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39話★記憶

ふっと視界が開けた。


ここは……?


……スミス王国の王宮……?


私ががいたのは母国、スミス王国の王宮だった。何度も何度も王妃教育の為に通ったからよく分かる。


ふと隣を見る。隣にはお父様がいた。


え、どうして……?


という問いが生まれるが私は問いかけるわけでもない。


お父様はどこか緊張したような顔で、こちらに話しかけるわけでもなく真っ直ぐどこかへ向かっている。私もそれに習うように彼の横にピッタリとくっついていて歩く。


私とお父様はそのまま真っ直ぐすすむ。


真っ直ぐ進んだこの先は……確か……国王の部屋……?


そう、国王の部屋だ。といっても国王の自室ではなく、謁見の間である。つまり、玉座があり、国王が座っている場所。国王が日中過ごす場所。国王は、会議以外は大抵ここで、仕事をこなす。部下が持ってくる案件を聞き、時に指示を出し、時に励ます。そういう場所だ。


それから、国王から呼び出しがかかった時は大抵の貴族はここで国王と謁見する。


私やお父様がここを歩いているということは、国王から呼び出されたのだろうか?


ますますわからなくなってくる。


どうして私は、ここに……?

私は、ケイラー王国にいたはずでは?


そうだ、私は、国外追放を言い渡されて、今、ケイラー王国にいる。自らがいる場所はスミス王国ではないはずだ。


そして、予想どおり、私がお父様と一緒に向かった先は国王の部屋だった。


門番のように立つ衛兵に、お父様が名前を告げる。すると、衛兵が国王の部屋の扉を開けてくれた。大きな扉は音もなくゆっくりと開けられる。


私とお父様はそのまま中へ入り、それから、スっと最上の礼をとる。


「参上つかまつりました」


「よく来てくれた、アッカリー公爵、レベッカ嬢。面を上げよ」


そして、私は、先程の問いの答えを、顔を上げてすぐ、知ることになる。


目の前に


まだ元気な前国王陛下と……


まだ若い……10歳くらいの……フラン殿下がいたから。



ああ、




これは




夢だ。




しかも、




これは、




記憶だ。



それも…………



そんなことを考えている間にも夢はどんどん進む。


顔を上げた私たちに陛下は、


「我がせがれのフランだ。レベッカ嬢、君の婚約者になる」


記憶そのままの声でそう告げた。


やっぱり、そうだ。

陛下の言葉に確信を得る。

これは、私と殿下が婚約した時の記憶だ。


もう思い出すことなんてないと思っていたのに。もう思い出さなくていいのに。


フラン殿下のことはもうどうも思っていないが、再度婚約時を追体験するというのはあまり気分のいいものではない。


だって、このまま、私は数年後に婚約破棄されるのですもの。


こんな夢を見るのは、きっと、今日、ケイラー王国の王宮に行って、国王陛下にお会いしたからだ。王宮、という記憶がリンクしているのだろう。


それから、ふっと視界が暗転し、今度はお花畑のような所にいた。


そうだわ、婚約を言い渡されたあと、私と殿下の仲を深めるために、と二人は王宮の庭へ行ってきなさいと言われたのだったわ。


私たち二人は、王宮の庭にあるベンチに並んで腰掛けている。


先程よりも近くで見えるフラン殿下の顔はどこかあどけなくて、そして、緊張を顔の全面に貼り付けたような顔をしている。普段はタレ目(・・・)な殿下の瞳もどこか強ばっている。


若かった、つまり婚約をした時はそんなフラン殿下に少しドキッとしたりもしたっけ。


でも、今は懐かしいな、とは思えてもそんなことは無い。っていうか、懐かしいな、と思える時点で私、だいぶ達観しているわね。


夢の中の二人はそんな私のことは知らず、ポツリポツリと会話を始めた。慣れてきたのか時折、二人でクスクスと笑いあっている。


でも、私は何も感じない。


だって、結末まで知っている、味気ない過去の記憶という名のビデオフィルムを流されているだけだもの。


そこで、小さな私が、何かに気づく。驚いたような殿下の顔に、私は、そっと殿下の胸元を手で指し示す。


「とても綺麗で思わず見入ってしまいました」


指した先のものを殿下が持ち上げる。それは、青を基調とした宝石のペンダントだった。殿下は、そのペンダントをそっと持ち上げた。


「これか」


「はい」


そう言えば、そんなペンダントの話もあったわね。


「これは、私がこの国の王子である証だ。私はこれを授かると同時にこの国の王子として尊敬されるが、将来はこの国を豊かにし、国民を守らなければならない。そういう覚悟の証だ」


そう言ってフラン殿下はニカッと笑った。


この時はまだ、殿下、素直だったのよね……。ただ、真っ直ぐに自分の行く末を見つめて、希望とやる気に満ちていた。


そんな殿下だからこそ、私が支えなければ、と思ったのだもの。


「では、私はそんな殿下を妃としてしっかり支えます。共に苦しみは一緒に背負い、喜びは一緒に喜びます」


そう、誓ったの。

一緒に背負うって。

覚悟を決めるって。

支えるって。


……全て、壊れちゃったけれど。

……全て、散っていったけれど。


殿下は他の女性と共に国を支えると決めたから。


悲しくはない。もう、怒りもない。怒りなんてあの日、婚約破棄された日に全て置いてきたから。



それに、今は、私は幸せだから。


アンディ様がいて、


ジェニーがいて、


マーク公爵がいて、


アンドレア様も


ウィル先生も


ルルーも。


それに、私についてきてくれた


リリも


アンナも。



だから、もう私は後ろは向かないの。

だから、昔の記憶は、もうさようならなの。


私の夢の中での意識はそこで途切れた。

そろそろ目が覚めるのだろう。


でも、もし、これから何度かこの夢を見たとしても、もう心は変わらないわ。

今回もありがとうございました!そして、ブックマークや評価、ありがとうございます!!励みになってます!!本当にありがとうございます!


そして、ペンダントとタレ目は要チェックポイント……だったり……


そして、第1章は、次回で最後です!!


✤次回予告的な何か✤

次回はレベッカは出てきません!(1章最終話なのに……!)その代わりあの人の視点のお話をお届け……!久々に登場する人です。何ならプロローグから出てきてません!


お楽しみに!



いつも本当にありがとうございます!

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