54話★お昼ご飯と午後の見学
私生活の方で立て込んでおりまして、更新が遅くなりました、ごめんなさい。大学の課題が終わらなくて……。
刺すような視線の中私はスタスタと歩き始める。どうやって買えばいいのかしら?前世の大学では、食券を買ってからその食券に印字されたカウンターに並んで、職員さんにそれを渡すって流れだったけれど。
「これ、使え」
戸惑っているとボソリと聞こえた声。その声に振り向くと、アンドレア様が3枚のカードを私とアンディ様とウィル先生の方へ向けてる姿が目に入った。そのカードは、クレジットカードほどの大きさで柄としては紺色に赤色の格子柄。チェック柄と言った方がいいのだろうか。
「これは?」
差し出されるがまま受け取りつつ尋ねると、アンドレア様は少し困ったような顔をしてからウィル先生の方を見やる。アンドレア様は相当口下手なのだと思う。どう説明したらいいかわからない、と顔に書いてある。
困ったような表情を向けられた主であるウィル先生は、目を細めて意味深長に微笑む。そして、答えることもしない。
アンドレア様は一瞬うっと言葉につまり、それから口をへの字に曲げる。だが、ウィル先生が話す気はないと悟ったのかゆっくりと口を開いた。
「これは食堂で使うカードだ。学内の食堂でのみ使える。職員さんにこれを見せてから注文をする……」
途切れ途切れに、そして静かに言葉を紡ぐ。なるほど、このカードが会員証のようなものらしい。
「ちゃんと説明できたね、えらいえらい!」
「子供扱いするな……」
頭でも撫でそうな勢いで言うウィル先生に、アンドレア様は少し眉を顰める。
「だって、レアちゃんは意識しないと全然喋らないでしょー?」
「うっ……」
否定出来ないらしく、言葉につまるアンドレア様。
「そういうミステリアスな感じもレアちゃんの魅力だけどねん!」
確かに、とひとり頷く。だって、多分この学校の女子の憧れの的だよ、この人。絶対ファンクラブとかあるやつだ。
アンディ様とウィル先生、そして私の3人に視線を向けられたからかアンドレア様は居心地悪そうに目を左右に動かした後、
「昼食、選ばないのか?」
アンドレア様の一言で私たちは昼食を選ぶこととなった。
私が選んだのは、ウィル先生がここに務めていた時のお気に入りだったという日替わりステーキ定食。
正しくは、そんな商品名じゃなかったけれど……。「~に~を添えて」とか書いてある、フランス料理のコースばりの長い名前の料理だったために勝手にこう呼ぶことにした。
だって、この定食は食堂のシェフが毎回オリジナルで組み合わせるらしいから。
そんな定食の今日の内容は、メインのステーキ、温野菜、そして平らな器にはスープが入っている。
そして結論から言うと、この食堂の料理はとても美味しかった。アンナの作る料理には劣ると思うが。贔屓目だろうか。
★★
満腹になった私たちは、昼休みの間に施設巡りをすることになった。学級文庫の進化版のようなものを教室につくるので、図書館の見学は必須である。制度的な話も聞ければいいのだが。
前世の図書館はよく行っていたのだが、スミス王国で前世の記憶を思い出す前は図書館へ行ったことはなかった。なぜならお父様の蔵書で調べものは事足りたからである。
なので、こちらに転生してからは初めての図書館となる。すこしワクワクする。
そんなことを思いながらアンドレア様の案内で図書館へと向かう。図書館は教室などがある教室棟から少し離れた位置にある、ひとつの大きな建物だ。
緑に囲まれた中に静かに佇む図書館はそこそこ大きい。例えて言うならば、貴族の小さなお屋敷ひとつ分くらいだ。建築としては、教室などがある棟と同じように白を基調とした建物だが、所々レンガなどの模様が見られ、お洒落な造りになっている。
「ここは学校内の図書館だから、生徒しか入れないんだ。そして、ここより大きくて、誰でも入れるのが外にある王立図書館になるよん」
