78話★オープンスクール その2
少しの休憩を挟み、二限の授業が始まった。オープンスクールの噂が広まったのか最初はチラホラだった客席も人数が増えてきている。たぶんもうすぐお昼休みの時間ってのもあるだろうけれど。でも、貴重なお昼の時間に来てくれて嬉しい。
さあ、私は1人でも多く生徒が来てくれるよう全力でフォローアップだ!
と言っても、アンディ様の授業の邪魔をする訳にはいかないけれど。そっと参加を促す程度だよ。うん、決してがっつきはしないよ。大丈夫。目は鋭いかもしれないけれど。それは許してね。
アンディ様の授業は計算の授業だ。初めての子が多いから足し算や引き算。
そして、授業はとても楽しかった。アンディ様って語りも上手なんだなぁって言うのが感想。兄であるアンドレア様が苦手だからアンディ様が得意になったのかもしれない。
そして、アンディ様も楽しそうだ。
半ば無理矢理にこの学校計画に引き込んだから、楽しそうにしてくれているとこちらも嬉しい。
「じゃあこれは?さっきの答えは35だったけれど……どういう順番で計算したかな?」
ニコッと優しく笑うアンディ様。
アンディ様の授業は彼らしく、優しく包み込むようなものだ。なんか、アンディ様に聞かれると全て答えたくなってしまう。
こういう所は私には多分ないから、取り入れて真似していきたいなぁ。生徒に少しでも答えやすいような質問、問題解決に困ることはあっても質問の言葉やそのほかの事で煩わせない質問の仕方だ。
「どうだったかな?」だと困惑してしまうが、「どういう順番だったかな?」ということで、答えることが明確でわかりやすい。
私もできるだけわかりやすい言葉で質問をしようとしているけれど、たまに生徒にキョトンとされるんだよね。
言葉遣いは大事だって教育実習の時も言われたんだけどね。細かなことに気がいったらそっちに集中しちゃうからって。
その点、アンディ様の質問の仕方は、生徒に気負わせない、気軽に答えさせる、気づいたら答えているというもので、凄い。
それから、生徒が答えが分からなくて困っていると、
「さっき書いたところにあったような……?」
答えられない生徒たちに、答えを教えるでもなく、そう言って黒板の方をチラリと見やる。
ヒントの出し方も上手だ。見習うこといっぱいだなぁ。
「はい!それは、最初に右端の数字を足します!それから、次に左端の数字も足すんです!」
アンディ様の前に座っていた女の子が答えた。今日、見学に来てくれている子で、授業初参加の子である。利発そうで、リルとはまた違った意味でしっかり者そう。生徒会長とかやってそうな?
「そうだね!正解」
そう言ってニコッと笑うアンディ様。微笑ましい授業光景だ。
そんなことを思っていると見学席に座っていたらしい子が、こちらにやってきた。手が隠れるくらいの大きな袖で顔の辺りを恥ずかしそうに隠しながらやってくるその子は、レベッカの前で止まる。
だが、レベッカに話しかけることはせず、オロオロとした様子でこちらをチラリと見ている。話しかけた方がいいかな?と思って声をかけようとすると、その子はちょんっと指でレベッカをつついた。
「どうしたの?」
私がしゃがんでその子と目を合わせようとすると、その子はすっと目をそらす。だが、話したいことはあるようで、ここから去っていこうとはしない。急かさず待つことにする。
「…………」
「…………」
無言の時間が続く。
少しの時間無言だったが、彼女は目線を左右に動かした後、意を決したようにこちらを向いた。と言っても顔の半分以上は袖で隠れているが。
「……あの……」
小さな小さな声が鼓膜を揺らす。その言葉に怖がらせないように静かに頷いて見せた。
「うん」
そう返事をすると、また少し黙ってそれから、小さな声でしどろもどろに話し始めた。
「……その……そ、そこの本……よ、読んでもいいですかッ……!!」
最後の方はキュッと目をつぶってから少し大きな声でそう言った。それは、思い切って言ってみたといった風だ。そして、「そこの」というのは前日にアンディ様と共に並べた本のことだ。
頑張って言ってくれたであろう彼女にはあえてその事は言わず、私はただ頷く。
「いいわよ。好きに見て?」
そう言うと、彼女は少し顔を紅潮させてこくんと頷いた。どうやら本に興味があるらしい。
そんなほっこりするようなエピソードも挟みつつ、オープンスクールは順調に進んで行った。
★★
それから授業に引き続き、説明会へと移った。まずは授業のことについてこちらから説明する。
勉強をする意義、こんなことを学んで欲しいというゴール及び学校の信念や方針。学校の場所や時間割りについて、午前と午後に同じ授業をするつもりであること、生徒が学んでいる教科、総合的な学習の時間とは何か?などなどである。
