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74話★動く心とあらたな決意

お金の単位が円になっていたので、この世界のもの(フェーリー)に直しました。失礼しました。

 授業が終わったあと、私とアンディ様のふたりで、図書室にいた。というのも、今日は蔵書の入れ替えをする日だからだ。


 もう授業は終わって、午後の部には誰も来ないから、ということでこの時間にすることになった。


 粗方入れたい本の選別は終わっているから、今ここにある本をそれぞれ元あった場所に持って帰って、持ってくる本を代わりに積んで帰ってくるという流れである。


 本を馬車に運ぶのはアンディ様がしてくれるので、私の仕事といえば本を整理したり、本と一緒に馬車に乗ったりするくらいであるが。


「さて、レベッカ、頑張ろうか!」


「はい!」


そうアンディ様に返事をすると、ニコッと微笑まれた。


 惚れ惚れするくらいの優しい笑顔だ。そして、その笑顔に……。


 心がキュッと締め付けられる。


 今までそんなことなかったのに。


 何故かその笑顔に心臓が音を立てさせられるのだ。といっても一瞬ドキッとさせられる程度だけれど。それから、ふわふわとした温かい何かが広がる。


 何故だろう?


 そんな風に惚けていたら、アンディ様の顔が目の前にあった。心配げに下げられた眉と美しい色合いの瞳が目の前にある。


「大丈夫?」


「は、はい!大丈夫ですわ!」


 今度はその表情にキュッと胸が苦しくなった。慌ててアンディ様から距離をとる。


 ドキッとして、キューって胸が苦しくて、ふわふわ温かくて優しい不思議な気持ち。


 これは、どういう感情だろう……?


 小説とかでは、心臓がキュッとしたりするのは恋だと聞いたことがあるけれど、実際私は恋なんてした事がないから、これがそうなのかも判別がつかない。


「そう?それならいいけれど……。何かあったら言うんだよ?」


「ありがとうございます」


「じゃあ、頑張ろうか!」


 パッと私から離れたアンディ様は本棚の方へ向かう。それを少し……少しだけ寂しい………なんて思ってしまった。


 どうして……?


「レベッカー、僕はこっちのリストで1か月前、並びに数ヶ月間ここにある本のチェックをするね」


 今までここに置いて来た本たちの表をひらりと揺らして、そう声をかけられたのでそんな気持ちにはブンブンと首を振って、返事をする。


「では、私はこっちの貸し借り表のチェックをしますわ」


そう言いつつ、本の整理を始めた。


 誰がどの本を借りたか、いつ借りたのか分かるようになっているのが図書館の貸し借り表である。借りる前に生徒がそれぞれ記入するルールになっているのだ。それをたぐり寄せ、本棚と見比べる。


 この見比べで、あまり人気のなさそうな本は入れ替えを、そして、誰かが2巻や3巻など途中まで読んでいてこれからも読みそうなもの、人気が高いものは置いておくと仕分けをするのだ。


 図書室の貸し借り表を見てみると、ズラリと並ぶのはカイトの名前。これだけで文字書くのが上手になったんじゃないかなってくらい沢山名前があった。そして、思った通り、最初から見ていくとどんどん文字が綺麗になっていくのがわかる。こんな所でも成長を見れるんだなぁ。


 カイトは本当に読書家だ。本と色々なことを知るのが好きなんだと思う。借りているジャンルも様々だ。


 そして、カイトほどではないけれど、レーベとリルの名前もある。リルは物語系、特に騎士の話などが好きで、レーベは文字の読み書きのための本をよくかりているようだ。


「どーしたの?」


 そんな風に貸し借り表を見つめていると、本をチェックし終わったらしいアンディ様がこちらに本を持ってきながら問いかけた。


 アンディ様が持ってきたのはここ数ヶ月図書室にあった本たちだ。これらはみんなが大方読み終わっているものが多いので、私の貸し借り表で今読んでいる人、読もうとしている人がいないかチェックした後は書庫に引き上げるつもりだ。


「貸し借り表を見ると、誰がどんな本が好きなのかすぐ分かるなぁって思いまして」


そう言うと、アンディ様はその本たちを近くにあった机にそっと置き、それからこちらにやってきた。私の持っている表を後ろから覗き込むようにしてみる。


「……ッ!?」


 それが思いのほか近くて。距離感に緊張する。


「本当だねぇ。あ、これ、僕も好きな本だ」


そう言って笑うアンディ様に、なんか、いつもよりドキドキするのは気のせい?