ウィル先生はそう説明しながら外を指さした。しかし、ここからだと緑しか見えない。学園の門がかろうじて見える程度だ。
王立図書館は、前世の日本で言う国立図書館のような所だろうか。行ったことはないけれど、行ってみたいとは思っていた。
「って指をさしても見えないかー。ええっとねぇー、王立図書館は国内最大の図書館だよん!……と言っても、この学園内のものと王立のものしか図書館はないけれど」
「本は個人で所有している人が多いからね」
アンディ様がウィル先生の説明に付け加えるように言った。
そっか、自分で所有していたら確かに借りに行く必要は無いわね。だから図書館もそんなに数がない訳か。
そんな説明を受けながらも歩を進めると、図書館の前についた。図書館の扉の前には司書教諭さんか学校司書さんかは分からないが、優しげな目元の女性が立っていた。
歳は50代くらいだろうか。髪は後ろでひとつにまとめており、服は若草色の丸襟ブラウスに紺色のフレアスカートを着ている。
私たちが近づくと、その女性は優しく微笑んでスっとカーテンシーをして見せた。
「ようこそ我が図書館へ。今日の出会いをとても嬉しく思います。私は司書教諭のアンジェリカと申します」
優しい聖母のような笑顔を浮かべて挨拶をしてくれる。優しげな人だなと思いながらも挨拶を返し、それから、その人の案内で中へ入ることにする。
図書館の扉から中へはいると、扉には前世にもあった不正持ち出し防止用のアラームの鳴るゲートが設置されていた。
おもわずじっと見ていると、
「興味があられますかっっ!?」
近くで少し興奮したような声が聞こえた。だが、図書館だからか声は小さめだ。
「え……?」
その声に振り返ると、先程の司書教諭さん、アンジェリカ先生が私の袖をひしっと握っていた。先程の聖母のごとき優しげな目元はすっかりと失せ、獲物を見つけたようにギラリとした目をこちらに向けている。
驚きつつもどうしていいか分からずアンジェリカ先生の方を見ていると、
「あー、始まっちゃったか……」
と私の少し後ろからウィル先生の声がした。どういうことだろうか?と思いながらウィル先生の方へ視線を向けると、ウィル先生は諦めたような呆れたような顔をしていた。
その隣に立つアンドレア様も私に何故か不憫そうな瞳を向けている。アンディ様はよくわからないといった顔をしているが。
アンジェリカ先生はそんな私とウィル先生たちを気にする様子もなくそのギラギラした瞳のまま高速でまくし立てるように、それでいて図書館だから気を使ってか静かに言葉を紡ぎ始める。さながら高速ミシン縫いのようである。
「これはですね、ブック・ディテクション・システム、略してBDSというものでして。貸し出し処理をしていない本、つまりバーコードの磁気を消去していない本か通るとブザーが………」
話し始めたアンジェリカ先生に戸惑う。すると、ボソリとウィル先生が囁いてくれた。
「アンジェリカ先生は本のことになると人が変わったようになるんだよん。ところ構わず説明したおすんだ」
「……え?」
「ちなみに説明しきるまで解放してくれないから覚悟した方がいいと思うよん。まあ、頑張って……僕達は図書館内を散策しているから」
ウィル先生はそれだけ言うと、アンディ様とアンドレア様とともにさっさと退散して行き、後にはキラキラ……いやギラギラとした瞳のまま楽しそうに図書館について語る私とアンジェリカ先生が残された。
「レベッカ様!興味がおありでしたら、他のところもご紹介させていただきますわ!」
「……え、あ……」
「こちらにお越しになってくださいまし。司書室を御案内いたしますわ」
そう言われ、反論するまでもなくズルズルと引きずられるように司書室へ連れていかれたのだった。
読んで下さり、ありがとうございます!
次回の更新は……ごめんなさい、断言できません……。
書き上がり次第上げさせていただきます。
こんな作者ですが、よろしくお願いします……。
見捨てないでくれると嬉しく思います。




