番外編♧秘密の会話(レーベ視点)
ある日の休み時間。僕は文字の練習をしていた。おーぷんすくーるのおかげでこの学校にはお友達が増えたから、嬉しいのは嬉しいんだけれど、置いていかれるのは嫌だなぁって思う。
そう思ってミニ黒板に向かう。まだ下手だし、これだけ練習しているのにどうして上手く書けないんだろうって思うことも多いけれど、カイトくんが「レーベにはレーベのペースがあるんだ。得意不得意もあるし。だからレーベらしく頑張ればいいさ」って言ってくれたから頑張る!
「なぁ、レーベ」
声をかけられた。声の主は先程まで考えていた人だ。黒板に書くのを止め、声の方に視線を向ける。
「なーに、カイトくん」
そう言うと、カイトくんは少し辺りを気にするように周りを見たあと、
「ちょっと話があるんだが、いいか?」
と尋ねてきた。特に今は忙しくないし、次の授業まで時間もあるので僕はうんと頷く。
「大丈夫だよー」
そう返事をすると、カイトくんは僕の手を掴み、立ち上がらせると教室の外へと引っ張っていく。それに呼応するようにカイトくんの胸の辺りが水色のような色が出ている。どうやらここでは話しづらいみたい。
カイトくんに連れられてやってきたのは、学校の裏側だった。そこには誰もおらず、表の庭で遊んでいる子達の声が少し聞こえる程度だ。
それにもかかわらず、カイトくんは辺りをキョロキョロと見たあと、端の方に座り込む。そして、僕にもその隣に座るよう言った。なので、その横に座る。カイトくんの胸の辺りは水色のままだ。どうしたんだろう?
「どうしたの、カイトくん」
不思議に思って聞くと、カイトくんは一瞬迷ったように瞳を動かしてからこちらを見て、小さな声で話し始めた。
「………あのな……レーベは……リルのこと、どう思う?」
周りを気にするような小さな小さな声。でも、聞かれた質問は普通の内容。
「リル?」
そう聞き返すと、カイトくんは頷いた。リルかぁー。
「いい子だよー、とっても。優しい!あとね、賢い!それでね、僕が苦手なこともできて凄い!」
ありのまま思ったことを言うと、カイトくんは少し困ったような顔をした。次は薄い茶色……黄銅色だ。なんでだろ?
「そうじゃなくて……」
「………?」
じゃあ、どういうこと?と思いながら首を傾けると、カイトくんは歯切れ悪そうにモゴモゴと何回か口を動かしたあと、
「その……恋愛的な意味でリルが好きかってこと!」
と言った。色が黄銅色から薄いピンクに変わる。
……れんあい?れんあいって何だろう……?初めて聞く言葉に、
「……れんあい?……ってなに?」
そう聞き返すと、カイトくんは「そこからか!」と少し驚いた顔をした後、自らの頭を手荒にぐしゃぐしゃとかくと、
「なんだ……うーん……一緒にいたいってことだ!そいつと会うとこの辺が、きゅーってなって、それからドキッてなる」
カイトくんは胸の辺りを抑えながらそう言った。
「きゅー?ドキッ?」
「痛いっていったらいいのかな?とりあえずそんな感じだ!……恋のことだ」
「コイ?……ああ、リルが言ってた!こいって仲良しってことなんでしょう?」
「まあ……間違っちゃいねぇけど……普通の仲良しとは違うな……」
普通の仲良しとは違う。それが、さっき言っていた「きゅー」や「ドキッ」のことだろうか。それに、確かに胸の辺りにある色も違う。僕のリルに対する色はオレンジ色だけれど、カイトくんの色は薄いピンク色だ。
そんな気持ちになったことはないから、正直にそう言う。
「リルと僕は仲良しだけれど、僕はきゅーってなったことはないよ?」
そう言うと、カイトくんはどこか安心したような顔をした。
「それなら……いいんだ……」
「カイトくんは、リルに”れんあい”してるの……?」
そう聞くと、カイトくんはうっと少し呻くような声を上げてから、
「その言葉の使い方が合っているかはちょっとわからないが、そういうことに……なるな……。だ、誰にも言うなよ?」
誰にも……?れんあいって誰にも言っちゃいけないことなのか。それに、色がさらに濃くなった。
「わかった!」
「そんなに笑顔で頷かれると、なんか悪いことしているみたいに思えてくるのは何故だ……」
「カイトくん、悪いことしてるの……?それなら、ごめんなさいした方がいいよ?」
「……いや、そーゆー事じゃねぇんだ……。ただ、レーベは純粋だなって。汚せないなって」
「僕、純粋かなぁ?」
純粋なのか、僕。そう思って問いかけると、カイトくんは頬をかきながら、
「……あー、かなり。でも、それはレーベのいいところだよな」
と笑った。
「ふーん?」
「ともかく、これは俺とレーベの秘密の会話だからな!」
秘密の会話かー、なんかいいね!
「うん、わかった!」
カイトとレーベの回でした!
カイトくんはませていますねぇ。まあ、この世界観では子どもも働くようなかんじだから、ませていてもおかしくないのかもしれませんが。
そして、レーベはちょっと不思議な子です。文字が苦手だったりするかわりに不思議な力を持っているのかも知れません。




