34話★王都へ
ポカポカとした陽射しが身体を温める。暖かな陽気で、春の一ページを切り取ったかのような気候だ。この国は比較的温暖な気候で、春が一年中続くような季節感である。
それに、特にこの国は、晴れの日が多い。スミス王国は、もう少し雨が降ったり風が強く吹いていたりしたが……。あまりにも晴れが多いのでアンディ様に「この国では雨が降らないんでしょうか」と聞いたことさえある。
アンディ様が言うには、ちゃんと雨が降ったり風がきつかったりすることもあるよ、との事だった。だが、ケイラー王国は、自然神のおかげで比較的天災が少ないけれど、ということも教えて貰った。
スミス王国より、住みやすい気候ね……なんて思ったりした。
そんな暖かなある日、私はリリと共に、馬車で王都へと向かっていた。というのも、先日、マーク公爵に呼ばれて、国王への報告をしに行くことが伝えられたのだ。
マーク公爵は、今日は仕事で王宮に既に向かっていて、どうしても手が離せないため、私とアンディ様が代理で国王へ謁見する、ということが決まった。アンディ様はマーク公爵と共に先に王宮内にいるので、王宮で合流ということになっている。
………私、大丈夫かしら?王宮内に入れるかしら?と少し不安に思う。だって、私はここの民じゃなくて隣国の民だし、私自身まだ他国の王族とはあまり関わりがないし。公爵やアンディ様は知らせてはくれていると思うのだけれど……。
なんて不安を募らせている内心とは裏腹に、馬車は王宮へと近づいていく。でも、不安とともにワクワクもあった。初めて来た王都には、当たり前だけれど、初めて目にするものがたくさんあったからだ。
王都の景色を馬車の窓から見やる。この王都には王宮はもちろんのこと、政治の各機関、各省庁の建物や神殿もある。それに加えて、王族から許可を出された所謂王室御用達のお店なども並んでいる。そして、それらの建物はどれもとても美しく、それが王都を美しい街並みにしている。
私は主に、カフェに興味津々である。なぜか?それは、美味しいスイーツがあるからだ!だって、王室御用達のスイーツなんて美味しいに決まっている!絶対美味しい!
帰りにひとつくらい買って帰っちゃだめかなぁ。そんな目で向かいに座るリリをじっと見つめる。リリは無表情のまま私を見つめていたが、私の視線に根負けしたようにリリはフッと笑顔になる。
「そうですね、帰りに買って帰りましょうか」
「ありがとう!」
やったね!スイーツ!
何にしようかなぁ。ケーキ?クッキー?いや、パイも捨てがたいなぁ……。ビスケットって手もあるよね。あ、あそこの店はフロランタン売ってる!なんて思考をスイーツにとばしていると、そんな私の心を読んだリリから、
「ですが、食べ過ぎはお身体に毒ですから、程々になさってくださいまし」
すかさずご注意を頂きました。
「わかっているわ……」
そうよね!それに、流石に太りたくはないし……。少し、すこーし、残念だけれど。いや、本音で言うと、少しじゃなくて、だいぶ残念だけれど。
うう……。
「フロランタン……フォンダンショコラ……ショートケーキ……」
通り過ぎる店々に並んでいるスイーツを見ながら言う。
「そんな恨みがましい目で見られてもダメなものはダメです」
……そうね、ちょっと聞き分けがなかったわね。もう16歳なんだからそんなんじゃダメね……。
「はい……その分、食べるものは慎重に選ぶわ」
よし、めいいっぱい吟味するぞ!死活問題だもの!
そして、王都にはもちろん、スイーツ以外の店もある。お洋服や靴の店、カバン、それから手芸など自分で色々作るためのものを売っている店、アクセサリーなどなど。こうやって見ていると、まだスミス王国にいた頃を思い出す。
普通、公爵令嬢など位的に高い貴族は、店に来店するのではなく、主に家に店の方から出張でやってくることが多い。店の人が「これがいいだろう」などとだいたい見繕って持ってきてくれるのだ。
だが、個人的には自分で店に足を運ぶのが好きで、よくお忍びで街に出て自ら買い物に行っていた。買わなくてもウィンドショッピングをして、楽しかった。買い物ってワクワクするよね。その時のことを思い出したのだ。また、学校づくりが落ち着いたら買い物に行きたいなぁ。
なんて思っていると、そんな商売街を抜け、遂に王宮が見えてきた。王宮は、上品な建物、という感じであった。母国であるスミス王国の王宮は、豪華の限りを尽くした、まさに豪華絢爛、という感じであったが、ケイラー王国は、豪華絢爛という感じではないものの、落ち着いた色合いで、見る者を穏やかな気持ちにさせてくれる。
国柄かしら?スミス王国は派手なのが好きだったものね。ケイラー王国は落ち着いたのが好きならしい。どちらも素敵だけれど。
馬車は、そのまま真っ直ぐ王宮へと向かい、王宮の門の前でピタリと止まった。門の前には門番と思わしき兵士__多分近衛兵__が二人、背筋を伸ばし、しっかりとした姿勢で立っていた。
私は、止められた馬車から降り、リリとともに門番の前へと歩を進める。久しぶりに令嬢らしい歩き方をした。一人の門番の前にたどり着くと、門番は、こちらを見やり、それから無機質な顔で問いかける。
「お名前とお役職を仰って下さい」
お役職!?って何だ!?公爵令嬢?……でも、私、この国の公爵令嬢じゃないし……。えっと……。
他国の王宮など自分一人で行くことはない。行く時は誰かと一緒だ。だから、何と答えていいか分からず、迷った末に、
「スミス王国公爵令嬢、レベッカ・アッカリーですわ」
と答えた。来る前にもう少し言葉を考えて置くんだったわ。少し挙動不審に見えたかもしれない。一応令嬢の仮面は被っているけれど。
私の言葉を受けた門番は、手元にあった紙をパラパラと捲っていく。どうやらその紙が来場予定者の表らしい。門番は表を確認し終えると、怪訝そうな顔をこちらに向けた。
「本日はスミス王国からの使者は聞いていませんが」
……あー、使者じゃないんだよな……。
「使者ではありません。マーク公爵と……」
と言葉を発しようとしているのに、
「連れの者も一人しかいない……」
「お前、スパイか……?」
隣の柱の前に立つ門番もこちらの方へやって来る。さらに怪しげな顔をこちらに向ける門番たち。
スパイって言葉、兵士さんが使うとすごく違和感……なんて言っている場合ではなかった。
「……尋問の必要がありそうだな……」
不穏なセリフが聞こえてくる。
じっとこちらを見る門番二人。
え、もしかして、私、今、ピンチだったりする……!?
✤次回予告的な何か✤
国王に謁見する日。なのに!門番に止められ、大ピンチ!?さて、どうするレベッカ!!次回もお楽しみに!
【次回の更新は、3月31日予定!】
よろしくお願いします。
そして、図々しいお願いなんですけれど、面白ければ評価(下のお星さまです)や感想下さい!!ご指摘や、こうしたらええよ!とかもお願いします。何分初心者でして……。
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