44話★乙ゲー世界マジ許すまじ
サブタイトルの回収はきっと最後の方……笑
「し、刺繍は得意なのよ!?」
カーテン作りが始まって数分。小屋に私の声が響く。そして、目の前には、何故か上と下がくっついた布。
本来ならば、ドレスを正方形に切ったものを、色が合うように並べて、ジェニーと手分けして縫い合わせていき、最後に2人分をくっつけて縫い、1枚の大きな布を作るはずだった。
ちなみに、普通のパッチワークならば、後ろにも布を縫い付けるのだろうが、今回は、布があまりないのと、時間があまりないのが理由で、断念した。少し不恰好だが、表だけにすることにする。
正方形に切る作業までは上手いこと行っていたのに、縫いはじめたら、これである。
刺繍はとくいなのだ、これでも。それこそ、王妃教育で褒められたくらいには。でも、裁縫は王妃教育ではしなかったから、どうなるのか、と思っていたが、前世を引きずってしまったらしい。
「何故こうなるの!?」
布を見て唖然とする私に、ジェニーは、優しく笑う。それから、自分の手を止めて、私の布の方を手助けしてくれる。
「大丈夫です、レベッカ様。一旦糸をはずして、ゆっくりしましょう」
「え、ええ。ごめんなさい、少し取り乱してしまったわ」
いけないわ、淑女とあろう者が……。
「いえいえ。いつも落ち着いてらっしゃるので、少し新鮮でした」
ジェニーがクスッと笑う。
「そうかしら……私、普段から落ち着いてはいないわよ?」
「そんなことないですよ。……あ!糸、はずれましたよ!」
私と会話をしながらも、ジェニーは、手際よく間違えてくっつけてしまった布を解いてくれる。任せっきりで申し訳ない……。
「ありがとう……!」
「大丈夫ですよ!こことここを、こう、端と端を合わせるように縫ってください」
ジェニーは、布を持ち上げ、布の端と端を合わせて、繋ぐように縫う仕草をして見せた。
「わかったわ」
「それと、他のところを縫ってしまいそうで心配ならば、反対側の端は分かりやすいようにまち針で印を付けておくのはどうですか?」
「それはいいわ!ありがとう!」
ジェニーの言葉を聞き、ひとまず、まち針で端を止め、印にする。こうすればきっと、間違って縫おうとした場合に気づく。
そうやってから、チクチクとまた縫いはじめる。
2人で正方形をひたすらに縫い合わせる。ちなみに、普通友達と2人ならキャッキャウフフという感じで楽しくやるのだろうが、私にはその余裕がない為、ただ黙々と針を布に通すのを繰り返す。
すると、だんだんと形になってきて、少し嬉しい。
これで大丈夫!今度は上手く行きそうだ!
と思ったのに!!
「あああ!またやってしまったわ!!」
今度は糸が絡まった。刺繍糸の時は絡まらないのに、どうして!?私、裁縫に嫌われてる……?!とりあえず1度、玉留めをして糸を切る事にする。
その間、ジェニーは、目にも止まらぬ早業でどんどんと布を大きくしていっている。ジェニー、スゴすぎる……。そして、絡まった糸と格闘している私をみて、アドバイスまでしてくれる。
「あ、レベッカ様!糸が絡まりやすいひとつの原因は、糸が丸まっているからだそうです。なので、こう、糸の両端を持って弾くか、爪で延ばすと少しマシになりますよ」
「なるほど……わかったわ」
ジェニーに言われたとおりにすると、糸がまっすぐになり、少し絡みづらくなった。ジェニー凄い。天才。
また黙々と裁縫を続ける。多分今日中に完成させるのは無理だろうから、また明日もね、なんて思いながら。
裁縫の天才にはもちろん劣るが、進むにつれて、私のぎこちなかった手つきも幾分かみられる動きになってきたのではなかろうか、と思う。少しは成長しているらしい。
そのとき、
「レベッカ、ジェニファー!」
声が聞こえる。声の主を見ると、栗色の髪をなびかせた、アンディ様が颯爽と現れる。後ろには、ウィル先生とリリもいる。
「家具は運び終わったから、手伝いにきたよ」
そう言って微笑むアンディ様。その声に周りを見ると、小屋の中央、つまりレベッカ達のいる位置からは真隣となる、には、整然と並んだ机と椅子。その机と椅子の塊を挟んで向かい側には綺麗に、そして、太陽光を避けるように並んだ本棚達。
「す、凄い……」
思わず声を上げてしまった。ジェニーも超高速で縫い物をしていた手を止めて、その並んだ家具達の整然たる様子を目を大きく見開いて見ている。
「へへん!でしょう?」
ウィル先生が自信ありげに微笑む。
「はい、凄いです!アンディ様、ウィル先生、リリ、ありがとう!!」
「いえいえ」
「ぜーんぜーん」
「お嬢様の頼みとあらば」
そう言って3人は微笑んでくれた。
それから、3人は近くにやってきて、カーテン作りを見やる。それから、布を不思議に思ったのか、当たりを見回し、そして、その目は3人同時にその辺に散乱しているドレス……であったものへと向けられた。
「これは……?」
アンディ様が恐る恐ると言ったように問いかけるから、
「ドレスですわ」
あっけらかんと言い放った。その言葉に呆然とした3人であったが、思わず、といったように吹き出す音が聞こえた。ウィル先生だった。
「ほーんと、レベッカ嬢は面白いよねぇー」
ケラケラと笑うウィル先生。
「……そうでしょうか?」
不思議そうな私を他所に、今度はリリが口を開く。リリは、そのドレスであったものの方への近づくと、その断片を広いあげ、
「……これって……」
殿下から頂いたドレスですか?と言外に問いかけた。わたしが頷いてみせると、意地悪そうな笑顔を浮かべるリリ。それから、その顔と似つかぬ明るい声で、
「それでは、遠慮なく切り刻めますね!」
と言い放ったのだ。
あれ、いつかのデジャヴ……?
それから意気揚々とカーテン作りに加わったリリと、未だ笑い続けるウィル先生と、何となく取り残された感のあるアンディ様が作業を始める。
そして、5人でやれば作業も捗る。特に3人は、ジェニーには劣るが充分高速で縫い物を進めていく。え、みんな上手すぎない?
リリはわかるような気がするが、アンディ様とウィル先生は、何故そんなに上手なの……?あんたら、公爵子息でしょう……!?
そう思って尋ねると、
「え?初めてだよん?」
「初めてだけど……」
という答えが返ってきた。
なにそれ、不公平じゃない?
多分きっと、あれだよね、乙女ゲームの世界だからだよね?
解せぬ。
乙ゲー世界、マジ許すまじ。
乙ゲー世界に若干の怒りを抱えながらも、自分に出来ることをしていく。
作業を初めて暫くすると、優しい声がかかる。
「そろそろお昼にしようか?」
✤次回予告的な✤
縫い物に格闘しながらもカーテン作りをこなすレベッカ。そこに神の一言(?)が……。そういう訳で、次回はお昼を食べます!そして、あれについても説明します!!
お楽しみに!
【次回の更新は4月15日予定!】
いつも読んでくださり、ありがとうございます!




