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49話★可能性と本の選定

ジェニーの助言を元に、持ってくる本のことを考え直す。春の陽射しがポカポカと暖かい中、うーんと5人で考えを巡らせる。


「子供向けの本、ということでしょうか?」


私が尋ねると、4人は「そうだね」と言うように頷いてくれた。そして、次に、アンディ様が口を開く。


「それなら、僕が勉強を始めた頃に読んでいた本があるよ」


アンディ様が言うそれは、ちょうど文字の学習を始めた頃に覚えるためにも読んでいたものらしい。簡単な言葉で書かれた物語やすぐに読める詩集など、子供向けで、わかりやすいものが主だと言う。


「僕はもう読むことがないから、学校に寄付するよ?」と続けるアンディ様。なるほど、それはとてもいい。私達が頷いたのを見ると、アンディ様は「じゃあ、また持ってくるよ」と言ってくれた。


「でも、それだけに、つまり簡単なものだけに基準を合わせちゃうと、本の数が減ってしまうし、慣れてきた子がいたら、もう少し難しいものを読みたいって思うんじゃないかなぁ?」


今度はウィル先生が問題提起をする。すると、それに答えたのはジェニーだった。


「あの!初級、中級、上級などのように難易度別に分けて置いておくのはどうでしょうか?」


「それなら、早く難しい本を読みたいって思って、やる気も出るかもしれないわね。でも、いじめに繋がらないかは少し心配。マーク公爵領の子供たちは、利発でいい子が多いから大丈夫だとは思うけれど……」


「いじめに……?」


私からそんな言葉が出てくると思わなかったのか、ほかの4人はポカンとした表情をしている。


「ええ。こんなのも読めないのか、とかたくさん読める人が読めない人をいじめる、なんてことがあったら嫌ですわ」


私が頷いて言葉を続ける。


いじめ、というものは、人が集まる以上、起こりうることだ。綺麗事のように、「いじめなんておこらない!」なんて言うことはできない。


この、本読む読めないに関して以外でも些細なことからいじめに発展する可能性を考えなければいけない。


全員が同じ人ではないのだから衝突することもある。むしろない方がおかしいし、衝突することはいいことではある。お互い、意見を出し合えると言うのはとても素敵なことだ。


でも、それが行き過ぎる、つまりは、自分の意見が通らなければ相手を排除するなんてことになったらそれはいけない。


「それは、多分レベッカ嬢の教育の仕方次第だねぇ……。出来る子が出来ない子をいじめるのではなく、出来る子が出来ない子を教えるといった風潮を作り出せるいいんだけど」


ウィル先生が真剣な顔になって言う。


「これは、私の学級経営の腕が試されるってことでしょうか」


「そうだね。まあ、僕も伊達に学校の教師やってた訳じゃないから、何かあれば手伝いもするし、対応もするけれどね」


ウィル先生は真剣な表情を少し崩してパチンとウィンクをしてくれた。ウィル先生がいてくれると、心強い。


「ありがとうございます。……ごめんなさい、話を逸らしてしまいましたわ。本は、難易度で分けて置くことでいいと思いますわ」


「では、その方向でいこう。初級には、ディちゃんの本でいいね?レベッカ嬢の本の難易度はどれくらいかな?」


「マナーや礼儀作法の本でしたら、そんなに難しいことは載っていないと思いますので、中級くらいでしょうか?文学は私が文字を習ってだいぶ経ってからでしたから、上級かもしれません」


