71話★授業は天使たちとともに
澄んだ水のような青い空に所々綿菓子のような雲が浮かんでいる。晴天と言っても罰は当たらないだろうという天気。
春独特の……と言ってもこれがこの世界では普通なのだが、太陽の優しい光が穏やかに辺りを照している。
風も優しく吹いており、その風は弄ぶようにふわりふわりと髪をなびかせていく。前世みたくビルや背の高い家が辺りにはないため、その優しい風を身体の全身で受け取る。
今日も今日とて私たちの学校は開校である。生徒3人と先生だけれども。ちなみに先生の常駐は私で、他の3人は時間が空いた時に来てくれる。
生徒はオープンスクールが成功すれば増える…はず!
私が学校前でその朝の空気を吸っていると、
「レベッカ先生ー。おはよーございます!」
「おはよう……ございます……」
「おはよー、レーベ、リル」
我が校の少ないながらも優秀な生徒であるレーベとリルが登校してくる。レーベは大きな声で、リルははにかむような表情で挨拶をしてくれる。 そして、挨拶を返すと嬉しそうな笑顔で学校の中へ入っていく。
「ざいます……」
2人に少し遅れて今度はカイトがやってきた。少し照れくさいのか少しうつむき加減でこちらを見ることはないが、ちゃんと挨拶はしてくれる。そんな姿がとても可愛く見える。
「おはよう、カイト」
私が挨拶を返すと、こくんと小さく頷いてくれた。授業中とかは手を挙げたり気になったことを聞いてきたりするのに、挨拶が照れくさいとか可愛すぎるよね。
うちの生徒、3人とも天使。みんないい子だなぁと感じ、こちらまで幸せな気持ちになる。
登校が終わり、私も学校の中へ入る。今日は先生が私とアンディ様……いや、アンディ先生だけだ。
そして、午前午後に授業を分けたものの、今日は生徒は3人とも午前中に登校だから仕事は午前中だけだ。
そして、今日の時間割は国算理のあと、学活をすることになっている。学活ではオープンスクールをするということを伝えるのと、生徒たちの意見を聞くことをするつもりだ。
よーし、頑張るぞ!と心の中で拳を突き上げた。もちろん、心の中で、だけだ。
職員室へ入ると、アンディ様が何やら本を読んでいた。
「おはようございます、アンディ先生」
邪魔になるかなと少し思ったが挨拶をしない訳にはいかないのでそう声をかけると、アンディ様はこちらの方を向き、優しい笑顔で微笑んでくれた。いつものタレ目がさらに優しく細められる。
「おはよう、レベッカ先生」
この人、本当にイケメンだと思う。純粋に。ほうっとそんな笑顔に見惚れていると、
「レベッカ先生?大丈夫?」
その笑顔から心配げに眉を下げる。そして、そのまま顔が少し近づいてきて、心配そうに覗き込まれる。澄んだ青色の瞳か目の前にある。
そんな瞳に私の顔が熱くなっていくのがわかる。視線を少し逸らして、
「大丈夫です」
イケメン耐性ついてないのかな、私。この世界、地が乙女ゲームだからか、イケメン多いのに。
アンディ様はもちろんのこと。栗色の柔らかい髪に優しそうな青い目。そして、その目はタレ目であり、さらにアンディ様を朗らかに見せている。優しくて紳士的だ。
あとは、ルカさんとか。漆黒の髪は吸い込まれるように美しいし、赤色の目はつり目だから少し冷たく見えるが澄んでいる。まあ、ルカさんの場合はドキドキとかって感じじゃないけれども。イケメンのイメージより喧嘩仲間のイメージが合ってる。一緒にいて楽しいよね。
あとウィル先生も相当イケメン。水色の髪はそれこそ澄んだ水の流れみたいだし。少し儚げに見せる白い肌とか女性とみまごうほど。それに反して、明るく親しみやすい性格。
どの人もジェニーにぴったりだわ!なんでジェニー基準かって?私がこの国で乙女ゲームを作るなら主人公はジェニーにするからよ!
あ、でも、ウィル先生は好きな人が別にいるからねぇ。できればウィル先生以外を好きになって欲しいわね。
他の人ねぇ、と想像してみる。やっぱり素敵だわ、と思っていると。、
……ズキッと心臓が音を立てた。チリチリと焼けるような音がする。
………あれ?
………なんでだろ……あの人とジェニーが隣に並んだ姿を思い浮かべただけなのに……?
どうして胸がずきりと痛んだんだろう……?
