66話★職員会議
励ましてくれたあの日から、職員会議にルカさんも参加するようになった。なんでも「色んな視点があった方がいいだろ」だそうだ。すっごくぶっきらぼうに言われたけれど、それが照れ隠しであることは、少ししかないけれど付き合いの中でわかっている。
もちろん議題は、『どうしたら生徒が来てくれるか』である。ルカさんに盲点をつかれたので、その点に関しても討議しなければならない。
生徒のための学校で、生徒のことを考えて授業をしなければならないのに、あちらの都合を考えきれていなかったのは、本当に反省すべきところだ。
今、私たちはそれらについて議論すべく、学校が終わった放課後に教室で職員会議をしている。
噂のこともあるから一筋縄には行かないと思うが、行動しないよりはいい。
「噂に関しては、多分……1度来て貰えれれば、少しは有用だってことが伝わると思うんですけれど……うちのカイト、毎日楽しそうですし……」
ジェニーがスっと手を挙げてそう言った。
そうよね。それは教室での様子を見ていても楽しそうなので、自惚れではなくいい授業が出来ているんじゃないかな、と思う。
どうしたら来てくれるのかしら?
「行くのはこの領の民なのですから、直接話を聞くというのはどうでしょうか?」
領民本人たちにどうしたらいいか、どうすれば来てくれるか聞けばいい。そうすれば、噂の件もなんとかなるかもだし、生徒たちとその保護者達の意見を反映できるから、ルカさんに指摘されたようなこともなくなるのではないかと思う。
「どうやって?」
ウィル先生が尋ねる。
「それは……『三者懇談』とか?」
やっぱり直接話を聞くってなると、前世の知識ならばこれよね。
「サンシャコンダン?なんですか?」
ジェニーが不思議そうな顔をして尋ねる。ウィル先生やアンディ様、ルカさんも同じような顔をしている。そっか、こっちの学校制度にはないのか。
「生徒さんと保護者を学校に呼ぶのよ。そして、私たちと話をするの」
「ばかなのかっ!それは貴族による召喚だ!!断ることの出来ない貴族からの呼び出し命令だ!」
そう私が説明した途端、ルカさんからの罵倒が飛んだ。召喚!?え、そんな大層なことになるの!?
「そんなつもりはないのだけれど……。正式なものではないし」
「こちらにそんなつもりがなくても、いきなり身分が上の奴から「来てください」なんて送られてきたら向こう側は委縮するぞ!!」
えー!?そんな!
私の祖国では、お父様が「領民のことは領民が1番知っている!」とかって言って、しょっちゅうお話しに行っていたけれどなぁ……。私もよく同行したけれど。
「私の領地では領民と会話、普通にしていたけれど……」
「……普通の距離感じゃねぇぞ、それ。とにかく、怖がられたくなかったらその案は却下だ」
そっかぁー。来てもらうと呼び出し命令になるのか……。じゃあ!こっちから出向くのは?
「そっか。じゃあ『家庭訪問』は?」
「カテイホウモン?」
「生徒のご家庭に訪問するのよ。それで、話を聞くの」
そう言うと今度はアンディ様とウィル先生がそれぞれ、
「いや、それもダメだと思うよ。召喚命令とそんなに変わらないよ」
「多分、召喚よりタチ悪いよん。向こうは貴族に失礼にならないように色々準備しなきゃならなくなるし……」
と言った。
そっかー。下手をすると、押し入りみたいになってしまうってことかな、多分。前世とも、並びに国家間で?いや領地間で?、認識が違うんだなぁ。そんな大層なことにするつもりはなかったのだけれど。
相手を委縮させず、学校に来てもらうようになるには……。
前世の知識でこちらの世界にも受け入れられそうなこととかないかな……。前世での学校選びと言えば、高校や大学よね?
私たち、どうやって高校とか選んだっけ……?
そう思っているとジェニーが、
「説明会なんてどうでしょうか?」
「説明会!いいかも!」
そういえば、前世でも説明会があったわ!実際に学校に行って話を聞く機会があったわね!
でも、学校で開催じゃ、来て貰えないわよね。そして、同時に授業や学ぶことの大切さ、楽しさを理解してもらうには、説明会だけじゃ足りないわ、きっと。
そう考えて、ふと思い至る。前世にあった学校見学でいいのがあるじゃない!
「もういっそ、公開授業をしてみるってのは?学校じゃ来て貰えないかもしれないけれど、どこか色々な人が見れるところをかりて、誰でも参加可能にして、体験授業みたいな」
名付けて!出張版オープンスクール!!
「いいですね!その後説明会をすれば、聞いてくれる人も増えるのではないかと思います」
ジェニーがパチンと両手を合わせて笑う。それにこくこくと頷きつつ、
「そして、意見交換会もできたらいいな!」
これなら、学校の良さアピールも、領民の意見を取り入れるのも出来ると思う。
オープンスクール、開催決定!!
それから、アンディ様は少し考えるように上を向いて、
「学校に行く意義をもう少し持たせるために、生活に役立つ授業とかもしてみるとかはどうかな?」
そう提案する。
なるほど……、それは素敵かも。
でも、それなら、私たちが教えるよりも子どもたち自身が学べるような方法の方がいいんじゃないかな。私達も一緒に学ぶ、みたいな。
そう、現代で言う『総合的な学習の時間』みたいな。
問題解決学習だよ!
『為すことによって学ぶ』!
デューイさん!!
そして、実質陶治的な考え方だよね!
少しテンションが上がりながらそう提案すると、『総合的な学習の時間』の概念がなかったみたいで、少し不思議そうにされた。温度差よ!!
でも、納得はしてくれたみたい。いつか、『道徳』とか『特別活動』とかもしたいな!!!
とりあえず、今までは『国算国』か『算国算』、間に『理科』や『社会』をちょこちょこ入れていたけれど、その他に、間に『総合的な学習の時間』を入れてみようということになった。
あとは、ルカさんが言ってた、時間の調整ね。
結論から言うと、私が提案した2日間同じ授業をするのと週末にまとめてするのは却下になった。前者は午前が無理な子は次の日でも忙しいのではないかということと、来れる子が一日おきの授業になってしまうことが理由だ。後者は生徒の負担が大きすぎるからというのが理由だ。
それを考えた上で、代替案として出されたのは、『午前と午後で同じ授業をして、どちらかに来てもらうようにする』というものだった。発案者はルカさんだ。
「時間の調整については、それで行きましょう」
★★
職員会議が終わると、ウィル先生は授業、ジェニーはお仕事、アンディ様は授業を受けるとそれぞれ予定が入っていたため、帰って行った。
教室に私とルカさんが残る。
「ルカさん、この前はお花、ありがとう!」
「……別に……大した物じゃねぇし……」
「ううん、とても励まされたもの。だから、大した物よ」
「その使い方、あってんのか?」
「さあ?」
そこまで会話して、笑い合う。ルカさんともだいぶ打ち解けてきたかも……?なんて少し嬉しくなっていると、ルカさんが急に笑うのをやめ、真剣な顔になった。
「……どうしたの?」
不思議に思ってそう尋ねると、ルカさんは一瞬俯きながらキュッと唇を噛むようにしてから、こちらをじっと見た。
「………なあ、俺の話を聞いてくれるか?」
さて、ルカさんのお話とは?
次回もよろしくお願いします!