 ……気のせいだよね、うん、気のせい。


 ★★


 それから書庫に戻す本はレベッカが借りている家、並びにアンディ様の家に戻し、それからいくつか新しい本を選ぶ。


 アンディ様の家に着き、本を戻してから新しい本を選定し終わり、本を学校に持って行こうとした時、控えめに扉がノックされた。そして、扉の外から低めの優しい声が聞こえる。


「アンディ様、アッカリー様。レイでございます」


 マーク家の執事、レイであった。少しシワの刻まれた優しげな初老の男性だ。私たちが返事をすると、カチャリと扉の開く音がして、


「旦那様がお呼びでございます。


と優しく微笑まれた。この場合、旦那様とはアンディ様のお父様でマーク家当主のアンドリュー・マーク公爵である。


 なんの用だろう?と思いつつもその呼び出しに応じ、レイの案内でアンディ様と共に公爵のもとへと向かう。案内されたのは以前にも来たことがある、公爵の執務室だ。


 執務室の扉をレイがノックする。中から返事があった為、「アンディ様とアッカリー様をお連れ致しました」とレイが言うと、私たちは中へ通された。


 レイが一礼して去っていくと、執務室には公爵、アンディ様、そして私の3人だけが残される。少しの沈黙の後、口を開いたのは目の前に座る公爵の方。


「やあ、よく来たね。そこのソファに座って」


 公爵はそう言ってソファを勧めてくれた。その誘いに乗る形でアンディ様と私は座る。公爵はその向かい側に座った。そして、座ったちょうどその時、メイドさんが紅茶とちょっとしたお菓子を持ってきてくれた。タイミングバッチリすぎる。


「どうぞ、食べて大丈夫だよ?」


 用意された瞬間に笑顔でそう言われる。笑顔と言うよりは微笑ましいものを見るような目で見られた、が正しいが。どうやら以前私がお菓子に目を輝かせていたのを覚えていてくれたらしい。ちょっと小っ恥ずかしくて、視線を左に逸らした。気まずい。


「ありがとうございます……」


 それから、話は学校の話題に移った。公爵が「学校はどうだね」と話を振ったからである。その声音は穏やかだが、表情は笑顔という程でもなく読めない。心情が読めないのは怖いが、怯んでいてはいけないと努めて冷静な声を出す。


「はい。人数は相変わらず増えていないですけれど、頑張っています。今度、学校を広めるためにオープンスクールというものを実施する予定です」


「ほう、”おーぷんすくーる”とはどんなものだね?」


 公爵が顎のあたりを撫でながら、興味を持ったようにそう言う。その公爵に公開授業のことや説明会のことを説明する。すると、公爵はうんうんと頷いて聞いてくれた後、


「なるほど、君たちも色々考えてくれているんだね。……今日2人を呼んだのは、その事にも少し関係があるかもしれない。学校の事だ。君たちには耳の痛い話になるかもしれないが、聞いてくれ」


 真剣モードになる公爵。これは仕事の話をする声音だ。公爵は1つ小さく息を吐いて、こちらを真っ直ぐに見つめる。


「この学校は、領地の事業の1つでもある。つまり、運営は全て税金、つまり領民の血税だ。事業としての成果が出ない場合、そのままにしておくことはできない」


 それから1度言葉を止める。ビクリと自らの身体が揺れるのが分かる。そんな不安そうな私を心配したのか隣に座るアンディ様が私の手の上に自らの手を乗せてくれる。その温かさに少し落ち着く。


 それから公爵はさらに続けた。


「こんなこと言いたくはないのだけれど、学校の存続の有無を判断しなければならないんだ。エドワードの娘ならわかるね? 」


 一思いに公爵はそう言い切った。公爵の言葉は尤もだった。正論だ。領地運営は領民の力あってこそのもの。事業は領民のためにするもので、1フェーリーだって税金を無駄にはできない。当たり前のことだ。エドワード、つまりお父様だっていつも領民のためを思って仕事をしてきている。


「はい、よく分かります」


 私は頷く。今回のこの学校だって領民のためのものでなければならないのだ。成果がなければ打ち切りになるのは当然のこと。私は思わず俯いた。もう私の夢は終わりなのか。


 そう思った刹那、少し声のトーンを和らげた声が続いて聞こえてきた。


「とはいえ、私は学校を潰したい訳では無い。だから、私に出来ることならなんでも手伝う。”おーぷんすくーる”とやらを成功させてくれ」


 存続危機であるという状況は変わらないが、どうやら今すぐ終了というわけではないらしい。顔を上げると、優しい笑顔を浮かべた公爵がいた。


「ぜひたくさんの生徒が来て、領民が多くのことを学べることを願っているよ」


「わかりました、全力でやらせていただきます」


 そう頷くと、隣のアンディ様もこちらを見て、


「僕も全力で手伝うよ」


「ありがとうございます」


 絶対成功しなければならないと決意をあらたにした。

さてさて、レベッカの学校は存続危機ですね……。どうなる事やら。レベッカの夢は潰えてしまうのか!?乞うご期待!!


そして、数ある作品の中から私の作品を見つけてくださり、読んでくださり、ありがとうございます。

どうぞこれからもよろしくお願いします(*´ω`*)


ちなみに、フェーリーはこの世界でのお金の単位ですー。1フェーリー=1円の相場です。

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