61話★授業開始
リルの言葉に周りが固まる。ウィル先生は楽しそうに笑っている……いや、両手を口に当てて吹き出すのを堪えているみたいだけれど。
みんな、アンディ様の一挙手一投足に注目している。
「あ……えっとー、秘密かな?」
アンディ様は少し考えたあと、少し照れたような笑顔を浮かべてそう答えた。
「ふふふ、秘密だってさー、ごめんね、リルちゃん」
ウィル先生は、人差し指を口元に立てて当てながら言う。
すると、リルちゃんはさして気にした様子もなく、こくんと頷き、
「……いえ、ただ、気づいているのに何故言わないのかと気になっただけですので……」
と答えた。
へぇー、アンディ様って好きな人いるんだ……。誰かなー?ジェニー??
「……無自覚って残酷だと思います……」
リルが何か言っていたが、よくわからんかった。ごめんね。ジェニーもため息をついてるし。
「リルは何言ってるのぉー?」
あ、仲間がいた。レーベである。
「レーベくんは知らなくていいよ? 」
ジェニーが一言。うん、よくわからん。
こんな感じで質問コーナーは終了し、生徒3人の自己紹介も終わった。その後、学校全体の説明を終了すると1時間め終了くらいの時間であったため、そのまま休み時間へと移行する。
10分間の休み時間の間に、私とアンディ様、ウィル先生で職員室へ向かった。ジェニーは休み時間の間、生徒の様子を見ていてくれるらしい。
職員室に入った瞬間。
「はぁぁ……」
思わず大きなため息が漏れた。今まで生徒の前だからと耐えていたものが溢れた感じである。
だって、こんなにも来ないなんて!
「レベッカ、大丈夫?」
アンディ様が心配そうに尋ねる。
「はい、何とか大丈夫です。でも、思ったより落ち込んでいます……」
「そっか……」
私が俯いたままでいると、ポンっと頭の上に何かがのった。そのまま、何度かポンポンと撫でられる。
顔をゆっくりと上げると、頭に手を置いているアンディ様が見えた。優しく微笑んだ瞳と目が合う。こちらが癒されるような、暖かな笑顔。
「大丈夫だよ、何とかなるよ。というか、何とかするよ」
そのまま、語りかけるように優しく言葉を紡いでくれる。
「これから改善策を考えればいいよ。初めてのことに失敗は付き物だから、ね?」
優しいなぁ、アンディ様は。
「ありがとうございます! 」
お礼を言うと、
「……っ……! 」
アンディ様は私の頭を撫でていた手を止め、驚いたような慌てたような顔をした。そのまま、手を頭から退けて、私の方を向いていた視線を、ふいっと逸らせる。
「ほんとこういう所、ずるいよね……」
アンディ様にしては、どこか歯切れ悪く、そして小さな声で言っていた。
何がずるいのかな?
「アンディ様? 」
「なんでもないよ」
私の問いかけに、アンディ様は視線を逸らしたままそう答えた。ますますよくわからない状況に、頭の中をクエスチョンマークが覆い尽くす。
そんな私の様子に、ウィル先生は、ポンっとアンディ様の肩を叩く。
「まぁ、頑張るんだよ、ディちゃん」
アンディ様は半ば諦めたようにはぁと小さくため息をついてから、ゆっくり小さく首を振る。
それから、小さく頷いて、自嘲気味に笑った。
「ありがとうございます、ウィル先生」
よくわからないけれど、アンディ様は何か頑張るらしいです。
「とりあえず、放課後、職員会議、する?」
アンディ様が気を取り直したように言う。
「はい。原因を探らなきゃですね」
私が言うと、アンディ様とウィル先生もこくんと頷いたのだった。
★★
その後、今日は少しだけ文字の練習をすることにした。主に教えるのは私で、ウィル先生とアンディ様、ジェニーは助手に回ってくれた。
使うのは用意していたミニ黒板のようなもの。文字練習はこれでいくことになっていたからね。
ここではローマ字が使われているので、文字はアルファベットな訳で、全部で26文字と小文字26文字。だけど、ローマ字はあいうえおと同じ使い方をするから、実質26文字も使わないけれど。
前世のひらがなやカタカナ、漢字もある日本語よりは覚えやすいかな、と思う。
そして、黙々とただの文字の羅列を覚えるのは飽きると思ったので、文字を使って身近なものを書いてみるゲームやフォニックスを少し改良したものをすることで、集中力切れを防ぐことにした。
今日覚えてもらうのは大文字AIUEOと、小文字5つのaiueoだった。でも、ゲームの時は、それ以外もさりげなく使ってみせる、所謂、i+1の制度で行った。
身近なものを書いてみるゲームで1番盛り上がったのは、自分の名前を書いた時だった。
何故かわからないけれど、自分の名前って盛り上がるよね。前世で漢字ドリルとかしていた時、自分の漢字が出てきたらテンションが上がった記憶がある。書けるのが嬉しくて、やけにきれいな字で書いたり何度も練習したりしたなぁ。
どこにいてもそれは変わらないみたいで、3人はウキウキと言った感じで名前を書いていた。
レーベもリルもカイトも名前には、今回習った文字にない文字もあるけれど、みんな自分の名前はかけるようになったみたいである。
素晴らしい。もう、手放しで褒めたい。いや、実際に言葉にして褒めたけれど。だって、言わなきゃ伝わらないよね。思ったことは積極的に伝える主義なんで。
「おおー!リルは字が綺麗なんだね!凄いよ!」
リルはとても字が綺麗だった。
「お!頑張ってるね!レーベの頑張りが伝わる字だね」
レーベは拙いけれど一生懸命書いたのが伝わってきてすごくよかった。
「丁寧に書けてるね!」
カイトくんは、1文字1文字にゆっくり時間を掛けて綴っていて、とても丁寧だった。
それぞれがそれぞれらしく書いていて、何よりみんなが楽しそうだったからとても嬉しい。
「どう?先生ー?」
「そうねぇー、このLの下の部分、もう少し長めにした方がいいかな」
「なんで伸ばすの〜?」
なんで……か。難しい質問だな。
「ちょっとこれみてー?「I」ってのがあるんだけれどー」
そう言いつつ、黒板にIとLを並べて書いて見せる。
「こうしたら、どうなる?」
そう言って下の線を隠してみせる。レーベは、黒板に並んだ2つの文字をじーっと見て、
「全くおなじー」
「そう、2人は別人なのに、どっちがどっちか分からなくなっちゃったね」
「大変だ……!」
「だねー、大変だねぇ。だから、2人の見分けがちゃーんとつくように、Lの下は長く伸ばして欲しいんだよ」
「わかった!」
「じゃあ、「L」書いてみて?」
「うん」
そう言うとレーベは、持ってきていた黒板にチョークで「L」と書いてみせた。
「おお、よく出来たね」
こんな感じで少しずつアドバイスもしつつ、文字の練習をしていき、一日目は無事に終了した。
「さよならー」と帰っていく生徒たちを見送る。
よし、この後、職員会議だわ。
拙い作品を読んでいただき、いつもありがとうございます!これからもよろしくお願いします…!
次回は職員会議の模様をお届け!
次回の更新は!……こちらも出来次第になります、ごめんなさい。
よろしくお願いします。
✤用語✤
・i+1
現在知っている、学習しているものより少しだけ高いレベルのものを混ぜて教えること。
・フォニックス
リズムに合わせてアルファベットを覚えるもの。
有名なのは「A says a a apple」だと思います。




