70話◎苦悩 (エドワード視点)
70話まできました!(相変わらず話の進みは遅いですが…)
そして、お父様のターンです!!
私、エドワード・アッカリーは、門から外に出された後、大きくため息を吐いた。
あの様子だと国王陛下と大臣たちは増税の政策を通してしまうだろう。
……また、止められなかった。レベッカの次は国民に苦痛を強いることになる……。
増税案が通ってしまった後、領民たちをどう守るか……。何とか策を考えねばならぬ。
目の前にある解決しなければならない大きな仕事の山に再度大きなため息をついたところで、
「旦那様?」
声が聞こえた。
その声に顔を上げると、門の前で馬車と共に待っていてくれていた、従者であり私の秘書でもある、アーノルド・レイシーの姿があった。彼はレイシー男爵家の次男であり、レベッカについて行ったメイド、リリア・レイシーの年の離れた兄である。
表情が明るいが、切れ者で必要ないと感じたことは容赦なく切り捨てる冷酷さも合わせもっている。また、物事を客観的に見たりすることもでき、上司に対してもちゃんと意見が言える。つまりは、とても有能な秘書である。
門から出て歩き出す私に、アーノルドは不思議そうな顔をこちらに向けている。何故ここに私がいるのか?という顔をしている。それはそうだろう、今の私は会議に参加中のはずだから。
「アーノルド、帰るぞ」
アーノルドに一言言うと、不思議そうな顔のまま頷き、馬車の扉を開けてくれる。私はそのまま馬車に向かって進み、乗り込んだ。
アーノルドがその後につき馬車に乗り込んだのを確認してから馬車を発車させてもらう。
だいぶ早い時間の帰宅にアーノルドはチラリとこちらを見て、
「会議はどうされたんですか?脱走ですか?」
「そんなわけなかろう。私が脱走するようにみえるのか?」
「いや、見えないですけど。もしかしたら、会議が嫌すぎて、と。……それくらいしか理由が思い浮かばなくて」
「追い出されたのだ」
心底不思議そうな顔をするアーノルドに理由を告げると、その目をさらに大きく見開いて驚愕……というよりは衝撃を受けたような顔をする。目が点になっている、とはこのことであろう。
「追い出された!?国王陛下が旦那様を追い出したってことですか?」
2回同じことを尋ねるアーノルドは、まだ状況を整理出来きれていないのだろう。その言葉に頷くと、アーノルドは、眉を大きく顰める。
「あの方は馬鹿なのですか?」
付け加えてアーノルドは毒吐きでもある。これは、妹のリリアにも言えることだが。さすがは兄妹だと思う。
「……アーノルド、不敬罪になるぞ」
いくら、もう馬車に乗っているとは言え、あまりにもはっきりと言うから、思わず苦笑してしまう。すると、そんな私の様子をチラリと見て、
「……失礼いたしました。では……あのお方の脳は退化しておいでなのですか?」
澄ました顔をして訂正する。
「口調を丁寧にしても言っていることは同じだぞ。というか、酷くなってないか?」
「……あ、失礼いたしました。つい、本音の一部が……」
と畏まったように謝るが、その目は少し溜飲が下がったとでも言いたそうだ。
「ありがとう。でも、ほどほどにしておけよ」
「善処致します」
その答えにフッと笑うと、アーノルドは、「ですが」と言葉を続け、
「国王陛下がフラン陛下になってから、この国の信用は落ち、旦那様が外交大臣をやっているからこそ、他国の方も旦那様の頼みならと、貿易において助けて下さっているのですよ?それで、今は何とかなっていますが……。そんな旦那様を追い出すって陛下は何を考えてらっしゃるのですか?」
そうなのだ。今この国は、他国のおかげで何とか成り立っていると言っても過言ではない。他国の大臣並びに貴族たちは戦友だ。本当にいい友人達を持ったと思う。
「さあな。私に陛下の考えはわからぬ。だか、何とかせねば……。国民の負担が少しでも減るようにできれば良いのだが」
そう言うと、アーノルドはうむむと少し考え込むような顔をしてから、
「これまで旦那様は領民がお金に困らないように雇用を増やしたり、領民が作ったものを他国へ貿易してきたりしましたが、これ以上どうするおつもりですか……?」
と尋ねる。
「……うむ……どうするべきか……。いくら貿易などを何とかしてお金を作っても、出費が多ければその場しのぎにしかならぬ。出費を抑えねば……」
「主な出費は王太后様と周りの大臣たちですか?」
「ああ。しかも、財政大臣があちらについている」
その他にも教育省と軍事省はあちら側だ。聖務省はどちらにもついていないが、少しこちらより。
大臣の多数決と国王陛下の決定により政策は運営されている。聖務省がどちらにも傾いていないのが救いだが、それでも三大臣と国王陛下がいる時点で好き放題な政策を通すのは止められないだろう。
「頭が痛い問題ですね……」
「ああ。とりあえずこの後は、外交省へ行ってから、1度家に帰って、その後、街の方へ行く」
これからの予定をアーノルドに伝える。
ひとまず外交省に行って会議の報告。私が追い出されたとなったら、外交省の部下の国王陛下やほかの大臣への不信感を煽る結果になりそうだ。
「旦那様、外交省の文官達は大丈夫でしょうか?」
私が所属する外交省は正義感の強い部署だ。自分達は国を動かす誇りと守る義務があるということを信条に働いている。普段から国王陛下やほかの大臣たちの態度に納得のいっていない部下たちにとって、今回のことは更に怒りを増幅させる結果になるだろう。
「外交省は、さすが旦那様の省庁!っていう感じの省庁ですからね」
「それはどうかわからんが……。みんな国のために働いてくれる良い部下だと思う」
「文官達がそうなっているのは、旦那様がお仕事に誇りをもたれ、正義と公正のもと、そして国民を守るという信条のもと働いていらっしゃるからこそです」
「そうだと嬉しいが……。だが、正義感だけで暴走せぬようにしなければ」
そうだ、「不信感がある」「国王陛下が正しくない」と思ったからといって謀反だったり反乱だったりを起こせばこちらが潰される。
「王への反逆罪に対する粛清」という格好の餌を与えることになるのである。潰されてしまえば本当にどうにもならなくなる。どうにか穏便に済ませる報告をしなければならない。
まあ、ちゃんと話せばわかってくれる部下ばかりだから、多分、大丈夫だ。
「まあ、みんなわかってくれると思うが」
それから、街へは領民の話を聞きに行く。困っていることやこれからのことについて領民たちと話をするのだ。
普通は領主が領民に話を聞くなどということはしないだろうが、直接聞かねばわからぬこともある。最初の頃は大騒ぎになっていたが、今ではもう当たり前らしく領民達は恐縮したりせず思いを語ってくれる。
「アーノルド、お前にも迷惑をかけると思うが、よろしく頼む」
「迷惑だなんて思ったことはありませんが、仰せのままに」
「ありがとう」
問題山積の現状に頭が痛くなる。こんな時に娘の顔でも見られたらいいのにな。今度こっそりケイラー王国へ行こうかな……。
「旦那様、お気持ちはわかりますが……」
「どうしてわかった…!?」
「何年一緒にいるとおもっているんですか?旦那様の心の声を読むなんておやすい御用です」
「……そ、そうか」
「お気持ちはわかりますが、今行くと……」
「わかっておる。娘の居場所がバレるかもしれないどころか、それこそ反乱を企てていると思われるかもしれぬ」
「心苦しいことを申し上げて、誠に申し訳ありません」
「いや、アーノルドのせいではない。謝るな」
せめて、景気づけに美味い酒が呑みたいなぁ……。




