29話★天使族
その後ルルーにもその事を話すと、「レベッカ ノ キメタコトナラ ルルー サンセイ スル」と言ってくれた。
そして、マーク公爵にも伝えると、そうかいと納得してくれた。だが、何かあった時のためにルルーは預かったままとなった。
ルルーとこれからも過ごせるのは素直に嬉しい。ルルーも喜んでくれた。
そんな事があってから数日。
本日は例の教会を訪ねる日である。
参加メンバーはアンディ様とジェニー、リリと私の四人だ。ジェニーとリリはいつも以上に張り切っていたが、どうしたのだろうか。やっぱり教会にあまり行かないから楽しみなのかな。
なんて考えつつ、道中を馬車に揺られて進むと、目の前に緑色の屋根が特徴的な大きな建物が見えてきた。馬車の運転手__今日は我が家のではなく、アンディ様の家の馬車であるが__が、「あれが教会です」と教えてくれる。そして、馬車はちょうどその教会の前で停車した。
馬車を降り、その建物の中へ入って行くと、中は、いかにも教会といった風貌だった。
扉から真っ直ぐに伸びた赤い絨毯の道。その左右には薄い茶色の椅子が規則正しく等間隔で並んでいる。壁の所々はステンドグラスでできており、そこから差し込む太陽の光がまた、教会内を明るく照らし、どこか幻想的な雰囲気を醸し出している。
茶色の椅子と赤い道を辿ると、正面には木でできた机のようなものがあり、その後ろはこの国で祀られている自然神の象徴である、植物、太陽、海を表したオブジェがある。
そして、その机のようなものの前に、おそらく神父さんであろう優しげな目をした白髪の人が立っていた。
私たちの姿を見つけると、その優しげな人はこちらへやってくる。
「お待ちしておりました。わたくしは、ここで神父をしている、ルーイでございます」
「今日は忙しい中、時間をとって頂き、ありがとう。わたくしは、アンディ・マーク。そして、こちらがレベッカ・アッカリー、ジェニファー・オルティス」
ルーイ神父様の挨拶にアンディ様が言葉を返す。
アンディ様が、わたくしって言ってる!!と少し驚く。まあ、貴族なら公の場などではわたくしって言うのが通例だけれど。でも、アンディ様が言うとなんか新鮮!!
そう思いながら私達も礼をする。それから一通り挨拶をすると、神父様は、レベッカが見学したかった勉強会へと案内してくれた。
そこは、シスターさんが何人かと小さな子供たちが何人かいて、授業の真っ最中であった。
一人のシスターさんが黒板の前に立ち、何やら教えている。だが、教えていることは、農地の耕し方やこれからの生活、そして神々のことと、比較的生活に根ざしたことが多かった。
なるほど、文字や数字の学習などはしていないのね……。社会に出るなら、文字や数字より農地の耕し方やこれからの生活などの実用的な学びが主になってくるのは当然だけれど。
でも、シスターさんの教え方はとても勉強になる。分かりやすく、噛み砕いた言葉で教えている。
そう思いながら見ていると、隣に立っていた神父様がそっと問いかける。
「今日は何故このようなところに?」
「わたくし、学校を作ろうと思っておりますの。誰でも通える、学びたい人は誰でも学べる……」
そう言うと、神父様は少し驚いた顔をしてから、思案する様に一度目を伏せ、
「ここの孤児達もその学校には通えますか……?」
と問いかけた。そして、言葉を続ける。
「ここの勉強会では、勉強を教えると言っても限度があります。私達も別に仕事があったりしますから、時間があまり取れず、主に生活に実用的なことしか教えることが出来ません。この子達の中には、もっとたくさんのことを学びたい、知りたいという子もたくさんいます。ですが、私たちが追いつかないのです。ですから、いかがでしょうか、ご検討頂けないでしょうか?」
そんなの……
「検討するまでもありませんわ!私の作る学校は、学びたいと思う人は誰でも対象になりますの。ですから、是非いらしてください!……と言っても、私も教えられることに限度はありますが……」
私が頷くと、神父様は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「本当ですか、子供たちも喜びます……」
★★
勉強会が終わると、シスターさんと子供たちが挨拶をしてくれた。子供たちは私たちの方をもの珍しそうに見ている。
うん、可愛い。
子供たちが可愛い。
子供たちの可愛さにやられていると、
「ねぇねぇ、お姉ちゃん!」
