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38話★雷落ちる

国王陛下の部屋を出ると、アンディ様は、私の手を取る。


「……アンディ様?」


「……」


「……アンディ様……?」


「……………」


伺うように何度か呼びかけるが、無言。アンディ様は、私の手を引っ張ったまま歩いていく。彼は、俯いたまま歩いているため、表情は見えない。だが、彼は怒っている。それを感じる。そして、それは先ほどの国王陛下との謁見が関係していることも。そして、私が悪いことも。


「………」


「………」


大人しくアンディ様の後ろをついて行く。アンディ様は、スタスタと歩いて、それから王宮の庭で立ち止まった。すっと私の手を離し、こちらを向く。だが、向かい合っても顔は下を向いていて、その表情はやはり読み取れない。また、無言のまま時がすぎる。


意を決して問いかける。


「……あの……アンディ様……怒ってらっしゃいます……?」


「……怒ってるよ……」


アンディ様は絞り出すような声でそう言った。


そうよね……だって、私がああ言うことによって、マーク公爵家も危険に晒したのだもの。そう言うと、アンディ様はゆっくりと首を振る。


それから、すっと顔を上げた。そこには、ぐっと何かに耐えるような、怒っているような、それでいてどこか心配を滲ませたような形容しがたい表情があった。眉はぐっと顰められて、きゅっとその唇は引き結ばれている。その表情にはっとさせられる。


アンディ様は、それから、しばし沈黙があって、その後、意を決したように言葉を絞り出す。


「違うよ。レベッカが、そんなにも簡単に自分の命を投げ出そうとしたことに、だよ」


じっと真剣な瞳に見つめられる。吸い込まれそうな程青いアンディ様の瞳にそっと涙の膜が張っているのが見えた。だが、涙は流さないというように目に力を入れている。ギッとこちらを睨むアンディ様。


「ねぇ、わかってる?今回は陛下が寛大だったからよかったけれど、あの時は、いつ斬り倒されてもおかしくなかったよ。僕は君を守るつもりでいるけれど、守りきれないことだってある」


そう言ったアンディ様の瞳には、どこか不甲斐なさと悔しさが見えた。


「……アンディ様……」


「お願いだから……無茶はしないで」


いつもの明るい穏やかな顔とは対するように悲痛そうな顔をして言うアンディ様。


それだけ、心配を掛けていたということ、私のために心を痛めてくれた、ということ。


そして、私のために、怒ってくれている、ということ。


私を思ってくれているということ。


「……ごめんなさい……」


そう思うと、謝罪の言葉が自然と落ちる。


謝ると、アンディ様は、今までの表情をふっと緩めた。どこか泣きそうな顔でこちらを見つめる。


「本当にバカ……無事で……良かった……」



★★


その後、アンディ様から、言葉遣いには気をつけること、という礼儀の中でもなんとも初歩的な説教をされ、それから、マーク公爵へと国王陛下のお言葉を報告もした。


そして、どこからかいつの間にかやってきていたリリと共に馬車で家へと帰る。ちなみに、どこから聞きつけたのか、リリも国王陛下との謁見でのことを知っており、馬車の中でも説教をされた。罰として、楽しみにしていたスイーツはなし、と言う言葉と共に。少し気落ちしたが、自業自得なので仕方ない。


私の令嬢力、どこいったのかな。乙女ゲーム内のレベッカ・アッカリーとはイメージがどんどんかけ離れていっている気がする。やらかしが多い、という面では変わってないのかもしれないけれど。


そして、そんなこんながあって今に至る。今は、夕食とお風呂を終え、リリにいつもの如く髪をとかしてもらう。ドレッサーの鏡越しに見えるリリの顔はどこかげっそりとしていて、相当心配をかけた事が伺える。


「リリ、心配かけてごめんなさい……」


「無事だったからもういいです。でも、これからはあんな無茶、しないでくださいね」


そう疲れた顔で返されては何も言えなくなる。今度からは気をつけよう、と思う。私には心配をしてくれる人がいるのだから。


「ですが、お嬢様、学校づくりを認めていただけて良かったですね」


「ええ。これでようやく胸を張って夢を語れるわ」


「本当に、ようございました」


「でも、これからの方が大変よ!だって、本格的に始動したらゆっくりしてられなくなるもの」


「このリリに出来ることがあれば、いつでも言ってくださいましね」


「ありがとう」


そう返事をすると、リリはにっこりと微笑んでくれた。すると、横から張り合うように声が聞こえる。


「レベッカ ユメ ルルー オウエンスル!」


ルルーである。その声に、例の鳥籠にいるルルーを見ると、白い羽を器用に胸に当てて、ドンと来い!といったような格好をしていた。そんな姿に可愛いな、と思いながらお礼を言う。


可愛いというのは、思うだけで声には出さないが。前にアンナに可愛いと言われた時、ルルーは拗ねて、数日間アンナと口をきかなかったらしい。アンナが嘆いていた。


ルルーに可愛いは禁句。

これは、教訓だぞ、教訓!


