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31話☆散歩 (アンディ様視点)

30話を越しましたねぇ……。

第1章は、あと数話で終了予定です!

風が優しく透き通るように周りの空気を溶かす。ふわふわと暖かい気候。僕達は教会の裏側にある裏庭に来ていた。


隣を歩くのは、その気候と同じく優しい雰囲気を纏うレベッカ。首を少し傾げて僕の言ったことを聞いてくれていて、その雪のような白い肌が少しバラ色に染っている。


大きいけれど、少し猫のようにつり上がった瞳が優しく細められる。普段はつり目で少しきつそうに見えるけれど本当は優しいことをその瞳が表していて。


風がレベッカの髪をそっと揺らす。


その姿は、素直に美しいと思う。


そんなレベッカは、あっと驚いた表情をして、それから、急に小走りで走り出す。


「レベッカ……?」


「あれは、桜……?」


レベッカの視線の先には薄い桃色の花。あれは、確か、サクラだ。そう珍しいものではないと思うけれど……、なんて思っていると、不意にレベッカが視界から消える。


えっ……と思った時には、レベッカの身体がグラりと傾いていて……。


「危ない……!」


僕はレベッカの方に駆け出し、慌ててレベッカを抱きとめた。


なんとか……ギリギリセーフ……だ。ほっと安堵の一息を吐いていると、


「ア、アンディ様…!ごめんなさい!」


自分の腕の中から、慌てたようなレベッカの声が聞こえる。


「ううん、大丈夫だよ。怪我はない?」


そう言うと、レベッカは、そっと顔を上げた。


その瞬間に香るのは、どこか甘く、優しい香り。いつもより近くに見えるレベッカの顔に、ドキッと心臓が跳ねた。


僕は急速に今の状況を理解する。


間近であった視線。

まつ毛の長さまでわかる距離。


レベッカも状況を理解したのか、彼女の白い肌も、ほんのり赤く染まっていた。


「ご、ごめん……淑女を無闇に抱きしめるなんて……!」


僕は慌てて、されどバランスを崩さないようそっとレベッカを離す。


「い、いえ!助けて頂きましたから!!……あ、えっと、アンディ様、あれ、桜ですか?」


どこか気まずい雰囲気が流れながらも、レベッカが言葉を探すように少し悩み、そう言う。レベッカは、目の前にあった薄桃色の花を指し、そう問い掛ける。


「うん、サクラだよ」


僕が頷くと、レベッカは独り言のように、


「へぇ……こっちにもあるのね……」


「スミス王国にもあるの?」


僕がそう問い掛けるとレベッカは、慌てたような顔をして、


「え、あ、まあ、そんなところですわ」


と言った。何かを隠しているように見えたが、聞いて欲しくなさそうなので聞かないことにする。


「レベッカはサクラが好きなの?」


「ええ、好きですわ。儚い感じがするので」


「そうなんだ。僕もサクラ、好きだよ」


そう言うと、レベッカは、ふふふと笑う。


「どうしたの?」


「アンディ様とこうやって二人でお話するのは久しぶりだなって思ったのですわ」


確かに。こんなに二人で話すのは久しぶりだ。


「そうだね」


「ジェニー、子どもたちのところへ行っちゃいましたし……」


僕の頷きにレベッカはそんなことを言うので、


「それは、僕とふたりじゃ嫌だってこと?」


僕が少しからかってみると、レベッカはあわあわとし始める。


「そ、そんなことないですわっ!」


「ちょっとからかっただけ」


本当にオドオドという言葉がピッタリなレベッカにクスッと笑うと、レベッカはうーっと唇を尖らせる。いつもの令嬢然とした雰囲気からは想像出来ない、少女のようであどけない表情。


「アンディ様、ひどいですわ!」


「ごめん、ごめん」


「………うっ……アンディ様に謝られるとそれ以上何も言えなくなりますわね……」


今度はジトーっと言う言葉が一番形容詞として合っているであろう目をこちらに向ける。


表情がころころ変わる。そんなところも可愛いなぁ、と感じる。


僕、気づいてなかっただけで、相当重症なんじゃ……?


それから、僕達はベンチを見つけ、二人で並んで腰掛ける。


また、穏やかな時間が流れる。


ベンチからは、少し遠くに遊ぶ子どもたちとジェニーの姿が見えた。どうやら裏庭が子どもたちの遊び場らしい。でも、僕の方からは子どもたちが見えるけれど、レベッカからは角度的に見えないようでレベッカは気がついていない。


それを少し嬉しく思うなんて。

そんな自分に少し苦笑する。


今しばらくだけ………


君といたいって思うのは


僕のわがままかな?


「あの、アンディ様」


僕をそんな思考の渦から引き上げたのは、隣に座る人物。遠慮がちにかけられた声にそちらを向けば、思ったより近い位置に彼女の顔があった。心配そうにこちらを覗き込んでいる。


「わっ……!」


それに驚き小さな声を上げると、


「ごめんなさい、驚かせましたか?」


「い、いや、大丈夫」


「でも、お顔が少し赤くなっておられますわ」


そう言って更に覗き込んでくるから、無自覚って本当にタチが悪いよ。今度は先程と立場逆転だ。レベッカの場合は無自覚だけれど。


「大丈夫だよ?」


平然として返したつもりだったけれど、大丈夫かな?


「それならいいですけれど……」


少し不思議そうな顔をするレベッカに、


「それで、なんの話だったかな?」


そう言うと、レベッカは、ハッとした表情をしてから、居住まいを正し、こちらを見やる。それから、ゆっくり息を吸い込むと、


「アンディ様、本当にありがとうございます」


すっと頭を下げた。その動作は誰よりも美しく、気高く見える。


「……え?どうしたの急に」


「……私には、本当に何の力もありません。ただ、自分の夢を語って、好き勝手に行動して、周りを振り回しています」


「そんなこと……」


「いいえ、そんなことあります。そんな私を支えてくれているのは、アンディ様を始め、マーク公爵、ウィル先生、ジェニーやリリ、アンナ……私の周りにいる人達です。私は何も出来ていません………」


そう言って少し悲しそうな顔をするレベッカ。そのまま俯いてしまう。そんなレベッカの方を向き、そっと言葉を紡いだ。


「ねぇ、レベッカ」


「はい……?」


僕が呼ぶと、レベッカは顔を上げる。


「感謝してくれているのは嬉しいけれど、何も出来ていません、は違うと思うな」


「え……?」


「だってね、レベッカ。僕達がレベッカを手伝おうと思ったのは、君が一生懸命頑張ろうとしているからだよ?それは、レベッカの力だし、レベッカの人望だと僕は思うな」


そう、ついて行きたいと思わせるのも立派な力だ。ただ、わがままを言って振り回すだけじゃ人はついては行かない。レベッカのひたむきさがみんなの心を動かしているんだ。レベッカの情熱がみんなをついて行きたいと思わせているんだ。


それは、レベッカの力だ。


そう言うと、レベッカは、少し驚いた顔をする。そんなレベッカに、ふっと微笑みかけ、


「ね?だから、レベッカは、何も出来ていなくないでしょう?」


「……アンディ様はお優しいですね……」


「そんなことないよ?みんな思ってるって。だから、これからもレベッカの大いなる振り回しについていってあげるから、レベッカは大いに振り回せばいいよ」


そう言うと、レベッカは耐えきれなくなったのか、ふっと吹き出した。


「ふふふ、ありがとうございます」


「いえいえ」

ありがとうございました!

ブックマーク、評価、感想、お待ちしております!


次回は、あの人視点でお届け予定!

お楽しみに!


【次回の更新は、3月28日予定!】

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