子供の一人が私の方へとやって来て、クイクイっと私のスカートの裾を引っ張る。くりくりの目が特徴的な男の子だ。シスターさんが慌てて男の子を止めようとするが、私はそれを制して、子供の目線に合うようしゃがむ。
「なーに?」
その男の子は、私の方を見ながら、小さな口を精一杯動かしながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「えーっとねー、お姉ちゃんたちはねー、勉強をするところを作るって聞いた!いっぱいね、色んなことをねー、知れるって聞いた!」
「ええ、そうよ」
私が頷くと、男の子はそのくりっとした目を伏せて、小さな声で、
「………そこには、僕も行けるの?」
と聞いた。
私は、アンディ様、ジェニー、神父様の顔を順にみる。その三人はとても優しげな瞳をしていた。それを見てもう伝えていいんだ、と悟った私は、男の子に向かい、
「ええ、もちろん」
「ほんとっ?!」
その男の子はばっと顔を上げ、キラキラとした瞳で聞き返す。
「ええ、本当よ」
「じゃあじゃあ、リルも?」
その男の子は、今度はシスターさんの後ろに隠れている赤毛の女の子の方を見ながら言った。男の子よりもう少し小さい子だ。その子が、この男の子が言っているリルちゃんなのだろう。男の子は続けて、
「リルはねー、いっぱいいっぱい、勉強できるんだよ!あのねー、頭がねー、いいの!」
その小さな手をいっぱいいっぱいのところで、大きく広げてそう言う。それから、誇らしげに、
「リルはねー、すごいんだよ!」
とても微笑ましい。
そして、私はリルと呼ばれたその女の子の方を見る。リルちゃんは、こちらを見ていたが、恥ずかしがり屋のようで、私と目が合うとシスターさんの影に隠れてしまった。そんな様子を微笑ましく思いながら、
「もちろんよ。リルちゃん……でいいのかしら。あなたもぜひ来て」
と言うと、リルちゃんは、ほんの少しだけ顔を出して、こくんと頷いた。その頬は少し赤らんでいて、
天使がいる。天使がいっぱいいる!!
ジェニーもアンディ様も天使族だと思っていたけれど、リルちゃんやこの男の子も天使族だ!!!
なんて心の中で身悶えつつ、顔には出さないようにしておいた。頑張った、私。
「あなた、お名前は?」
そーいえば、男の子のなまえを聞いてなかったと思って問いかけると、
「僕?僕はねー、レーベ!!お姉ちゃんは?」
わ、なんか近い!!!
親近感!!!
「私はレベッカよ」
私が名乗ると、男の子、改め、レーベは、ぱああっと顔を輝かせた。
「わあ!なんか似てる!!!」
「そうね!」
それから、レーベは、私の後ろのアンディとジェニーの方を向く。
「お姉ちゃんとお兄ちゃんは?」
そう聞かれた2人も少ししゃがんで、レーベと視線を合わせる。
「私はジェニファー。ジェニーって呼ばれています」
「僕はアンディだよ」
「レベッカお姉ちゃん、ジェニーお姉ちゃん、アンディお兄ちゃん、よろしくおねがいします!」
レーベはそう言うと、ぺこりとお辞儀をする。その姿も可愛い。それから、何人かの子供たちもやって来て私やジェニー、アンディ様の袖をグイグイと引っ張る。
「遊んでー」
可愛い!!
あ、でも、これから、シスターさんや神父様とお話をしなければならない。そう思い、どうしようかと迷っていると、ジェニーが前に出る。
「じゃあ、私と遊びましょ?」
と子供たちに言ってから、こちらを振り向く。
「アンディ様とレベッカ様はおふたりで行ってらしてください!!そして、お話の後も話すこともあると思いますからおふたりでお話ください」
なぜかジェニーは、おふたりで、を強調して言う。それから、アンディ様の方向に向かって、何回か頷いてから、ぐっと手を顔の前で握って、励ますような素振りを見せた。
なんのことだ……?と私は不思議だったが、アンディ様の方をみると、少し赤くなった顔で苦笑いをしていた。
え、どういう表情!?なになに!?仲良し!?
私、仲間はずれなんですけれど!?
不思議そうな顔をしているであろう私に、ジェニーは、こちらを向いて
「レベッカ様も、頑張ってください!」
え、え、え、何が!?
✤次回予告的な✤
ジェニーの策略(?)により、2人になったレベッカとアンディ。さて、どうなる!?次次次回(めっちゃ先やんとか言わない)は、初のあの方視点のお話もお届け予定!!
お楽しみに!
✤人物紹介のこーなー✤
✾レーベ
教会の孤児院にいる男の子。穏やかな子で少し幼さを見受ける。優しい子。
✾リル
教会の孤児院にいる女の子。レーベより歳は下だが、しっかりしているらしい。恥ずかしがり屋。勉強がよく出来る。
【次回の更新は、3月26日予定!】




