75話★準備1
学校について広めるために、オープンスクールをすることにした私たちはその後も開催のための会議を重ねた。職員会議はもちろんのこと、早速取り入れた総合的な学習の時間にて生徒と共に話し合いもした。
公開授業を行う場所は、街に詳しいカイトから、街の中心に広場があると聞いたのでそこを借りることとなった。その広場はよく催し、例えば踊りや楽器演奏など、がよく行われているそうで、担当の方は快く貸してくれた。
詳しく何をするかなどは聞かれなかったので、まさか授業をするとは思われていないと思うけれど。
授業の内容は普段の文字学習と算術をする予定だ。文字学習はアクティビティもするようになってきているのでそれも見せられればいいと思う。
まあ、今やっているアクティビティはほとんど前世で学んだ英語のアクティビティの応用ばかりだけれど。教育実習でみたり、実際にしたり、ほかの学生の模擬授業で見たものなどをこちらの言葉で応用している。
ちなみにだが、今度のアクティビティでは、まだ習っていない子達に合わせるため、文字ビンゴをしようかな、と考えている。まずは文字に慣れてもらうのだ。
文字ビンゴはまず文字に見なれてもらうため、普通のビンゴを数字ではなく文字でやろうという試みだ。形が同じだから同じものなど、読み方ではなく、まず文字に対して意識を向けてもらおうと思っているのだ。
どのくらい見学者並びに参加者が来るか分からないから事前にビンゴ用紙を準備するのはなしにして、アルファベット群から好きなアルファベットを選んでもらうという方式にする予定だ。
そんなこんなでオープンスクールが前日に迫った今、私たちは会場の設営をしている。アンディ様とウィル先生、ジェニーとルカさん、リリとお馴染みのメンバーに加えて、カイトとレーベ、リルの生徒3人も来てくれている。
「レベッカ先生!この机どこですかー?」
カイトが呼びかける。その手にはひとつの小さなテーブルが抱えられている。その机はリルが1枚1枚絵を描いてくれたしおりを置く予定にしている。入口付近に置いて、中に入る人が気軽に取れるようにしておこうと思っている。
「重くない!?1人で大丈夫?」
「これくらい平気だ」
「カイトは力持ちだねん」
私のとなりにいたウィル先生も驚きの表情を見せている。
「そうでも無いと思うけど。で、どこ?」
「ああ、ごめん。それは、入口付近に置いて欲しい。この上にリルが作ってくれたしおりを置くの」
「りょーかい。じゃあ、あっちだなー」
カイトはうなずいて入口付近へと机を持って歩き始める。
そのとき、後ろをちょうど、ベンチの上に置く予定のクッションを自分の背より高く抱えて歩いていたレーベがドベシャと音を立てて転ぶ。
そして、流れるようにそのままカイトにぶつかっり、バランスを崩してカイトもろとも地面に倒れ込む。机が一緒に倒れたためガラガラと大きな音も出る。
残ったメンバー全員、つまり、アンディ様、ウィル先生、ジェニー、リル、リリ、そして私が慌てて駆け寄る。
だが、誰かが手を差し伸べるより先に、カイトは自分で立ち上がり、それからレーベに向かって手を差し出した。
「レーベ、大丈夫か?」
「ごめんね、カイトくん。転んじゃた……」
レーベはカイトの手に掴まる。謝るレーベにカイトはブンブンと首をふり、笑う。
「そんなこともあるさ」
2人とも見た感じでは怪我はないようだ。だが、見えない怪我もあるかもしれないので、確かめることにする。
「痛いところはない?」
そうレベッカが尋ねると、
「うん、ないよ!」
「大丈夫」
と2人が答えたのでひとまず安心。
そう答えながらカイトがレーベを立ち上がらせるべく手を引っ張った。しかし、そのときちょうどレーベの下にあったクッションが……
ビリッと音を立てた。
「……あ……」
★★
そっとクッションの上からレーベが退いたあと、クッションをみてみると、破けていた。形状としては10センチくらい縦に。
このクッションはもともとは使わなくなったものをリメイクしたもので__クッションまでお金を使えないので、アンディ様やマーク公爵の伝手で使わないものを集めてもらった__急誂えなのだ。
ミシンなどあるはずもなく手縫い。そして時間もそんなになかったからそこまで強固ではないのだ。
「……ご、ごめんなざいいいい」
そのクッションを見た途端、レーベの瞳にみるみる涙が溢れてくる。大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちる。
