76話★準備2
「あ、ジェニー!どうしたの?」
そう尋ねると、
「あっちで、アンディ様が図書の本を置いてらっしゃいます。1人で大変そうなので、手伝ってさしあげることはできますか?私、もう少しこれ、数えなくてはならなくて……」
ジェニーが抱えたミニ黒板を見ながら言う。ジェニーに言われて本の展示コーナーの方を見てみると確かにアンディ様が1人で本を並べている。
なるほど、確かに1人じゃ大変そうだ。私もちょうど手が空いている。
「できるわ。ちょっと行ってくるわね。ジェニー、教えてくれてありがとう!」
「いえいえー」
ジェニーにお礼を言っていると、パタパタと今度はカイトが走ってくる。生徒3人の中でいちばん積極的に動いてくれているのがカイトだ。明るくしっかり者の性格も手伝って学級委員のような役割をしてくれている。
「俺も手伝……ふぐっ」
駆け寄ってきてそれから、何かを言おうとしたカイトであったが、隣に立っていた姉、ジェニーに口を押さえられていた。
え、ジェニー、ミニ黒板は?
そして、押さえられたカイトは目を白黒させるその後もしばらく固まっていたが、我に返ったようにジェニーの腕をペシペシと叩く。だが、ジェニーは手を離さない。
鼻は押さえられていないから息ができないってことはないだろうけれど、嫌そうにペシペシと叩き続けるカイト。離さぬジェニーとの攻防をしている。
そして、押さえているそのジェニーは満面の笑顔だ。どこか怖いくらいに。
「レベッカ様、行ってらっしゃいませ!アンディ様とぜひお2人きりで!!」
そのままの顔でそう言われたので、おずおずと頷きながらアンディ様の元へと向かった。ただならぬ雰囲気だった。姉弟2人にしか分からない何かがあるのだと思う、多分。
後ろからモゴモゴという音と、「ねぇちゃん、痛てぇよ」という声が聞こえてきていた。その後2人の何やら話している声も。小さな声なので聞こえないけれども。
「アンディ様!」
本を整理しているアンディ様の元へ行って声をかける。やはりアンディ様は机の上に持ってきた本を並べていたらしかった。
アンディ様は魔法が使えるため、周りにふよふよと本が浮いている。だが、そこそこ本の量があるため魔法が使えると言えども結構時間がかかりそうだ。
私が声をかけると、アンディ様は手を止めてこちらに振り返った。ふわりと優しい笑顔を浮かべる。……ほら、心臓、変な動きしなくていいから。動きをとめなさい。って止めたら死ぬわね。鎮まりなさい……!
「どうしたのー?」
優しい声音のままそう問われる。その瞳に見られると、私の心ごと読まれそうで思わずフイっと視線をそらせる。
「ど、どうもしませんわ!」
反射的にそう答えてしまった。でも、答えてから思う。呼びかけられたから返事をしたのに「どうもしない」ってアンディ様にとっては意味わからないわよね。自分、何言ってるの。
「え……?」
アンディ様はまさかそんな応えを返されると思っていなかったのだろう、ポカンとした顔をしている。慌てて首を横に振ると、
「あ、そうではなくて!!お手伝いしに来たのですわ」
「そうなんだ、ありがとう。じゃあ、こっちの本をならべてくれる?」
「はい!」
★★
そうして2人で本を並べていく。たくさんの人が来てくれるといいなぁなんて思いながら。
「たくさんの人が来て、良さに触れてくれるといいね!」
アンディ様がニコリと笑ってそう言う。同じことを考えていたらしい。
「そうですわね。そして生徒が増えてくれたら幸せですわ」
「そうだねぇ」
なんて話しながら並べて……
「あ……」
「あ……」
最後の1冊になった時、手に取ろうとした私の手に本とは違う、何か柔らかいものが触れる。それはアンディ様の手だった。どうやら同時に最後の本に手を伸ばしたらしい。
「……っ!」
不意に触れたアンディ様の手に、反射的に手を引っ込めてしまう。温かな体温と柔らかさ。それでいて角張った男の人の手。きっと手のひらは剣の鍛錬の跡で硬いに違いない。手を慌てて離したあともそれが鮮明に思い出される。
今までこんなことを意識したこと、なかったのに!なんで!?
「レベッカ?」
「な、なんでもありません!」
いつかの、いや、3回目くらいのデジャヴ。こうやって聞かれることが最近増えた気がする。私はどうしてしまったんだろうか。
★★
そうしてちょっとしたハプニングはありつつも準備は順調に進み、設営が終わった。
出来上がった会場をみて、感嘆する。嬉しい。
「皆様、ありがとうございます。明日、頑張りましょう!」
そう言うとそれぞれ頷いてくれた。
さて、やるだけのことはやった!あとは、当日、そして結果を待つのみ……!
怖いけれど……
大丈夫。
きっと大丈夫。
久方ぶりのジェニーによるアンディ様とレベッカ様応援隊の活動笑
そして、初めの頃(エメラルドの天使時代)の大人しい感じの彼女はどこに行ったのか……。
次回はついにオープンスクールスタート……か?
お楽しみに!
たくさんの方に読んで頂き、幸せです。
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