30話★面談と子どものロマン
祝!30話!!です
アンディ様と二人残され、ジェニーは子供たちと遊びに行ってしまった。リリは近くにいるけれど。
私も子供たちと遊びたかったなぁ、なんて少し残念。
でも、仕事だもの。夢のためだもの。
今は我慢ね。
ジェニーが最後に言っていたことも気になるが、ひとまず私は、アンディ様と神父様、リリ、そして先程告番前に立って教えていたシスターさんとお話をすることにした。
「どうぞ、こちらへ」
神父さんがそう声をかけてくれ、私たちは神父さんに連れられて、教会内を歩く。行く先は、先程の孤児院、そして教室とは別の方向だった。神父さんによると、そちらには応接室があるらしい。
教会内は、落ち着いた色合いで、どこもちゃんと掃除が行き届いていた。
ふわりと優しい風が開けられた窓を通して入ってきて、それは心を穏やかにしてくれる。
その話を神父さんにすると、神父さんはその穏やかな目を優しく細めて、
「孤児院のみんなが掃除をしてくれているんです。私はもう歳ですから掃除などは大変で……そうしたら、リルが孤児院のみんなで交代制で掃除をすることを提案してくれたんです」
とほんとうに嬉しそうに笑いながら言った。
リルは、先程、シスターさんの影に隠れてこちらを見ていたあの小さな女の子だ。
「心優しい子なんですね」
そうアンディ様が笑う。私もその言葉に頷く。すると、神父さんは、嬉しそうな顔をしてから、少し悲しい顔になる。
「そうなんです。ここにいる子は本当に優しいんです。みんなそれぞれ事情があってここに来ていて……苦しいことや悲しいこともあるだろうに、それを全然出さないんです」
そう神父さんは言ってから、はっと我に返ったような表情をする。それから、苦笑しつつ謝る。
「あ、すみません。つい……」
「いえ!子ども達の心のケアをするのも教師の仕事のうちですから!色々なことを聞きたいです」
私は神父さんの言葉に、小さく首を横に振りながら答える。
本当はブンブンと大きく振りたいけれど、ご令嬢の自覚はちゃんとあるから、それは我慢した。
でも、心が伝わるように声には力を込めた。
だって、ここの子ども達も私達の大切な生徒になる。
教師の仕事とは勉強を教えることだけではないのだ。教師は子ども達に信頼してもらわなければならない。任せても大丈夫と思ってもらわなければならない。
そして、子ども達がやりたいことを、学びたいことを安心してできることが大切だ。
そんな学校を作りたい、そう改めて決意した。
「ありがとうございます」
私の言葉に神父さんは嬉しそうに笑った。
そんな話がありつつ、応接室へ着く。
その応接室は、こじんまりしていて、落ち着いた雰囲気が漂っている。それはさながら、神父さんの穏やかさが現れているように見える。
「どうぞ、こちらへお座り下さい」
「ありがとうございます」
神父さんに言われ、部屋の中央にある椅子に腰掛ける。
「なんのお構いも出来なくて、申し訳ありません」
「い、いえいえ!お構いなく!!」
思わず素で言っちゃったけど大丈夫かな。令嬢感欠片もなかったけれど。そう、心配になったが、神父さんは気にする様子もなく、優しく笑顔でお礼を言ってくれた。
「ありがとうございます」
神父さんとシスターさんの向かいに、私とアンディ様が座り、向き合う。
リリはいつもの通り、そっとわたしの後ろについてくれる。リリがこうやっていてくれることによって、いつも頑張れるんだよね。リリには本当に感謝だわ。
「本日は授業を見学させていただき、ありがとうございました」
私がお礼を言うと、神父さんは穏やかな顔のままいえいえと、返す。
「授業は、いつもあのような感じなのですか?」
私は先程の授業を見学した時の様子を思い出して、尋ねる。先程の授業では、シスターさんが黒板の前に立ち、他のシスターさんが机間指導の要領で生徒の周りをまわり、様子を見ながら、わかっていなさそうな子を教えるなどしていた。
私の問いに、今度はシスターさんが答える。
「はい。いつもあの形式でしております。私たちの勉強会では、それぞれが得意なことを交代で教えているのですが、その得意な人が黒板前に立ち、それ以外の者は生徒たちのまわりをまわって、困っている子がいたら補助をしております」
「そうなんですね」
この方法は、現在でもしているし、生徒の理解度に合わせて個別に教えることも出来るのでとてもいい方法だな、と思う。私の作ろうとしている学校でも活かせないかしら。
先生は私とアンディ様がすることになっているけれど……本当は専門的な人がいればいいんだけれどね、という話は置いておいて……私がしている時はアンディ様が、アンディ様がしている時は私が机間指導をする感じかしらね。
そう私たちの学校づくりに思いを馳せていると、アンディ様の声が聞こえた。
「教える中で気をつけていることなどあれば教えて欲しいです」
私も、確かにそれ、気になる……!少し前のめりになりながらシスターさんの話を聞く。すると、シスターさんは、少したじろぎながらも、アンディ様の質問を受け、
「……教える時に気をつけていること、ですか……。そうですねぇ……子どもにわかりやすい言葉を使う、ということでしょうか。私たちにわかっても子どもたちには難しい言葉もたくさんありますから……。できるだけ分かりやすく、そして、子供たちの反応を見ながら言葉を補足したり言い換えたりしています」
それは、シスターさんの授業見学でも感じたことだった。シスターさんは、できるだけ言葉を噛み砕き、わかりやすい言葉を使っていた。
そして、これは、私も前世の教育実習でも指導の先生に言われたことだ。それから、先生は言葉遣いにも気をつけなければならないと言われたのをよく覚えている。先生は生徒の見本でもあるから、変な言葉は使わないようにしなければならない、と。
これは、要チェックね。私の授業でも活かしましょう!
