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53話★魔法と視線

危ないっ!


と思ったらその瞬間、ぐにゃりと水人形が歪んだ。


アンドレア様が間合いに入ってきた水人形に一瞬で何やら赤い光を纏った何かを撃ち込んだのだった。


「あれは、火の魔法だよー」


隣からのほほんとした様子で解説をしてくれるウィル先生。アンドレア様は主に水の魔力を使うと聞いていたが、他の魔力も使えるらしい。


「この水人形は、魔法を吸い取る力もあるんだよー。相手が水人形を使っているから、水の魔法を使うと取り込まれてしまう恐れがあるんだよん!だから、この水人形相手には使えないー。多分、先生はレアちゃんが水の魔法を得意とするから態とほかの魔法の練習のためにこうしてるんだと思うよー」


なるほど、あえて得意なことを封じることによって、ほかの魔法の向上を狙っているんだわ。もし得意な魔法が使えたならそれに頼ってしまうもの。


そうやって解説している横でも戦闘は続けられる。水人形は、体勢を立てなおしたらしく、またぶわりと水を纏い、それから水で弓矢の様なものを作り出した。それをアンドレア様に向け、放つ。


放たれた矢はそのまま真っ直ぐアンドレア様に向かっていく。アンドレア様は慌てたように掌を広げると、そこには剣の様なものが現れた。赤い色を纏っていることから火の魔法だと思う。その剣を前に出すと、キーンッと音を立てて矢を弾き返した。その矢の威力からか、アンドレア様はいつもの無表情を少しだけ歪めて後ろに飛び退いた。


「レアちゃんを持ってしても中々倒れないなんて、先生はだいぶ大きな魔力を使ったねぇー。そう言えば、さっき杖と詠唱を行ってたっけ……」


その様子を見ていウィル先生がそうしみじみと言う。そう言えば、先生が水の人形を出すとき、杖を取り出して、何か唱えてたっけ……。呪文みたいなの。


「詠唱をするとどうなるんですの?」


「詠唱も、杖と同様魔法を強化するんだよー。魔力の安定ができるんだー。話す分、時間はかかっちゃうんだけどね……。小さい頃は詠唱も良くしてたよー。まあ、今回の場合はレアちゃんの魔法に対抗できるように魔力を安定させたんだろうね」


アンドレア様、先生に詠唱させるとか、何者……。


「レアちゃんは公爵子息だから、魔力量も多いんだ。だから、杖を使ったり詠唱をしたりすれば、あの魔法を倒せるかもしれないけれど、今は練習だから、していないみたい。まあ、魔力をいっぱい持ってたって使いこなせなきゃ意味がないからねん」


なるほど、使いこなすために練習するのか……。


ウィル先生と話している間にも、アンドレア様は機敏に動き、そして、その火でできた剣のようなものを水人形に向かってブンっと振りぬいた。


その瞬間、水人形はバラバラと崩れるようにして倒れ、跡形もなく消えた。


どうやらアンドレア様の勝ちらしい。


「あ、レアちゃん、勝ったね!」


アンドレア様は水人形が消えたのを確認すると、ふいっと掌を前に出す。すると、火の魔法でできた剣がふっと消えた。


それから、スっと先生に向かって一礼するとくるりと踵を返して、集団へと戻るために歩き出した。


それによってまた上がる黄色い歓声。アンドレア様の人気、凄まじいな。当の本人はあまり気にしてなさそうだけれど。もしかしたら、学内ファンクラブとかあるかもね!


アンドレア様は、どうやら才能溢れる無敵の無表情天然ボーイのようです。役職多いな……!



★★



その後、授業終わりのアンドレア様と合流して、今度は食堂へ行くことになった。時間は昼過ぎ。時間割で言うと昼休みに入ったばかりだ。食堂見学も兼ねて、昼食を取りに来たのだ。部外者なのに食堂で食べていいのか?と思ったが、見学者なので許可されているらしい。


扉から食堂の中を覗くと、中は茶色を基調とした椅子とテーブルがいくつも並んでおり、シックな感じでまとめられていた。壁は白色。天井は高い。


扉から向かって右側の壁は1面ガラス張りで大きな窓のようになっていて、外は中庭のようで1面の芝生といくつかの大きな木が見える。


向こう側の壁が見えないほどの大きな部屋は、今はたくさんの生徒でごった返している。人の多さに少しだけ驚いたが、4人で食堂へと入っていった。


食堂に入ると、すっと刃物に切られるような視線が身体を突き刺し、ヒヤリと冷たいような背筋が粟立つような感覚を覚える。


悪意のある視線。こちらを伺う__いや、そんな生易しいものでは無い__探るような視線。


久しぶりだなと思い、少し苦笑した。


ここ最近は貴族社会に身を置いていないから、この、お互いをさぐり合うような視線も、表面上はニコニコしている視線にも晒されることはなかった。


そして、今の私は、身分不詳であるため、公爵令嬢とわかって扱われていた母国の社交界とは違う。母国では、失礼にあたるからと何となく隠されていた敵意の視線も、ここでは、隠しもしない。当たり前だけれど。


学校というのは、社会の縮図だ。特にここは貴族の学園。貴族社会と同じルールで動いている。というのも、身分で人をはかり、相手の魂胆を見破り、そして、敵意あるものには表面で優しく接する。


探るような視線は多分初めて来た私を品定めしているのだとすぐ分かる。私が何者なのか、どうしてここにいるのか、何をするつもりなのか、そういったことを読み取ろうとしているのだろう。


そして、予測でしかないけれど、悪意ある視線、敵意ある視線の理由は、私の傍にウィル先生とアンディ様、そしてアンドレア様がいるからだ。


きっと、ウィル先生もアンディ様もアンドレア様も美青年で公爵家の子息。その上、婚約者もいないからきっと令嬢の中でも優良物件ってやつだ。そんな3人と急に一緒に現れた私は、簡単に言うならば邪魔な存在と認識されても無理はない。


でも、そんな視線にも屈さない術は王妃教育で身につけたので気にもせず姿勢よく歩く。こんな視線にびびっていたら色々な人に狙われる王妃なんて務まらないし、一喜一憂していたら身がもたないため対応は身につけさせられた。


まあ、この国ならば魔法を出されればこちらに勝ち目はないけれど。実害がなければ気にしない。


そんなことより、今日は、大切な見学の日だ。視線なんて気にしている余裕はない。せっかくのチャンスを無駄に出来ないのだから、今日は端から端まで余すところなく見て吸収してやる!くらいの心持ちなのだ、私は。


そう思っていると、こっそりと話しかけてきたのはウィル先生だった。


「レベッカ嬢、大丈夫?」


こういう、ちょっとした気遣いができる所はウィル先生のいいところだと思う。アンドレア様とアンディ様はこういった周りの視線には鈍感な様だから。こういうところは兄弟だなって思う。


「大丈夫ですわ。お気遣い、ありがとうございます」


「レアちゃんもディちゃんも、そして僕も良くも悪くも視線を集めちゃうからねぇー」


それから、「ほら、僕ってイケてる男じゃん?」と茶目っ気たっぷりにウィンクをしながら続ける。自分で言うな……と思ったのは私だけかな。


ウィル先生に思わず苦笑を返すと、「ほらほら〜」と言いながらキメ顔を返されたのだった。

✤次回予告的な何か✤

刺すような視線もものともせず食堂へ入ったレベッカ。次回は、「昼食のメニューは何でしょね〜?」な回です。


お楽しみに!



【次回の更新は、4月24日予定!】

ストックがないので、もしかしたら更新出来ないかもしれません……。その時はごめんなさい……。

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