番外編 ✲ルカと葛藤と花屋さん (ルカ視点)
本編に入れれなかったので……。
サブタイトル?は、ルカさん、花を買う、です。
ケーラー王国公爵家の次男であるアンディ様の従者である俺、ルカは私用で街の方へと出てきていた。店が多く立ち並ぶ、所謂商店街である。
買い物を終えて公爵邸へ帰るために歩いていると、たくさんの店が並ぶ中に、花屋が見えた。色とりどりの花が並んでおり、そこから甘い香りが流れてきている。
それを見た時、ふと、なぜだか分からないが落ち込むあの女が脳裏にちらついた。そう、あのいつもは元気で持論をぶっかけてくるあの女だ。
あいつ、元気なかったな。肩を落として落ち込んでいた。まあ、理由はわかっているが。
その落ち込んだ顔をみると、なぜだか分からないがこちらまでイライラする。思い出してみても、腹が立つ。
……花でも送ればこのイライラもなおるか?
とそこまで考えて、ブンブンと勢いよく頭を左右に振る。
ンで、あんな女のことを考えてんだよ、俺は。あいつが落ち込んでいるとかどうでもいいことだろう。それに、なんで俺が腹立てなきゃなんねぇんだ。
頭を振ったのと同時に、思考を外へと追いやり、「ふんっ」っと小さく息を吐いてから歩を進めようとする。
歩いていくと、花屋が近づいてくる。視界に見える色とりどりの花。そして、脳裏にはあいつの落ち込む表情が浮かぶ。それから、花を差し出す俺と驚いたような顔をし、その後少し微笑む女。
その笑顔はとても嬉しそうで、ドキリと心臓が変な音を立てた。苦しいような痛いような音。
思考が消えない。なんなんだよ!?
微笑んだ女に少し満足そうな俺。
なんで!俺がッ!あいつをッ!喜ばせなきゃなんねぇんだッッ!!つーか、なんだよ、この妄想!!
再度ぶんぶんと首を振っていると、
「あの〜?お客さん、花を買われるんですか?」
と控えめな声がかかった。
ばっとそちらを見ると、目の前にはその花屋と、店員であろう20歳くらいの女性が見えた。どうやら、花屋を通り過ぎたと思っていたが、この辺にずっといたらしい。その女性は訝しげな顔でこちらを見ている。
俺が、花を買う!?あいつに!?
「は!?なんであいつに!」
思わず大きな声で言ってしまうと、女性は訝しげな顔から呆れた顔へと表情を買えた。
「人への贈り物ですか?それなら、そんな所で突っ立っていないではいったらどうです?」
「え、いや、俺は、別に……」
「そんなこと言って、さっきから数十分の間店の前をクルクルしているじゃないですか。あんた、男でしょう、買うなら買うでスパッと決めちゃって下さい。周りでうろつかれると迷惑です」
女性はそう言うと、俺の手をパシリと取り、そのまま店へと引っ張っていく。は?ちょっと待て!と思った頃にはもう店の中にいた。強引な店員だ。ってか、俺、数十分もここにいたのか?
店の中に入ると、更に濃い花々甘い香り、そして草花特有の香りと水の香りが鼻をくすぐる。花屋なんてほとんど来ないから溢れんばかりに置かれたカラフルな色に少しだけ気後れする。
「で、どんな花を相手に送るの?まさか求婚?」
女性は中にあった椅子に俺を座らせると、自分もテーブルを挟んで向かい側へ座り、それから爆弾のような言葉を落とした。
「は?!きゅっ?!きゅっ!?」
壊れた魔法具のようにパクパクと口を動かすことと目を白黒させることしか出来ない。そして、不思議なことに、身体はこんなにも固まって動けないのに頭は勝手に動き始める。
俺があいつの前に跪き、すっと花束を差し出す。「俺と結婚してくれ」という言葉と共に。驚く女。それから、少し微笑んで……
何ッ!考えてんだッ!?
そもそも、あいつのことを好きでもなんでもねぇだろう!というかあんなうるさい女、こっちから願い下げだ!
ブンブンと首を振ると、
「なーんだ、つまらない男」
目の前の女性は何故かプクーっと頬をふくらませてこちらを見て言った。なんだよ、俺は見世物じゃねぇぞ。ってか、 客に対する態度はどうかと思う。俺が言えた義理ではないが、愛想が無さすぎる。
「ま、いっか。で、どんな花をご所望?私、花の目利きには自信があるわよ?」
どう言っても引く気がなさそうな女性に、俺は小さくため息をつくと、
「……落ち込んでいる奴に……」
「元気を出してもらいたいってところかしら?」
「ち、ちげぇ!あいつが落ち込んでいるのを見るとなんかイライラすんだよ。だから、俺のイライラを解消する為に……」
「ふーん?あなた、素直じゃないわねぇ〜。まぁ、いいわ。そうねぇー、元気を出して欲しいなら……」
女性はそう言うと、少し悩むように首をかたむけつつ目線を上に向け、立ち上がる。それから、花々が置かれている所へ行くと、今度は花を見回した。
「スズランとかどうかしら?花言葉は『幸せが帰ってくる』『幸福の再来』。あとは、カモミールもいいかな?『逆境に耐える』」
そう言いつつ女性は何本か花をこちらに持ってくる。2つとも可愛らしい花だ。ふわふわしていてつかんだら壊れてしまいそうなほど。ちょっとあいつっぽくない。
「その人っぽくない?」
「……ああ」
女性は俺の思考を読んだかのようにそう言った。
「そうねぇー。じゃあ、あなたが贈ろうとしている相手はどんな人?」
「……どんな……」
どんな人……か。疑問を反芻しつつあいつを思い浮かべる。真っ直ぐなダークブラウンの髪に蒼い理知的な瞳。ポンポンとした軽い言い合いができるが、普段はちゃんと令嬢っぽくて凛としている。所作はこちらが驚くほど美しく、洗練されている。
「……凛とした人……だな。でも、中に暴れ馬を飼っている」
「凛とした人……その中で激しい何かを持っている人ねぇ。ガーベラはどう?『希望』『常に前進』。って花言葉があるわ。それに、ほら、凛とした美しい花でしょう?……あ!求婚ならこの赤いバラがオススメよ?こっちも凛としているでしょう?それに花言葉に、『情熱』ったのもあるのよー?全般的には『愛』だけれど」
ガーベラを見せながらさりげなくバラも見せてくる。
「だから、きゅっ、求婚じゃねぇって!」
「ふふ、そう?ざんねん」
女性はクスクスと笑って言った。
こいつ、面白がってるな!!ここにいたらこの先もからかわれる未来しか見えねぇ。はぁっと大きくため息を吐いてから、
「それでいいよ、それをくれ……」
いつまでもここにいたくねぇ。
それから、女性にガーベラを花束にしてもらうと、小走りで店を出た。
なんか、どっと疲れた。というか買っちまったけど、どうするんだよ、これ。
あいつに渡すのか!?
俺が!?
ルカさんの奮闘は続く……
本編に入れたかったけれど、入れられなかったルカさんがレベッカちゃんにお花を贈ることになった経緯です。
ルカさんは書いてて楽しいなぁって思います。ついいじめたくなるんだなぁ←
次はきっと、職員会議第2弾です。
それと、どっかで今のスミス王国のお話を入れたい……またどこかで……。