「ありがとう、ルルー」


「ナンデモ イッテ!」


そう、優しく返してくれたのだった。


「今後はどのようにしていかれるのですか?」


リリが尋ねてくる。今後……ねぇ。どうするかなぁ。


「ひとまずは、建物自体の準備もしなければいけないわね」


正式に許可がおりたから、椅子やら机やら黒板やらを運びいれなければならない。それから、本棚と本も、だ。


必要なものを列挙していくと、リリは、


「準備、私も手伝います。力には自信があるので」


と自信ありげに言う。リリ、力もあるんだ……ほんと、リリってなんでも出来るよね……。


「ありがとう!あ、それから、いつ開校するかの告知もしなければいけないわね」


「そうですね!生徒様、たくさん来られるといいですね!」


そうね!せっかく開くんだもの、たくさんの方がいいわ。


「ええ!いっぱい呼び込みをしましょう!」


「呼び込みをするんですか!?」


ほら、よくあるじゃない、店前で「どうぞ、いらっしゃい!」って。あれをすれば来てくれないかなぁって。大きな声を張り上げて呼び込みましょう!


発声練習でもしようかなぁ。


なんて思っていると、鏡越しにどこか呆れたような視線が向けられる。


「……僭越ながら申し上げますと、それは、学校ではなくて八百屋さんだと思います」


「確かに……」


確かに言われてみれば学校では呼び込みなんてしないか……。いい案だと思ったんだけれど……。


それから、ちなみになのだが、こちらにも、呼び込みとかの八百屋さんはある。貴族街にはないけれど。貴族街はどこも堅苦しいかんじだし。


少し王都から離れると、そんな感じの商店街があるのだ。八百屋さんだけではなく、活気溢れる感じの店が多く、街全体が賑やかで楽しい。


特に、マーク公爵領は、外国との貿易の要だから商売が盛んでとても賑やかである。


「じゃあ、ポスターを貼るのは?あ、でも、それなら貼らせてくれる所を探さなければいけないわね……どうしたらいいのかしら?」


色々な所を回って貼ってもらう手もあるが、許可してくれるか分からないし、貼ってもらっても見てくれるか分からない。


「そうですねぇ……チラシを配る、というのはどうでしょう?」


「チラシかぁ……大変だけれど地道に回った方が目には留めてくれるかもしれないわね」


これはアンディ様に相談ね。

頑張って生徒を集めましょう。


一人改めて決心をする。


その間に、リリは髪をとかし終わっていたようで、「終わりました」と声をかけられる。


「ありがとう」


そうお礼を言い、それから私はベッドに入る。すると、リリがそっと布団を掛けてくれた。


「おやすみなさいませ」


内心、私もう、子どもじゃないわよ……と思うが何も言わず、


「ええ、おやすみなさい」


と言って目を閉じた。


すると、いつしか意識はなくなって、夢の中へと誘われる。

読んで頂き、ありがとうございます!


怒ってくれる人がいるっていいですよね!

怒って、心配してくれる。それは大切にされている証です、たぶん。


✤次回予告的な何か✤

眠りについたレベッカ。ふと意識が浮上したような気がして、目を開けると、そこは……。


どうぞお楽しみに!


よろしくお願いします!


【次回の更新は、4月4日予定!】


✾伝え忘れていたんですけれど、活動報告に、『レベッカの授業ノート』と言う題名で、政治制度のまとめを投稿してます!あの、なんとか省とかのやつです。ややこしいので、自分で確認の意味も込めてまとめました!

✾『更新日記』は、登場人物が担当しております!

合わせてよろしくお願いします!


〔活動報告を読むには?〕

知ってる方も多いとおもいますが、一応……。本ページ最下部までスクロールし、『作者マイページ』をタップするか、『目次』に戻り、作者の名前『花川優奈』の文字をタップしてください!!


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