そんなレーベに近づき、そしてその目の前にしゃがんで視線を合わせる。ドレスがよごれるとかそんなのは気にしていられない。今度、ドレスじゃなくて、動きやすい何かを作りたいわ。
レーベの頭に手を置き、優しく撫でる。
「大丈夫、泣かないで」
「でも……っ!僕のせいで、大切なクッションが……!!みんなでがんばってぬったのに……!!ごめんなさいいいぃぃ」
「ちゃんとごめんなさいも出来て偉いわね。大丈夫よ、みんな怒ってないわ」
そう言いつつ周りを見回すとみんな頷いている。そして、一様に心配そうな顔をしている。カイトは少しオロオロしているが。
「ほら、これで涙を拭こうか。顔をちょっとあげてね?」
アンディ様が私の隣に座りレーベの目元にハンカチを持っていく。レーベはこくりと小さく頷くとおとなしく顔を上げ、アンディ様に目元を拭かれる。
少しレーベが落ち着くのを待つと、ヒックヒックとしゃくりをあげて泣き止んだ。そのとき、カイトが声を上げた。
「俺が勢いよく引っ張ったのもあるよな……ごめんな、レーベ。そして、みなさんも……ごめんなさい」
頭を下げる。レーベはブンブンとクビを大きく横に振った。
「違うよ、僕がどんくさいのが悪いんだ!元々転んだのも僕なんだよ!カイトくんは悪くないよ」
「いいや、それでも……。もうちょっと気をつけるとかあったと思う!」
「いや、僕が」
「俺が!」
「ぼく!」
「おれ!」
「むぅー、ふん!」
「ふん!」
喧嘩のようなことをはじめ、仕舞いには2人でそっぽを向いてしまった。そんな姿に思わず笑ってしまう。誰の過失かで喧嘩できるなんて凄いわね。大体の子は隠そうとするのに。
2人とも素直に育っているなぁ。
「2人とも、そんなことで喧嘩してどうするの。レーベもカイトも責任感の強い子なのね」
少し微笑ましく思いながらもそう言う。
「クッションをどうするかを考えた方が……いいです」
リルがそう言うと、
「そうだな」
「そうだね」
2人が同時に言う。その言葉の合わさりに、カイトとレーベは顔を見合わせてどちらからともなく笑い出した。
さて、クッションをどうしようか。そう思っていると、
「私におまかせくださいな!」
自らの胸に手を宛ててジェニーがそう言う。ジェニーはそれから「ちょっとだけお待ちください」と言うがはやいか、シュバッと効果音が出そうなほどどこかへ駆けていき、それから何やら小さな箱を持って現れた。
「何かあってはと思い、今日も裁縫道具は持ってきているのです」
ジェニーは小さな箱を見せるように持ち上げてそう言った。
「おー」
「ですから、これは私におまかせください。繋ぎ合わせられます。レーベもカイトも安心してね?」
そう言うとその場で、いつもの如く疾風の早さで破れた所を縫いはじめた。近くで見ても縫い目が分からないくらい綺麗だ。
「ジェニーお姉さん凄いー」
「ありがと、ねぇちゃん!!」
レーベはキラキラとした瞳でジェニーを見つめ、カイトもいつものしっかり者の印象から弟の顔になってニコニコと満面の笑みでジェニーを見ている。
「出来上がり!これでよしです」
おおーとみんなで拍手をする。何とかなってよかった。ジェニー様々だよ。
その後も、少し取っ付きやすさと可愛さを出したりする為に飾りをつけたりしながら準備を進めていく。
公開授業は設置されているステージの上で行う。この広場はよく催しものが行われるのでステージが常設されているのだ。
そしてそのステージの前にはベンチが設置されているのでそこで見学してもらうつもりだ。だが、ふらっと立ち寄ることが出来るように立ち見での見学も可能としている。
それらベンチの右端の少し離れたところには図書館の説明と本の展示コーナーも作る予定だ。
そして、その客席の後ろ側を入口として、その端の邪魔にならない且つ見やすい所にテーブルを置いてその上にしおりを置く。今はしおり、まだ置かないけれど。当日に置かないと風に飛ばされるからだ。
「レベッカ様~」
すると、先程までミニ黒板の数を数えていたジェニーが、いくつかミニ黒板を抱えたまま、私を見つけて駆け寄ってきた。
ジェニーさんの裁縫の腕、欲しい←
そして、さてさて、ジェニーの呼び掛けは何だったんでしょうか?
次回もお楽しみに!
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