42話★担当振り分け
「それなら、任せてください!」
「どういうこと、ジェニー?」
ジェニーが、自分の胸に手を当てて自信ありげに言った。その言葉に私は少しジェニーの方に身を乗り出して聞く。
「私の家は、主に布を扱った商品を作る仕事をしておりまして。私もある程度はその類のことが出来るのです。……それで、仕切りは無理ですが、カーテンなら作れると思います」
ジェニーが、そう言ってニコッと笑う。
おお!カーテン!!いいかも!今から壁を作るのは大変だけれど、カーテンなら付けやすい。
それに、それなら、閉塞感なく仕切ることが出来るわ!!あまりバッチリ区切っちゃうと、中にいる側も外にいる人側も疎外感を感じてしまうかもしれないけれど、カーテンならば緩く区切れるもの!
「素晴らしいわ!!ジェニー!!」
思わずジェニーの手を握ると、ジェニーは、溢れんばかりの笑顔を浮かべてくれる。天使だ……。
「ありがとうございます!では、作ってきますね!……皆様もそれで大丈夫でしょうか?」
ジェニーの問いかけにみんなそれぞれが頷く。でも、ジェニーだけに任せる訳には行かないわ!
「私にもぜひ手伝わせてちょうだい!!」
……裁縫はできるかわからないけれど……。普段、裁縫なんてしないしねぇ……。
でも、貴族との嗜みとして刺繍はしていたし、そこそこ上手に出来ていたから、大丈夫よ……多分!……わからないけれど。
前世ではどうだったかなぁ……。
『いッッ!!……ああ!また、指ついたー!!』
『え、なんで、布の上と下が繋がってるのー!』
『あああ!!布が破れたァ!!』
………大丈夫よ、うん。だって、今の私は、『令嬢の鑑』だもの!そうよ、大丈夫。
「レベッカ……?大丈夫?」
ふとアンディ様の声が聞こえる。あ、いけない!思考の渦に浸ってた!!
「は、はいっ!」
慌てて顔を上げると、心配そうなアンディ様の瞳とかち合った。少し首を傾げ、眉が少し下がっている。眉の下にある大きな宝石のような青い瞳が心配げに揺れている。
……少しドキッとしたのは私だけの秘密。イケメンだな、おい。
「大丈夫ですわ!それで、どうなさったのでしょうか?」
「ああ、配置はこんな感じって決まったから、次は早速運んで行こうか、って話していたんだけど」
「は、はい!そうですわね!」
私が頷くと、今度はウィル先生が、ピンっと人差し指を立てて聞く。
「それでね、これからの計画としてはー、午前中、つまり、今の間に、できるだけ机とかを設置しちゃってー、昼休憩をはさんでから、本を取りに行こうかなーって思うんだけどー、大丈夫かなん?」
「いいと思いますわ!」
私が返事をするが、アンディ様は、直ぐに、
「レベッカとジェニファー、そしてリリアは、運ぶ方じゃなくて、今からカーテン作りをしてくれないかな?」
と問うた。
かけられたもの、それは、優しさ。重たい荷物を持たせないように、という配慮。ウィル先生もアンディ様の言葉に、大きく頷いた。
「そうだね!その方がいいね!」
「わたくしは、運ぶ方をさせていただきます。その為に参りましたから」
だが、リリはそう言った為、私とジェニーがカーテン担当、アンディ様とウィル先生、そしてリリが家具運び担当となった。
私とジェニーは、邪魔にならないように小屋の端の方、ちょうど職員室になる予定の所に机を集めて陣取る。
そして、2人で座って……早速一つめの難点にぶつかる。
「さて、布、どうしようか」
そう、布である。
裁縫道具は、ジェニーがなにかの為に、と持ってきてくれていたのでそれを使うが、布はさすがにない。何しろ、急に決まったことだからね。
「どうしましょう……?」
「んー……あ!!」
「ど、どうされました?」
「いい考えがあるわ!ジェニー、私の家に行きましょう!!」
「え、あ、は、はい!!」
急に家に行こうと言った私に、少々たじろぎながらもジェニーは頷いた。
そんなジェニーを連れて、一言、アンディ様達に断ってから外に止まっていた馬車へと向かう。馬車へ行くと、馬車を運転してくれている人__ちなみにこの人も私が国外追放された時に馬車を運転してついてきてくれた__が少し驚いた顔をして立っていた。
そして、これは完全なる余談であるが、この運転手、腕も立つ。絶対怒らせたらアウトーなやつである。
「ごめんなさい、私の家まで行ってくれるかしら?」
「は、はい!どうぞ!」