「それから、出来たことはちゃんと言葉に出して褒めることにしています。言葉にして伝えることはとても大切ですから」
そうか、確かに、言葉って大切だ。だって、こっちが勝手に思っていたとしても、相手がエスパーでもない限り思ってることは伝わりはしない。思っているだけではなく、ちゃんと言葉にして伝えないと意味が無い。だって、言葉でだって相手には正確に伝わらないかもしれないのに、言葉にしないならばもっと伝わるはずがないもの。
出来て凄いね、と思ったことは伝える。
ありがたい、と思ったことは伝える。
当たり前だけれど、大切なことだと思う。
これも大切にしなければならないことね。
「それから、声の大きさですね。授業をやってみて思ったのですが、思ったより声って届かないんですよ。教室の規模にもよると思いますが、結構大きな声を出さないと伝わらないです」
「なるほど……」
声の大きさかぁ……。
なるほど……。
発声練習でもするかな……!
「練習しておいた方がいいと思います。それから、黒板の字もですね……。立ててあるものに書くというのは、思ったより書きにくいです」
それは……私も教育実習で思いっきりぶつかった壁だった……。黒板って本当に書きづらいんだよね……。ガタガタになるし、字の大きさバラバラになるしでとても、とても、とっても、大変だったのを覚えている。あとで、指導教諭にスマホで撮った私の板書の写真を見せてもらったけれど、私の書いた字、本当に分かりづらくて生徒に申し訳なくなった……。よく読んでくれたな、と思いました。
板書も要練習ね……。
「板書、練習します……」
「その方がいいと思います」
よし、学校が出来たら練習させてもらおう!!
それから、その後もたくさんのお話を聞けた。たくさん収穫が出来たお話会だったわ。
★★
その後、教会内を見学させていただくことになった。神父さんが「好きに見学してください」と言ってくれたので、お言葉に甘えることにしたのだ。教会内なんて見学したことがないからちょっと嬉しい。
アンディ様と二人で教会内を歩く。リリは少し後ろから付いてきてくれている。リリ曰く、「私のことはお気になさらず、お二人でお話くださいませ」とのことだ。輝くグーサインとともに言われた。
何故に……?
不思議に思ってアンディ様の方を見ても、照れたような恥ずかしいような表情のまま、何も言ってくれなかった。
とりあえず二人で、教会内を歩く。教会内は、たくさんの部屋が並んでいて、探検みたいで少しワクワクする。小さい頃、ちょっと憧れてたんだよねぇ、屋敷探検。なんか子どものロマンって感じがしない?なんの部屋かなーなんて思いながら歩くのが楽しい。
ちょっと子どもに戻ったみたいにはしゃいでしまった……。アンディ様は優しい笑顔で付き合って下さったけれど、リリは後ろの方で苦笑していた。呆れられたかな……。
教会探検の後は、少し外を歩くことになった。外に出ると、優しい穏やかな風が吹いていてふわふわと暖かい。
外に出ると、裏庭らしき場所だった。そして、そこには、薄い桃色の花が咲いていた。これは……
「あれは、桜……?」
そう、日本の桜にそっくりだった。
え、桜って日本の花じゃなかったっけ……?
なんて思いながら、少し近くに寄ろうとして……何かにつまづく……
……あれ?
地面がない……?
読んで頂き、ありがとうございます!
✤次回予告的ななにか✤
ジェニーの策により二人で過ごすことになったレベッカとアンディ。そんな2人の模様を次回は、あの人視点でお届け!
よろしくお願いします( *¯ ꒳ ¯*)
【次回の更新は、3月27日予定!】
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