見学者たちは思ったより興味深そうに聞いてくれていた。授業の出来やこの方針たちはその反応から、良かったとしくは及第点には達したとみえる。
だが、保護者質問のコーナーに移るとほっこりするような授業風景や説明の時間とは打って変わって少し鋭い雰囲気が辺りに流れはじめたのがわかる。多分その根底にはあの噂の事があるのだろうと思う。
授業自体は良かった、だが、あの噂はどうなのか?と。いくら授業がよくても人を貶めるような人のところに我が子を通わせたくない、と。もしかすると、税金としてお金を出すのに値するのか?とも思っているかもしれない。
つまりは、実際のところ、この学校はどうなのか?ということだ。
質問コーナーがはじまると、やはり、その途端に質問が飛んできた。保護者の方たちはお互いの顔を1度見合わせてから何かを確認し合うように頷く。その後、1人の、1番前に座っていた女性が声を上げたのだった。
「あの噂はどういうことなのでしょうか?」
さあ、この答えが勝負だ。
私はアンディ様と顔を見合わせて頷きあったあと、立ち上がった。
「まずは、ご心配をおかけしまして申し訳ありませんでした」
噂の真偽はどうであれ、ご心配をおかけしたのは事実だ。まずはその事について謝罪する。
すると、保護者の方達はその反応が意外だったのか、はたまた貴族___レベッカの場合は立場が微妙なので貴族に見える人かもしれないが___が謝るのが意外だったのか、ザワザワとざわめく。
それから、噂の経緯を正しく説明した。もちろんこちら側にも不手際があるかもしれないが、その事を隠したりはしない。私が説明しているから私から見た状況でしかないので、本当にそうかと言われればわからないけれど。
まずは王立サンフラワー学園へ見学に行ったこと、その時にある令嬢に話しかけられたこと、そしてそれに対する私の反応。私の反応が気に障ったのか魔法で水をかけられたこと、その後の学園側の対応。
それらについて順を追って説明した。そして、再度、不安にさせてしまったことを謝罪する。
沈黙が落ちた。
だが、私の話を聞いて判断するのは保護者側だ。あとは何も言えまい。
その空気のまま、最後に明日も開校日であることを知らせて、説明会及びオープンスクールは終了した。
やれることはやったと思う。
あとは明日どうなるか、である。
★★
そして、次の日の授業時刻。誰もいなかったら……今居る生徒の3人でさえいなかったら……なんて思いを抱きつつ1人、学校へ向かう。
もうアンディ様やウィル先生、ジェニーやルカたちは学校に行ってしまっているので、残るは私だけだ。
ドキドキと心臓が慌ただしく動く。それは、いつかと同じ感覚。怖い。逃げ出してしまいたくなる、そんな感覚。多分これで上手くいかなかったら私は立ち直れない。
学校の前に着く。中からの声は静かだ。物音ひとつさえしない。本当にダメだったのだろうか。 ああ、私の夢は敗れるのか。
でも、それなら、現実をちゃんと見なければいけない。隣で心配そうにしているリリに大丈夫よ、という意味を込めて頷き、それから、1度ぎゅっと目をつぶり、心の準備をする。
そして、目を開けると一思いに開いた。
途端、
「わー!!」
声が上がる。
目の前には……席に座った約30人ほどの生徒。最高人数の40人にはいかなかったが、それでもこの街の殆どの子どもたちがここに集まったことになる。生徒たちの年齢もカイトたちと同じ6歳より年下の子も年上の子もいる。
ディランも、オープンスクールでアンディ様の問いに答えていた子も、本を見てもいいかと尋ねてきてくれた子もちゃんといる。
「先生、おはようございます!」
レーベが代表するように立ち上がって、ニコッと笑いながらそう言った。ほかの生徒たちもそれち続いて挨拶をする。そして、アンディ様やジェニー、ウィル先生、ルカも共に挨拶をしてくれた。
「はい、おはようございます」
レーベの挨拶にそう言葉を返しながらも、その声はふるえていた。だめだ!これじゃ泣いちゃう!と慌てて気持ちを落ち着ける。
ああ、学校は何とか存続出来そうだ。生徒たちに迎え入れられながら、少し安堵した。
「さあ、授業を始めましょうか!」
「はい!」
元気な返事が返って来る。
でも、このとき私は知らなかった。この後ろで、色々なことが蠢いていることを。
人の恨みというものは、大きくそして強いものであるということを。
それぞれが、それぞれ動いていることを。
レベッカの学校の存続が決まりましたー!!
わー、パチパチ!(・ω・ノノ゛☆パチパチ←1人で寂しい奴
さて、でも少し不穏な空気が……
何が起こるのでしょうか!?
お楽しみに!!