「ありがとう」
運転手が馬車の扉を開けてくれたので、ジェニーの手を引っ張って乗り込む。乗り込んで少しすると、ガタッと音を立て馬車が動き出す。動き出したのを見計らって、ジェニーが口を開いた。
「何をなさるんですか?」
「それは、行ってからのお楽しみよ!」
私がそう言うと、ジェニーは、気にはなったようだが、それ以上言う気がないのを悟ったのか何も聞かなかった。
★★
少し馬車で行くと、私がマーク家からお借りしている家へと着く。運転手にお礼を言ってから馬車を降り、ジェニーの手を引っ張って家へと入って行った。
タッタッタッと勢いよく庭を駆け__淑女として本当には出来ないから傍から見れば早歩きだが、気持ちだけは駆け足で__家へと入っていく。
ジェニーは戸惑いつつも大人しくついてきてくれる。まあ、私が手をね、握って引っ張ってるからなんだけどね。
「お、お、お嬢様!?おかえりなさいませ!?」
家に入ると、アンナが慌ててやってきて頭を下げる。驚かせてしまったかも……ごめん。
「違うの、すぐにまた戻るわ。驚かせてしまってごめんなさい。ちょっと、部屋に取りに行きたいものがあるのよ」
「そうでございましたか」
「だから、アンナは気にしないで。ありがとう」
アンナにお礼を言うと、私はまたジェニーを引っ張る。ジェニーは、
「アンナさん、お邪魔しますー!!」
と言ってから私の後に続いて家へと入っていった。
後に、レベッカ様が風のようだった、とアンナとジェニーは語っている___なんてね。
私は、綺麗に磨かれた廊下を通り、それから、ひとつの扉の前で止まる。
「ここがレベッカ様のお部屋ですか?」
レベッカが止まると、ジェニーが後ろからひょこっと顔を出すようにして部屋__正確にはレベッカの部屋の扉だが__を見る。
「ええ」
「私が入ってもいいんですか!?」
「ええ、いいわよ?どうして?」
何故そんなことを聞くのだろうと思いながらそう、ジェニーの方を見て答えると、キラキラとした瞳と対峙した。
「レベッカ様のお部屋だなんて、ワクワクします!!」
「え、どういうこと……?」
よく分からなかったが、友達のお部屋に入るから、かな??確かにワクワクするよね、うん。
そう納得することにし、本来の目的を達成するために、ガチャりと部屋の扉を開ける。中へはいると、ジェニーも「失礼します……」と部屋の中へ入って来る。
「わぁ!可愛い部屋ですね!」
「ありがとう。マーク公爵夫人が用意して下さったの」
ちなみに、ジェニーは、私の事情を詳しく話している訳では無いが、言いづらい事なのだろうと察して、何も聞いてくることはなかった。何となくて察してくれているのだろうと思う。
「そうなんですね!わぁ、あのテーブル、可愛いです!!」
大きな瞳をくるりと回して大きな笑顔を浮べるジェニー。可愛いなぁと思わずクスッと笑ってしまう。すると、ジェニーは、はっと驚かされた猫のように飛び上がって、
「ご、ごめんなさい、人の部屋、ジロジロ見てしまって……」
と謝る。
「どうして謝るのよ、大丈夫よ?」
「ありがとうございます……少し恥ずかしいです……」
嬉しそうなジェニーを見て、初めて招待したのにあそびじゃないし、お茶も出さなくて申し訳く思う。
そう、ジェニーに言うと、ジェニーはブンブンと首を振り、「来させて頂いただけでとても嬉しいです!」と言ってくれた。
今度、絶対お菓子いっぱい用意してお部屋に招待しよう……!
そう心に決心しながら、私はスタスタとそのまま部屋の中を歩く。といっても、部屋はそんなに広い訳では無いから、目的地にはすぐ着くのだけれど。
歩きながら、
「ねぇ、ジェニー、色々な布を組み合わせて1枚の布にってできるわよね?」
「はい。パッチワークのような感じですね。ですが、何をカーテンになさるんですか?」
「それはね……」
私が向かう先には、クローゼットがある。
私はそのクローゼットを躊躇なく開け、奥の方に入っていたものをバサッと出した。
「これよ!」
読んで頂き、ありがとうございます!
✤次回予告的な何か✤
レベッカの家へとやってきたジェニーとレベッカ。
さて、レベッカがクローゼットから取り出したものとは……?
お楽しみに!
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【次回の更新は、4月13日予定!】