いけないわ、分からないことを考えていても仕方ないわね。これから授業だし。
思考を振り払った。
きっと、仲良しの人同士がもっと仲良くなって放っておかれるのがつらいだけね。
そう思い、チリチリとした何かは胸の底に幾重にも蓋をして沈めた。
★★
さて、1時間目は国語の授業だ。担当は私。そしてアンディ様が助手を務めてくださる。もう何回かしているので、時間になると生徒たちは何も言わずとも文字の練習を始める。
授業の流れとしては、新しい文字を習う、練習する、アクティビティをする、そして最後がまとめなのだが、もう大方新しい文字をならい終えてしまったので、いきなり練習から始まるのだ。
みんなは、文字は習い終えたし、単語練習といっても文字自体がローマ字のような感じなので、英語みたく読み方と文字が違うなどということがなく、さほど苦労することなく単語をかけるようになってきている。
書き取りが終われば好きな文字を書いていいということにしているので、みんな手紙を書いてみたり好きな物をかいてみたりと自由だ。
ちなみに、書き取りさえ終わればこの手紙や好きな物を書くのは強制ではないので、休みたければ休んでもいいことにしている。本を読むのも許可している。文字を読む勉強になるからね。
私はそんなみんなが書き取りをしている間、机間巡視を行う。みんな学びたくて学校に来ている子だからミニ黒板に向かう様子は真剣そのものだ。
「先生……」
「はーい」
机の周りをまわっていると、リルが呼ぶ。最初は声を出さずこちらをじっと見るか小さな、本当に聞こえるか聞こえないかの小さな声で呼びかけられていたが、最近は慣れてきたのか少し大きな声を出してくれるようになった。
少しでも慣れてくれてよかった。生徒にとって過ごしやすいのが1番だもの。
リルの声に近くにいた私が振り返り、
「どうしたの?」
「私……ルーイ神父に……お手紙、書きたいです」
ルーイ神父とは、リルやレーベがいる教会の神父さんだ。この前見学に行った時に挨拶をさせていただいた。朗らかで優しげな、白髪の方だ。物腰も柔らかい。
「お!それは素敵!」
「ルーイってどう書くのですか……?」
そっか、名前はローマ字っちゃあローマ字どけれど、名前的には外国語っぽいから英語表記になっちゃうんだよねぇ。
「そっかー。よし、先生と一緒に書いてみよっか」
そう私は言い、"Loewy"とリルのミニ黒板の上の方に書く。
「これがルーイ神父の名前……?」
「そうよ。下に練習してみましょう!」
「はい……!神父にはとびっきり綺麗な文字を書く……」
リルはそう言い、ミニ黒板に向かい、ルーイと何度か練習し始める。その様子がどこか楽しげでこちらも嬉しくなる。その背中にそっと応援の言葉をかけた。
すると、今度はカイトが手を挙げた。その手を目印にカイトの方へと向かう。
ちなみに、レーベはアンディ様と一緒に書き取りに苦戦中だ。レーベは、少し文字を書くのが苦手らしい。まだ、全ての文字をかけた事がない。でも、苦手なのに頑張ってくれているから、本当に素敵だと思うし、努力家で素晴らしいと思う。
そして、休み時間にも勉強しているから、リルやカイトも一緒になって勉強している事が多い。
そんなレーベとアンディ様を見守りながら、カイトの元へ行く。
「どうした?」
「先生、これなんだけど……なんですけど、この記述はどういう事?……ですか?」
カイトは、もう書き取りを終えたらしく、本を読んでいた。私に気づくと、読んでいた本の1部を指さす。そして、頑張って敬語話しているのが可愛い。撫でくりまわしたい。
その本は隣国、つまり私の祖国とルカさんの祖国のふたつについて書かれた本だった。カイトは外国に興味があるらしく、よく図書館からこういった外国についての本を借りていることが多い。
そして、私は隣国の出身であるからよくこんなふうに質問を受ける。文化についてとか、貿易についてとか。
隣国だから似ていることも多いんだけれど、時々違うかったりするんだよね。魔法とか料理とか。ちなみに、貿易は私の実家の家業なので結構詳しいことを説明できる。
「あー、それね!それはね、スミス王国特有の料理でね……」
今回は料理についてだった。スミス王国は大陸の端にあるから、海に面していて、魚料理が多い。
また、魔法などがないから、火の強さを調整したりする技術などが発展している。料理を焦がさないようにする火加減が随時出るように、とか。
電気はさすがにないけれど。電気が発明されたら便利になると思うんだけれどなぁ、なんて。
その後もいくつかカイトの質問に答える。ちょうど終わった頃に、
「レベッカ先生!!」
レーベから大きな声がかかる。
「お、レーベ、どした?」
「あのね、書き取りね、終わったの!!」
そう言ってレーベは書き終わったミニ黒板を見せてくれる。初めて全部しっかりかけたらしい。
「おおー!おめでとう!」
そう私が言うと、リルとカイトくんも手を止めて大きく拍手していた。
とりあえずレーベの頭を撫でておいた。めっちゃ頑張ったぞ、レーベ。
「じゃ、アクティビティに移ろうか!」
「はーい」
久しぶりのこうしんです。
ちょっと展開に迷いがありまして、遅くなりました。
すみません。
そして、サブタイトルのコレジャナイ感が凄いです笑
サブタイトル付けるの苦手なんですよ……。
なんかいい付け方ないですかねぇ。
それから、授業の様子は書いていてとても楽しいです。そろそろ生徒増えるかなぁ。
あと、レベッカの心の変化がありましたね!
さて誰を思い浮かべたんでしょうか?
その答えは、多分もうすぐそこで出ます…!
どうぞ、これからもよろしくお願いします!




