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69話◎現状と危機(トーマス視点)

スミス王国(レベッカの祖国)は今……というお話です。

初登場キャラクターの視点です。スミス王国の宰相さんです。

 わたし、スミス王国にて宰相を務めるトーマス・ミシアは戦慄を覚えた。


 自分の真横に座る王によって。

 そして、その周りにあつまる大臣たちによって。


 それは、現在進行形で目の前にて行われている、国王陛下と宰相である私、それから大臣たちで、国の方針を決める会議での出来事である。


「さらに税金を上げるとは、どういうことですか!?」


 席の末に座っていた外交担当大臣であるエドワード・アッカリー公爵が思わず声を上げた。


 この方は元々現国王であらせられるフラン様の元婚約者、レベッカ・アッカリーの父親であり、その娘が国外追放されたことによって、爵位剥奪とまではいかなかったものの会議などでは末席に座ることになり、発言もあまり出来なくなってしまっている人だ。


 その決定を聞いた時は、国のことをこれ程までに考えている人になんて仕打ちを……と衝撃を受けたが、今回の国王陛下の発言にも衝撃を受けた。


 その発言は、「税金を上げる。ないのなら民から搾り取ればよいであろう?」というものであった。


 このスミス王国では財政難に陥っている。国もそして国民たちもお金に大変苦労しているのだ。そして、今はその財政難を何とかするための会議の真っ最中なのである。


 財政難の原因は明白。今まで国家間の貿易を担い、そして国内の調整もしてきたアッカリー家の権力が弱まったことと、この目の前でふんぞり返っている大臣たちが国王陛下の名の元好き勝手に国の財源を使っていること、だ。


 そして、極めつけは王太后様である。彼女は国家の金を使い、ドレスや宝石や化粧品などを買い付けている。それも大量に。


 それなのに、さらに税金を上げて民を苦しめる、そういう決定を軽々としてしまうのだ、この国王陛下は。


現状が何も見えていない。何も知らないのだと思う。いいように大臣に扱われているだけだ。


 思わず言ってしまったであろうアッカリー公爵の方に国王陛下とほかの大臣の視線が一斉にむく。その中で一番かっぷくのいい男、財政大臣が口を開く。


「おやおや、アッカリー家は国王にはむかうのですか?国王陛下に恋慕していたレベッカ嬢が聞けば悲しむでしょうな。……あ!隣国へいらっしゃったんでしたっけ?こりゃ失礼」


 ねっとりとした声音で嫌味を吐く。その顔は面白くてしょうがないといったふうに歪んでいる。さらりと娘の話をしていくあたり、いい性格をしていると思う。


周りにいた大臣たちも財政大臣の言葉に続けるように口々に言う。


「今頃隣国で楽しい暮らしをしているかもしれませんねぇ」


「きっと素敵な暮らしをなさっておいでですね」


「羨ましいですねぇ」


 少しのお金とメイド2人を連れて出て行ったまだ若い娘に良くそんな事が言える。生きているかどうかすらも分からないのに。


それも、あの国外追放は、私やほかの貴族が止めるのを無理矢理決めて通したものだというのに。ほかの決定は遅らせるくせに、その時ばかりは仕事が早く、しっかり止める時間もなく可決され、実行されてしまった。


 だが、アッカリー公爵はそんな大臣たちの言葉に怯むことはない。


「国王陛下にはむかうつもりはありません。ただ、これ以上民を苦しめるような真似はやめて欲しいと申し上げているのです」


 そう訴える公爵に、国王陛下が眉を大きくゆがめる。そして、鋭い眼差しで睨みつけた。


「国のために働き、税を納めるのが民の仕事であろう?仕事を割り振って何が悪いんだ?」


 レベッカ嬢が婚約者でなくなったこと、そして、その彼女が現王妃であるクレア様をいじめていたこともあって国王陛下のアッカリー家へのあたりはきつい。


「ですが……!」


「もういい!そなた、部屋を出ていけ!話にならない!」


 尚も言葉を紡ごうとしたアッカリー公爵の言葉を国王陛下が止める。


「国王陛下!」


 呼び止める公爵に構わず、


「衛兵、アッカリー公爵がお帰りだ。門まで案内せよ」


 国王陛下が命じ、公爵は衛兵に連れられて部屋の外へと歩いて出ていった。


「邪魔者がいなくなったな。では、会議を続けるとしよう」


 国王陛下は公爵が出て行った扉をチラリと見やり、そう心底公爵を邪魔者扱いする発言をした後、口の端を上げて笑う。


 ……この国は大丈夫だろうか……?


「私も少々やりすぎな気が致します、国王陛下。もう一度考えてみてはいかがでしょうか」


 私が横からそう言うと、公爵を追いやったことに満足し、機嫌がよかったらしい国王陛下の機嫌がスっと下がる。私の方をギロリと効果音がつきそうな瞳で見据えた。


「宰相の分際で私に指図するのか?」


「いえ、そういう訳では……」


 そう言うと、国王陛下は何かを考えるように一瞬黙ってからニヤッとした笑顔を浮かべた。


「そう言えばそなた、まだ小さい娘がいたな?」


「は、はい。おりますが……」


 国王陛下の話の繋がりが見えないこと、そして国王陛下の機嫌が少し浮上したことを少し不気味に思いながら返事を返す。


「そなたが爵位を剥奪されれば、さぞ苦しむだろうな?それか、その娘をひとりで隣国へ国外追放してやっても良いぞ」


 ぐっと唇を噛んだ。


今ここで爵位剥奪となれば家族は路頭に迷う。そして、ひとりの国外追放もまだ幼い娘は生きていけるはずがない。レベッカ嬢だって今、どこでどうしているか分からないのに……。


意見することが出来ないのが悔しい。


 このスミス王国は……。このままでは壊れてしまうのではないだろうか。


ああ、


本当の第一王子殿下が生きていらっしゃれば、こんなことには……フラン様が王位につくことはなかったのに。


あの時、本当の第一王子殿下の母君であらせられる前王妃様が亡くなっていなければ……。


15年前のあの事件がなかったならば……。

キャラクター紹介

・トーマス・ミシア(40)

スミス王国の宰相。今のスミス王国の現状に危機感を覚えてはいるものの、強くは出られない。娘(3歳)がいる。


・エドワード・アッカリー

久しぶりの登場、レベッカのお父さんです。スミス王国では外交大臣をつとめている。一応再度ご紹介させていただきます。


いきなり初登場キャラ視点で「え、誰!?」ってなりましたよね、ごめんなさい。


そして、初登場なのにいきなり視点を任される宰相、お疲れ様です←

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