俺を救ってくれたから。でも、……過去があんなのだからまともに勉強したことがねぇ……。あんたの学校の力になるためにあんたの学校で学ぶなんておかしい事かもしんねぇけど……」


そこで言葉を切り、緊張を隠して真剣な瞳でレベッカ様の方を見た。撃ち抜かんばかりの視線だと思う。


「俺、学びたいんだ。それで、あんたの力になりたい」


言葉がまとまっていないだろうし、同じことを繰り返していると思う。好きな女の前でも何1つかっこよく決められてねぇ。でも、これは俺の本心だ。


あんたの隣に俺は立てねぇ。俺はその役割じゃねぇ。でも、後ろで支えるくらいは出来るようになりてぇんだ。


俺が言うと、レベッカ様はみるみるうちに笑顔になった。それは、こちらがドキッとするくらいの花が綻ぶような笑顔。普段キリッとした顔をしたレベッカ様からはあまり想像できない子どものような笑顔。


そのまま顔をグイッと俺の方へ近づける。笑顔が、人差し指1本分くらいの距離にある。近すぎだろう……。俺じゃなかったら要らぬ勘違いをさせるぞ。


俺は少したじろぐが、レベッカ様は気にする様子もなくそのまま、


「喜んで!学びたいって意欲、大歓迎よ!!ここは誰でも学びたい人が学べる場所だもの!あ、でもね、一つだけルカさんはまちがっているわ。力にはもうなってくれているよ?」


と言った。それからさりげなくレベッカ様から距離をとる。と言っても手を握られているから申し訳程度にしか離れられなかったが。


最大限距離をあけつつ、


「……そ、そんなこと……ねぇよ」


「えー、だって、ルカさんは私の間違い、正してくれるもの。常識に疎いこともあるから……」


ジェニーとルカさんがいなかったら、私達、多分知らず知らずのうちに貴族の常識を押し付けて困らせてたよ、と続けるレベッカ様。


そうか、俺でもちょっとは力になれているのか。レベッカ様の言葉に嬉しくなる。


「そうか……ならいい」


「うん、いつもありがとう!」


笑顔で言う。キラキラ エガオ ガ マブシイ。思わず心の中までカタコトになってしまうほど俺の精神力はすり減らされている。もちろん目の前のレベッカ様によって。


「あのさ……」


「なあに?」


「………手……離せ……」


お願いだ、俺の魂が抜ける前に。そして少し距離をとってくれ。好きな奴のキラキラ付き笑顔を至近距離で見るのは、俺の心臓に悪い。


俺がそう言うと、レベッカ様は「あ!」っと気づいたような声を上げてから、そっと手を離した。顔は慌てているのに動作は酷くゆっくり。そのちぐはぐさに少し笑ってしまう。そして、次に発せられた斜め上の感想にも。


「怪我してるのに私は……!本当にごめん!!」


「そういうわけじゃねぇ……」


思ったより声音が呆れたようになった。レベッカ様は頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。


「………?」


「あー、いいよわからなくて」


そうだ、こいつはそういう奴だ。普段仕事はちゃんとこなすししっかり者だし、顔はキリッとしているのに意外とちんぷんかんぷんなんだよな。正直馬鹿なのかって思うこともある。


俺が何も言わないから追求するのを諦めたのか、レベッカ様は話を変える。


「とりあえず、ルカさんは入学決定ってことで!……あ、でも、生徒たちと一緒に学ぶのは嫌だったりしない?」


「あー、それはまあ、そうだが……。それは仕方ないことなんじゃねぇのか、とも思う」


こちらが学びたいって言っているのに小さい子たちと勉強するのは嫌だとか言ってらんねぇからな。そんな俺に、レベッカ様はまた爆弾を落とす。それはもう特大のものを。


「良かったら放課後2人で、一緒に私と勉強する?」


「は、はあぁ?!な、な、何言ってんだよ、あんた!!」


「だめかな?いい案だと思ったんだけれど」


シュンと言う言葉が頭上に見えそうである。その表情を見た瞬間答えていた。


「じゃあ、お願いする……」


まあ、それくらいは許してくれっかな、我が主も。許して……くれるよな?許してくれ。


何はともあれ、あんたは俺の先生で、大好きだった(・・・)人、だ。


これでいい、これがいい。

いつもありがとうございます。

私の小説を見つけてくださったあなたに最大限の感謝を。

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