ウィル先生の質問に、自分の本棚におさめられている本たちを思い浮かべながら答える。


私は学校にはいかなかったけれど、淑女教育の一貫として文字を習った。10歳から王妃教育も入ったから結構厳しかったな……と当時のことを思い出しながら苦笑する。


「なるほど。じゃあ、ディちゃん、さっきの初級の本にはどんな内容が含まれるの?」


「歴史や神話ついての物語や詩かな。それほど詳しい内容は書かれていないと思うけれど。詳しいものも置きたかったら、父上の本かな。多分上級に分類されると思う」


「初級と上級の歴史や神話、哲学についてはディちゃんのところから持ってくる、中級にあたる礼儀作法の本と文学はレベッカ嬢のところからもってくるということでいい?」


ウィル先生がまとめてくれ、その言葉に私たちはコクリと頷く。すると、アンディ様が思い出したように、


「魔法に関する本はいる?」


と尋ねた。


「魔法か……。学校では魔法についてもするの?」


ウィル先生はしばし悩んでから尋ねる。


魔法か……。考えていなかった。国がに関することならした方がいいのかしら。私、全然詳しくないけれど。


「どの程度浸透しているのかしら?」


「私たち平民には魔力はありませんから、あまり馴染みはないかもしれません」


「でも、国の歴史を語る上では、魔法の下賜については必須だよね」


「実際に使う訳では無いということで、魔法書などはなしにして、神話に魔法が語られているものを持ってくるよ」


アンディ様が少し悩んだあと、そう言う。


「冊数はどのくらいにされるんですか?」


ジェニーが問いかける。


「そうねぇ、運び込んだ本棚は壁の半分くらいの大きさのものが3つほどだから、ひと項目20冊くらいでどうかしら?」


私が計算をしながら言い、その冊数でいくことになった。定期的に入れ替えるつもりだからそのくらいの冊数で大丈夫だろう。


じゃあ、午後にすることも決まったし、それぞれ本を取りに行こうか、と思っていたら、リリが何やら小さめの紙をわたしとアンディ様にすっと差し出した。


「こちらのメモをお持ちくださいませ」


そこには、先程決めた持ってくる本の内容と、冊数などが書かれていた。つまりは、先程の会議の議事録の小さい版である。


リリ……、我がメイドながら優秀……。


「ありがとう、リリ」


「恐れ入ります」



★★


それから、私の家に行くレベッカ、リリチームと、アンディ様の家に行くアンディ様、ウィル先生、ジェニーチームに分かれてそれぞれの家に向かう。それぞれの家にそれぞれが行き、本を持ってこの学校に再度集合ということになったのだ。


私はリリと2人、馬車に揺られ、自分の家に戻ってくる。ドレスに続いて2度目の帰宅である。ドレスの時と違って、今度はちゃんと予定通りなので、アンナを驚かせることはないだろう。この時間くらいに本を取りに来ると伝えてある。


家に入り、アンナから挨拶をされた後、分かれ、リリと共に書庫にした部屋へと向かう。


ばっと部屋の扉を開けると、ふわりと古い紙の、本の匂いが立ち込め、鼻腔をくすぐった。


私が本をここに置いて期間は短いが、本の匂いが染み付いている。元から書庫であったところに本を置いてあるので、私が置く前にもきっとたくさんの本が置いてあったのであろうと思う。


本の匂い、特に古い本の匂いは好き嫌いが分かれると思うが私は好きだ。新しい紙の匂いも好きだが。前世で生きていた時は、古本屋の匂いも書店の匂いも好きだった。心が落ち着くのだ。


ちなみに、古本屋で本を買うのにも抵抗はなかった。更にいうなれば、「同じ趣味の人だー」と見えない元持ち主に思いを馳せたりしていた。だって、趣味が同じなんて素敵だよ。語りたくなるよね。


思いを馳せていた私に、リリの声が届いた。


「お嬢様、どの本を持っていかれますか?」


「そうね……礼儀とかマナーの本ならこの辺がいいかもしれないわ。初歩のことが載っているの。勉強をして、文官などになる為に試験を受けるのならば基礎的なマナーは身につけておいた方がいいもの」


そう言いつつ、本棚に近づき、数ある本の中からスっと10冊取り出す。他のはどうしようか。


「20冊だったわよね?」


「はい。20冊でした」


リリに確認をとると、頷きながらそう言ってくれた。


どうしようか、基礎の基礎は主にこの10冊だ。これさえ読めば、だいたい身につく。あとの10冊は、少しレベルの高い物入れた方がいいのだろうか。それなら……。


「あとの10冊は、これらにしましょう」


そう、少しレベルの高いものを10冊選び、本棚から取り出す。


次は、文学作品の選定だ。


「私の学校に来るのは、まだ幼い子供達よね?」


教会の孤児院で会ったレーベとリルの姿を思い出す。あのくらいの子、前世で言うならば小学校低学年くらいの子だ。


どの歳の子も拒むつもりはないし、学びたい子は誰でも受け入れるが、領地の感じを見ると、来るのは、大きくても小学校高学年くらいの子たちが主だろう。


その子たちが好きそうな文学かぁ。そう考えながら、本棚を見回す。文学は特に完全なる私の趣味の塊である。


記憶を思い出す前なのに完全に、私の趣味と一致しているのは、思い出していなかっただけで、心の底には私がいた、ということなのだろうか。


「可愛いお話がいいわよね」


本棚を見ながら数冊取り出した。私が小さい頃に読んでいた、お気に入りの本だ。これは、計30冊のシリーズ物になっている。


内容としては、妖精がイタズラをしたり、冒険をしたりしながら成長していくというストーリー。自由奔放な主人公は、周りを振り回しながらも成長していく姿にとても心が打たれた。


私がリリにその本を見せると、リリは優しい笑顔を浮かべる。


「これは、お嬢様が何度も読み返してらした本でございますね」


「ええ。学校の子も読んでくれると嬉しいわ」


「では、持っていく本はこちらから20冊になさいますか?」


「そうするわ」

✤次回予告的な✤

本の選定が終わったレベッカ。学校へと戻ります!!


【次回の更新は、4月20日予定!】

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